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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十二章:転生者の仕事編
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幕間:動画配信者としての活動

 転生者の一人、ケントの視点です。

 人生、何があるかわからないものだ。

 一度死んだ身でありながら、魔物の体を与えられて異世界に転生し、そこで暮らすことになる。これだけでも、一生かかっても味わえないような奇跡だろう。

 それに加えて、ローリスさんという、特殊な能力を持つ人に見つけてもらい、人の姿に戻れたし、ダンジョンで見つけた魔法陣によって、前世の世界に戻ってくることさえできた。

 もはや、なんでもありである。いくら、異世界というありえない場所に転生したという前例があるにしても、短期間に色々起こり過ぎだ。

 この調子で行けば、元の世界で、再び平穏に暮らすことも夢じゃないとさえ思えた。

 実際、それは一部叶った。元の世界に戻って来て、そこで暮らせるようにローリスさんが手配してくれた。

 後は、仕事を見つけて自立していければいいなと思っていたのだけど……。


「ほら、ケント、撮影するよ」


「なあ、それ俺もやらなきゃだめか?」


「何言ってるの! ケントはリーダーなんだから当然でしょ」


 仲間の手によって、ずるずると引きずられていく。

 撮影というのは、動画用の撮影のことだ。

 以前、俺の正体がばれかけるという事件が起きた。SNSに写真が拡散され、それを止めるために発信元の人物と会おうとしたら、それが記者であり、質問攻めに遭った。

 別に、現代において、俺のような人外の存在がいることを信じる奴はいないだろう。いたとしても、普通はコスプレとか着ぐるみとか、そいういうものを疑うはずだ。

 しかし、その記者はこちらが人外であることを確信しているかの様子で、迫ってきた。

 正体を暴かれそうになった俺は、一緒に来ていたハクさんの助言に従い、あれは動画用のコスプレなんだと言い張ることにした。

 今考えると、結構苦しい言い訳だったように思えるけど、何とか危機を脱することができた俺は、実際にやらなければ怪しまれるということで、動画を投稿することになった。

 初めは、一、二本程度上げるだけでいいかなと思っていたけど、このことを知ったローリスさんや他の仲間達が興味を示し、自分もやりたいと騒ぎ始めた。

 特に、全権を担っているローリスさんがやりたいと言えば断れるわけもなく、俺達は共同で一つのチャンネルを使い、人外配信者としてデビューすることになったのである。

 最初に投稿した自己紹介動画が受けたのが嬉しかったのか、みんなはやる気を漲らせ、次もどんどん撮って行こうと息巻いているわけである。

 俺としては、もうやらなくていいんじゃないかと思っているけど、初めに投稿したのが俺だからという理由で、リーダーの役割を押し付けられ、しぶしぶやらされているって感じだ。

 全く、どうしてこうなったのか。


「せっかくだしコラボとかしようよ。むしろ、同じチャンネルの者同士、一緒に動画撮るのは普通だよね?」


「だったら他の奴らと撮ればいいだろ。俺は今眠いんだよ……」


 人外配信者としてデビューはしたが、別に、これを本業にするつもりはない。

 本来なら、ローリスさんの父親である正則さんから、仕事を斡旋してもらったので、その仕事をすることによって、徐々に社会復帰していこうって話だった。

 その仕事は、夜間の警備員であり、基本的には夜の出勤となる。

 昨日も、その仕事を全うしてきたばかりであり、仮眠を取ったとはいえ、まだ眠い。

 せめて、夕方頃に声をかけてくれたならまだやる気もあったものを。


「そんなこと言わないでさぁ、一緒に遊ぼうよぉ」


「元気だなぁ……」


 一応、こいつも同じ職場で同じくらいの時間まで働いていたはずなんだが、なんでこんなに元気なんだろうか。

 確かに、魔物の中には体力があって、ほとんど寝ない奴もいると言えばいるが。

 こうして騒がれたんじゃ寝るに寝れないし、付き合うしかないか。


「わかったよ。で、何をやるんだ?」


「これやろ、これ」


 そう言って取り出したのは、有名なイカのゲームである。

 このゲームも、発売からだいぶ経っていると思うが、未だに大会が開かれるほど人気のゲームでもある。

 まあ、これなら別にいいか。

 魔物になった影響か、今の俺は動体視力など、様々な能力が引き上げられている。

 特に視力はすこぶるよく、前回やったFPSゲームなら、画面のわずかな違いを見つけて敵を発見するなんて簡単なことだった。

 このゲームは、本格的なFPSと違ってかなりマイルドだし、そもそもFPSでもないけど、やるべきことはそう変わらない。

 そんな本格的にやったことはないが、十分上位に入れるだろう。


「はいはい。じゃあ準備しろ」


「やったー! すぐに準備するね」


 そう言って、撮影の準備に取り掛かる。

 このゲームには、メモリープレイヤーと言って、後から試合を観戦することができる機能があるから、わざわざ二人分撮影する必要はないけど、まあ、あっちもデータは欲しいだろうし、別にいいか。


「お、撮影するのか?」


「イカやるの? 私もやりたい!」


 と、準備をしていると、他のメンバーの何人かが入ってきた。

 この部屋狭いんだから、あんまり一気に入って欲しくないんだけど……。

 元々、ゲームするからには音が気になると思うから、知らせるつもりだったけど、なんでこいつらはすぐに俺の部屋に集まりたがるんだろうか。

 いいじゃん、リーダーとか気にせず勝手に動画撮れば。


「じゃ、みんなでやろうか。ゲーム機はあるよね?」


「ばっちり支給されてるぞ」


「太っ腹よね」


 言われてみれば、こうしてゲーム機を用意してくれるあたり、正則さんも気前がいいよな。

 まあ、一番の理由は、ローリスさんがねだったからって言うのはあるだろうけど、これ今でも結構高いと思うんだけどな。

 少なくとも、二台も三台も買うようなものじゃないと思う。


「それじゃ、順番にやって行こう。まずは僕からね」


「これ、初期の状態からS+を目指すってやってもいいかもしれないな」


「確かに面白そうね」


「勝手にやってくれ」


 確かに、動画サイトを覗くと、そう言った企画をやっている人もいたりするけど、俺はやりたいとは思わない。

 確かに、ゲームに興味はあるけど、この手のゲームは、前世の時に遊びつくしているんだよな。

 今興味があるのは、以前は難しすぎて手を出せなかったゲームである。

 せっかく、高スペックの体と環境が手に入ったのだから、それを活かさない手はない。

 結果的に、あの記者の手の上で遊ばれているような気がしないでもないけど、それは仕方ないと思う。


「後でプラべもしようね」


「お、いいねぇ」


「みんな揃ってる時がいいかもな」


「となると、ローリスさんが来た時になるか」


 まあ、色々不満はあるけど、これはこれで、ありなのかなとも思う。

 ただただ平穏に暮らしてきただけの俺が、異世界転生をし、巡り巡って元の世界に戻って来て、再び平穏な日常を目指す。

 この体になったおかげで、色々と不便も増えたけど、今ならば、より質の高い生活をできるかもしれないな。

 そんなことを考えながら、ゲームに興じるのだった。

 感想ありがとうございます。

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確かに太っ腹だよなぁ
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