第三百五十四話:二人の関係性
その後、サイレンス達は適当に外に放り出されることになった。
なんか、やたら流血していたから、一応軽く治癒魔法をかけておいたけど、随分とえげつないことをするものである。
まあ、それをやられてもおかしくないくらいのことをしでかしたんだから、自業自得だとは思うけど、ちょっと可哀そうだなと思ってしまった。
「ハク、ありがとね」
「え?」
そんなことを思っていると、ローリスさんがそう話しかけてきた。
お礼を言われるようなことなんてしただろうか。
私はただ、ローリスさんが仕留めた相手を、家まで連れてきた程度のことしかしていないのだが。
「あいつ、ハクが連れてきてくれたんでしょ? おかげで復讐できたし、礼を言っておこうと思ってね」
「いや、私はただ、たまたま見つけて尾行していただけですから」
「そう? まあ、でも、こうして機会が回ってきたのは喜ばしいことだわ」
今回の件は、サイレンスのほぼ独断だった。
もちろん、信之さんからローリスさん達を攫って来いと命令は受けていたが、恐らく、そんなの守る気さらさらなくて、最初から殺す気だったのだろう。
そうでなければ、あそこであんな台詞が飛び出してくるとも思えないしね。
信之さんからも、これ以上の命令違反は許さない、みたいなこと言われていたのにやろうとしてたんだから、本当に自分勝手だと思う。
「そういえば、ローリスさんって、葵ちゃんと友達なんですか?」
「葵? ああ、あの子ね、うん、まあ、一応友達だったと言えるんじゃないかしら」
気になっていたので、この際だから聞いてみた。
どうやら、ローリスさん事、茜さんと、葵ちゃんは同じ学校に通い、同じクラスのクラスメイトだったらしい。
会った当初は、お互いに自分の家が敵対しているなんてことは知らなかったようで、無口な葵ちゃんを、ローリスさんが引っ張る形で、仲良くしていたんだという。
関係が進み、自分の親が敵対関係にあることを知った後でも、葵ちゃんはローリスさんのことを友達だと言って放さず、家とはかけ離れた、健全な関係が続いていたようだ。
正則さんとしては、確かに敵対関係にある家の子供と仲良くするのはどうかと思ったが、逆に、これはお互いに同盟を組むことができるチャンスとも考えたらしい。
お互いの子供が仲良くしているのだから、親も表向きだけでも仲良くしておいた方が、色々と都合がいい。
もちろん、裏社会の人間として、見えないところでの抗争なんかはあったようだけど、二人にとっては、特に関係のない、いつもの日常が流れていた。
だが、ある時、ちょっとしたことで喧嘩をしてしまい、数日間離れる時があった。
当時は理由がわからなかったが、今考えると、恐らく他の子と仲良くしたのが原因だったんだろうとのこと。
いずれは謝らなければならないと、機を窺い、なかなかできずに時を浪費していた時、あの事件が起き、ローリスさんは殺されてしまった、ということらしかった。
「敵対関係と言っても、仲良かったんですね」
「まあね。私からしたら、妹みたいな存在だったわ」
その後は、異世界に転生し、苦しい時間を過ごしたものの、今では一国の王である。
元々のカリスマ性もあったんだろうが、とんでもない大出世だよね。
「また葵ちゃんに会いたいとは思わないんですか?」
「うーん、別にそこまでは。私と葵の関係は、私が死んだ時点で終わったものだろうし、そうでなくても、もうあの子も覚えてないでしょ。私は、お父さんと一緒に、面白おかしく生きられたらそれでいいわ」
「そうですか……」
確かに、葵ちゃんの口から茜という名前は出てきたことはなかったけど、あの異様に友達に執着する様子からして、割とトラウマを抱えていそうなんだよね。
まあ、だからと言って、ローリスさんの今の姿を葵ちゃんに見せることはできないし、会いたいと思っていても困るんだけどさ。
少なくとも、ローリスさんが葵ちゃんを恨んでるとか、そう言うことがなくてよかったと思う。
「というか、なんでハクが葵のこと知ってるの?」
「え? あ、えっと、び、尾行していた時にちょっと……」
「ああ、家まで行ったって言ってたわね。それならおかしくはないか」
ほんとはがっつり遊んでいるけど、それを言うのはちょっと憚られた。
いや、多分ローリスさんなら、そこまで気にしない気がしないでもないけど、一応は、敵組織の人間である。
私は、ローリスさんの父親である、正則さんのことを全面的に信用しているけど、敵組織と仲良くしているのを見て、その関係に罅が入る可能性はなくはない。
ああ、でも、さっさと事情を説明しておいた方が、傷は浅いのか?
今のところ、信之さんの家にお邪魔しているのは、ゲームセンターで偶然出会って仲良くなったからってだけの話である。
これに関しては、私は全然悪くないと思うし、むしろ、下手に隠そうとした方が、敵との関係を疑われて、余計に関係性が悪くなるんじゃないかと思う。
まあ、信之さんを連れてこいと言われるかもしれないけど……それに関してはもうどうとでもなれってことにしよう。
やりたくないことはやらないとはっきり言えば、納得してくれるかもしれないし。
そう思って、私はローリスさんに事の次第を伝えることにした。
「ふーん、なるほどね。ただ見てただけではないと」
「は、はい……」
「そこでピンポイントでそう言う関係性を引くのがハクの凄いところよね」
ローリスさんは、特に怒るでもなく、若干呆れたような目でこちらを見ていた。
私だって、狙ってやっているわけではないんだけど、どうしてこうなるんだろうね。
「それで、その、今後は誘いに乗らない方がいいでしょうか?」
「どうして? 普通に遊んであげなさいよ」
「いいんですか?」
「葵は昔から無口で、自分から話すのが苦手だった。そんな葵が、友達と言って放さないんだったら、相当気に入られている証拠よ。むしろ、下手に関係性を断ったら、こじつけでお父さんの下に被害が出るかもしれないわ」
今のところ、私が正則さんの家に来たのは今日が初めてだが、今後も、こうしてお邪魔する機会がないとも言えない。
ローリスさん達の写真が撮られていたことを考えると、この家は見張られている可能性もあるし、そこに私が出入りしていたら、私と正則さんの関係性が疑われる。
そんな状態で、葵ちゃんとの交流を断ったら、正則さんが何かしたからじゃないかと思われ、葵ちゃんを溺愛している信之さんは、何かしらの策を講じてきてもおかしくないってことらしい。
こじつけもいいところだけど、関係性だけを見ると、そう間違った方向性でもない。
確かに、下手に関係を断つのは悪手かもしれないね。
「でも、あちらの世界に帰るとなると、どのみち連絡できませんが……」
「それは仕方ないんじゃない? あっちにも、そう言ったことは伝えたんでしょう? なら、ハクにそれ以上できることはないでしょ。まあ、異世界間でも通じるスマホが作れるなら話は別だけど」
まあ、あちらの世界に行くことによって連絡できなくなるなら、その制限を取っ払ってしまえばいいわけだしね。
単純に世界を超えるほどの電波を出せるわけもないし、そもそも時間差の問題もあるから、正常に使えるわけはないから不可能に近いけども。
とにかく、葵ちゃんとの交流は、今後も続けていった方がよさそうだ。
今回の件が、何かしら影響がなければいいなと思いつつ、帰宅するのだった。
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