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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十二章:転生者の仕事編
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第三百五十一話:前世の最期

 アパートに着くと、すぐにローリスさんがやってきた。

 どうやら、SNSでトレンドに載ったことをいち早く知ったらしく、私に自慢したくてしょうがなかったらしい。

 ローリスさんの立ち位置だけど、他の人達が被り物に対し、ローリスさんだけは着ぐるみという形だったので、印象に残りやすかったらしく、それ故に多くのコメントを寄せられていた。

 ばれるんじゃないかと少し心配になるが、みんなよくできた着ぐるみですねと称賛していたので、恐らく大丈夫だろうとのこと。

 ひとまずは安心と言ったところだが、それに触発されたローリスさんは、自宅ですぐに次の動画を撮ってきたらしい。

 今、編集担当が編集しているらしいが、今からどんな反応が返ってくるのか楽しみにしているようだった。


「配信者って楽しいわね。癖になりそう」


「楽しむのはいいですけど、あんまり羽目を外しすぎないで下さいよ?」


 まあ、がっつりと全身が映るのは自己紹介動画くらいで、他の動画ではそんな頻繁に映らないと思うから、これから指摘されることはあんまりないと思うけど、例えば、コメントに言われるがまま、自分の情報を答えてしまうとかなったら、やばすぎる。

 もちろん、転生者達の正体や、この場所の住所とかの情報は絶対に流さないとは思うが、自分の好きなものだとか、家族構成とか、どこの県に住んでいるとか、そういうことは話しても不思議はない。

 ネットでは、どんなに小さな情報でも、繋ぎ合わせれば強固な証拠になることもある。

 このくらいいいじゃんという、軽い気持ちで言ったことが原因で、生活が脅かされるようなことがあったら堪ったものではない。

 もし話すなら、私のように、あちらの世界のこととか、キャラに合わせた設定とかを話すに止めた方がいいだろう。


「わかってるわよ。それより、今日はどうしたの? 来なくても呼ぶつもりではあったけど」


「そろそろ、あちらの世界に帰った方がいいと思って、相談しに来たんですよ」


「えー、もう帰っちゃうの?」


 ローリスさんは、あからさまに不機嫌そうな顔をして頬を膨らませる。

 確かに、こちらの世界は、ローリスさんにとっての故郷だし、優しい家族に仲間の転生者がいて、今では趣味も見つけている。

 帰りたくないという気持ちもわからないことはない。

 だけど、ローリスさんはこれでも皇帝である。それも、魔物に転生した転生者を保護するという目的を掲げた、唯一無二の国だ。

 それをまとめられるのはローリスさんしかいないし、残されているウィーネさんとしては、早く帰ってきてほしいと思っていることだろう。

 別に、趣味に没頭するなとは言わないが、オンとオフはちゃんと切り替えてほしいものだ。


「すでに二週間近く経とうとしてます。そろそろ戻らないと、ウィーネさんも心配するかと思いますけど」


「うーん、確かに急な出発だったし、ウィーネにばかり負担を押し付けるのは可哀そうか……」


 元は、正則さんというお金持ちの娘ではあるけど、だからと言って自分勝手にならないところがローリスさんのいいところだ。

 いや、欲望に忠実だから、場合によるとは思うけど、根っこには、ちゃんと周りを慮ることができる清らかさがある。

 説得はそこまで必要なさそうだ。


「わかった、それじゃあ、明日帰りましょう。せめて、今作ってる動画くらいは上げたいし」


「まあ、それくらいならいいですよ」


 流石に、今日そのまま帰るってことになったら、色々と急すぎる。

 配信は、まあいいとしても、前よりは頻繁に会えるとはいえ、一夜ひよなにも心の準備が必要だろうしね。

 明日の朝、あちらの世界に帰る。そう言う方向で進めて行こう。


「ローリスさん、一つ聞いてもいいですか?」


「なによ?」


「その……ローリスさんは、こちらの世界で、何者かに殺されたんでしたよね? その時のこと、何か覚えていませんか?」


 ローリスさんの死の真相。

 本当なら、ローリスさんに聞くのは色々と問題があると思うけど、やはり、信之さんの問題をどうにかしたいという気持ちもあるし、単純に、どういう状況だったのか気になる。

 少しデリカシーのない質問ではあるけど、正則さんからは、ローリスさんを殺害した犯人を連れて来いと言われているし、その情報を得るためと思えば、そこまで不自然な質問でもないだろう。


