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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十二章:転生者の仕事編
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第三百五十二話:偶然の出会い

 その後、ローリスさんは、動画がそろそろできるかもしれないからと、その場を後にした。

 まあ、トラウマを抱えることなく、今を楽しんでいると考えれば、いいことなのかもしれない。

 他の転生者にも、軽く挨拶をした後、私は一夜ひよなのマンションへと帰る。

 しかし、サイレンスか。写真で見る限りは、結構若そうな女性に見える。

 こんな人が、平然と殺しをするのかと思うとちょっと複雑だけど、まあ、一応犯罪者だし、なくはないのかな。

 もし会うことがあったら、まずは尾行して、根城を見つけ出す。

 まあ、根城という意味では、信之さんの家がそれに該当するのかもしれないけど、今のところ、信之さんの家で会ったことはないし、別で家を持っている可能性が高い。

 家を見つけられたら、忍び込んで情報を探し出し、信之さんが絡んでいるかどうかを確認する。

 もし見つからないなら、直接問いただすってところだろうか。

 サイレンスがどれほどの暗殺者なのかは知らないけど、私なら、恐らく対処は可能なはずである。

 少なくとも、この世界の人達は、魔法は使えないはずだからね。それだけでも、十分すぎるアドバンテージである。


「まあ、そんなすぐに会えるはずもないから、しばらくは様子見になりそうだけど」


 何の手掛かりもなしに、会えるとは思っていない。

 それこそ、信之さんの家を張って、出入りを確認するくらいしないと会えないと思うし。


「……っと」


 考えながら歩いていると、目の前の信号が赤になっていることに気が付いた。

 危ない危ない、危うく車にぶつかるところだったね。

 別に、帰るだけなら転移魔法を使えばいいんだけど、今は少し考える時間が欲しかったから、そのためにわざわざ歩いて帰っている。

 結局、答えとしては様子見になりそうではあるけど、どうしたものかねぇ。


「……ん?」


 信号が変わるのを待ちながら、ふと、辺りを見回してみると、信号の先に立っている、一人の女性に気が付いた。

 見た目は、黒のスカートに黒のジャケットと、黒ずくめであり、かなり怪しい。

 スマホをいじりながら、長い金髪をたなびかせ、少しきつめの目つきをしているその姿は、見覚えがあった。

 そう、先ほどローリスさんに見せてもらった、サイレンスと呼ばれる女性、その人である。


「あっ……」


 あまりの出来事にぽかんとしていると、信号が変わり、女性はこちらに歩いてくる。

 スマホに夢中なのか、私のことなど見向きもせずに歩き去っていった。


「え、えっと、と、とりあえず尾行……!」


 まさか、こんなにも早く出会うとは思っていなかったので、ちょっと思考が停止してしまった。

 いったん人目のない場所に行ってから、隠密魔法で姿を消し、後をつける。

 この方角は、信之さんの家の方角に近いだろうか。もしかして、信之さんの家に用があるのかな?

 見つかる心配はほぼないと思うが、念のためちょっと距離を開けながらついて行くことしばし、ようやく女性が足を止める。

 そこは、やはり信之さんの家だった。


「親父、邪魔するわよ」


「サイレンスか。何の用だ」


「ええ、前に言った件、ちょっとは考えてくれたかと思ってね」


 そう言って、サイレンスは座布団にドカッと腰を下ろす。

 対する信之さんは、険しい顔をしながら、立ったまま応対していた。

 話を聞く限り、サイレンスは、とある人物を消したいらしい。

 元々、その人物と信之さんは敵対関係にあり、今までにも、数々の妨害を受けてきた。

 この先、黒馬組が発展するためには、その人物の存在は邪魔であり、であるなら、さっさと暗殺してしまって、楽になろうということのようである。

 しかし、信之さんは、それに反対のようだ。

 確かに、その人物がいることによって、黒馬組が妨害されているのは確かである。ただ、だからと言って殺してしまうのは、明らかに短絡的すぎるという判断のようだ。

 その人物は、財界でも名の知れた人物であり、信之さんと表の顔で面識があるらしい。

 二人の関係は、敵同士というよりは、ライバルのような関係であり、もし殺すとしたら、それは黒馬組が天下を取ってからの話だということらしかった。


「相変わらず考えが古いねぇ、親父は。そんなの、さっさと消しちまえばすぐにでも手に入るものだろうに」


「そうやって、すぐに結論を出そうとするのが貴様の悪い癖だ。茜の時もそうだ。貴様はただ、殺しを楽しみたいだけだろう」


「私は暗殺者、殺すことが仕事だ。私は要望通り、朝倉の奴を殺してやった。その過程で、ちょっと手が滑って娘の方もやっちまったが、結果はそんなに変わらないだろう。私のおかげで、奴は体調を崩し、結果として黒馬組は一歩先を行く形になった。何が不満なのか、私にはわからないね」


「確かに朝倉明海を殺せと言ったのは俺だ。だが、茜は、葵の数少ない友達だった。葵を悲しませるようなことをしておいて、結果は変わらないだと? ふざけるな!」


 信之さんの怒号にも、サイレンスは怯まない。

 話を聞いている限り、ある人物というのは、どうやら正則さんのことのようだ。

 元々は、ローリスさんの護衛であるウィーネさんだけを殺すことが目的だったが、サイレンスの独断で、ローリスさんまで殺してしまった、ということだと思う。

 そうなってくると、信之さんはローリスさんを殺すことを望んでいたわけではないっぽいね。

 というか、ローリスさんが葵ちゃんと友達だったというのがびっくりだけど。

 黒馬組と正則さんは、敵対関係にある。ただし、その娘同士が友達ってことは、明確に敵対していたわけでもなかったのかもしれない。


「とにかく、奴を殺すのは俺の仕事だ。貴様は俺の言われたことだけをしていればいい」


「つまんないねぇ。なら、何か命令をよこしなよ。最近何にもしてなくて暇なんだ」


「ならば、例の二人組を捕まえてこい。何者はかわからないが、重要人物である可能性が高いからな」


「ああ、あのちびか。もちろん、殺しちまっても構わないんだろう?」


「いいか? 必ず生かして連れてこい。これ以上の命令違反は、貴様の寿命を縮めることになるぞ」


「はいはい、わかったよ。つまらん依頼だ」


 サイレンスは、やれやれと大げさに手を振った後、立ち上がって部屋を後にする。

 信之さんは、その姿を険しい表情で見守っていた。

 いくつかわかったことがある。

 まず、ローリスさんを殺したのは、サイレンスの独断であるということ。

 信之さんは、ウィーネさんの殺害を依頼していたが、その時にサイレンスが勝手にローリスさんまで殺害してしまった。

 なぜ、ウィーネさんの殺害を依頼したのかはわからないが、生前から、ウィーネさんはかなりの実力者だったらしいし、戦力を削る目的とかだったのかもしれない。

 ウィーネさんの殺害を命じたのは、確かに悪いことではあるが、独断で動いたサイレンスはもっと悪いだろう。

 これが本当だとすれば、サイレンスを連れていくこと自体は、特に違和感はなくなった。

 問題は、サイレンスの次の獲物が誰かってことだよね。

 二人組とかちびとか言っていたけど、そんな人が正則さんの関係者にいるんだろうか?

 よくわからないが、このまま見ているわけにもいかないし、止めなければならない。

 私は、信之さんのことをちらりと見た後、サイレンスの後を追った。

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諸悪の根元かぁ
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