「急にどうしたの?」


「あ、いや、ちょっと気になりまして……」


「ふーん。まあ、いいけど」


 そう言って、ローリスさんは当時の状況を教えてくれた。

 あの時は、ちょうど正則さんの誕生日が近かったらしい。日頃から、正則さんのことを慕っていたローリスさんは、誕生日プレゼントを買うために、ウィーネさんと共に出かけていたのだという。

 そうして、プレゼントを買い、帰路につこうとしたタイミングで、数人の男達に囲まれたようだ。

 その黒い服装から、すぐに黒馬組の奴らだと気づき、ウィーネさんはローリスさんを守るべく、奮闘した。

 しかし、いくら生前のウィーネさんが強かったとしても、多勢に無勢。何とか逃げようとしたが、囲まれていたこともあり、すぐに捕まって、そのまま殺されてしまったのだという。


「お父さんが写真を見せたと思うけど、あいつらがやったのは間違いないわ。主導となっていたのは、その中でも、サイレンスと呼ばれる女だと思うわ」


 そう言って、ローリスさんは懐から写真を取り出し、見せてくれた。

 確かに、あの時正則さんに見せられた写真の中にも、この女性はいたと思う。


「サイレンスというのは?」


「コードネームみたいなものね。暗殺者って話だから、そこから来てるのかもしれないけど、詳しいことは知らないわ」


「止めはその人が?」


「そうだったと思うわ。と言っても、その時私は泣き叫んでいたから、詳しいことは覚えてないけど……」


 今でこそ、ローリスさんに正面から勝てる人なんてそうそういないと思うが、生前は、ローリスさんも普通の女の子だったらしい。

 だから、戦うことはできず、ウィーネさんが戦うのを後ろで震えながら見ているしかなかった。

 力があれば、多少身を守ることはできるけど、それがないと考えると、確かに恐怖だろうな。

 特に、ローリスさんはまだ子供だっただろうし、その恐怖はトラウマ物だろう。

 嫌なことを思い出させてしまったかな……。


「嫌なことを聞いてすいません……」


「別にいいわよ、もう気にしてないし。それより、私はそいつらの方が心配だわ」


「というと?」


「私としては、今更そいつらがどうなろうと知ったこっちゃないけど、お父さんはそうはいかない。もしお父さんの前に姿を現せば、どんな手を使ってでも、八つ裂きにするでしょう。そう思うと、ちょっと不憫でね」


「そ、そうですか……」


 八つ裂きって、ほんとに殺さないんだよね?

 ローリスさんがそれほど気にしてないのはよかったけど、逆に言えば、相手がどんな目に遭おうが興味がないということ。

 そして、正則さんのことを慕っているなら、正則さんの方針に従うだろうし、もし見つけられれば、ローリスさんの言うように、八つ裂きにされるのは確定している。

 まあ、ウィーネさんを倒す程なのだから、それなりに実力はありそうだけど、転生者達には及ばないだろうし、まじで仕事場に現れるようなことがあったら、速攻で捕まりそうだよね。


「ま、ハクもどこかでたまたま見かけたらでいいから、連れてきてくれると嬉しいわ」


「わ、わかりました」


 首謀者は、そのサイレンスという女性で間違いなさそうである。

 ただ、話を聞いただけでは、信之さんの指示なのか、独断なのかは流石にわからない。

 一番いいのは、そのサイレンスに出会い、話を聞くことだけど、偶然出会う以外に道はなさそうだから、ちょっと難しそうだ。

 私は、念のため顔を覚えながら、万が一会った時のことを考えていた。

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― 新着の感想 ―
大変なことにならなければいいねぇ
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