第三百四十五話:動画の確認
しばらくまったりしながら過ごしていたが、途中で、ローリスさんから連絡が来た。
どうやら、動画が出来上がったから、一緒に確認してほしいらしい。
あの量をもう完成させたのかと思ったけど、それだけモチベーションが高かったってことだろうか。
なんかもったいない気もするけど、ここで行かなかったら、じゃあさっさと投稿するねってなりそうなので、仕方なく行くことにする。
一夜を家まで送り、そのままアパートまで転移する。
すでに時刻は夕方近いが、転移があれば移動時間を気にしなくていいのがいいね。
「あ、来たわね、ほら、こっちこっち」
ケントさんの部屋に行くと、ローリスさんが待ち構えていた。
他の住人はどうしたのかと思ったけど、そちらはすでに確認を終えたらしく、部屋も狭いので自分達の部屋に戻っているらしい。
彼ら曰く、なかなかいい感じの動画ができたと言っているようだが、果たしてどうなることやら。
「……まあ、動画自体は特に変なところはないですね」
皆、基本的には、頭を人外にして、体は人間という姿であり、それぞれの得意分野や今後の方針なんかを話している。
ただ少し違うのは、ケントさんのはかなりリアルな、というか本物の人外頭だったのに対し、他の人達のは、若干被り物臭が強くなっている気がする。
いや、瞬きしたり、質感なんかは確かに本物なんだけど、人外と人間の繋ぎ目のあたりが若干違和感があったり、中には露骨にファスナーっぽいものが見え隠れしている人もいた。
撮影した時は、こんな風にはなってなかったと思うんだけど、これは一体どういうことだろうか?
「編集してる時だったんだけど、流石に、この格好だとリアル過ぎないかって言う話があってね」
「まあ、実際本物ですからね」
「特に私は、着ぐるみと言い張るには表情が動きすぎるし、可動域も広すぎるから、ちょっとまずいんじゃないかってことになったのよ」
まあ、確かに、いくら最近の着ぐるみが精巧だとは言っても、瞬きしたり、耳をぴくぴくさせたりと言った芸当は難しいだろう。
仮にできたとしても、それには相当なお金がかかっているだろうし、こんな個人チャンネルがいったいどうやってそのお金を捻出したのか、とか色々疑念を持たれる可能性がある。
特に、ケントさんは一時期SNSで本物の人外なんじゃないかと言われていたほどだ。いくら動画越しとはいえ、本物だとばれる可能性は十分にある。
だから、あえてそこら辺を雑にすることによって、作り物感を増し、ばれにくくしようってことになったようだ。
「最近の編集って凄いわよね。後から色々つけられるっぽいし」
「そこまでやるなら配信しなきゃいいのでは……」
「ダメよ。こんな面白そうなこと放っておけないわ」
ある程度ばれるリスクを負ってでも、配信したいのか……。
いや、最悪この場所が特定されなければどうとでもなると思うけど、ローリスさんにも困ったものである。
でも、今まで引きこもって碌に会話してこなかった人達が、ネット越しとはいえたくさんの人と会話する機会を得るのはいいことなのかな。
今は動画だけど、いずれは生配信とかしたりすれば、リアルタイムで会話することもできそうだし、みんなの社会復帰を後押しするという意味では間違ってないのかもしれない。
まあ、細かいところはローリスさんに任せる。私が発端だから、私もできるだけ協力はするが、流石に後から始めた人達の面倒まで見ていられない。
仕事もあるし、それに支障が出ない程度に頑張ってほしいね。
「それで? このまま投稿してよさそう?」
「まあ、いいと思いますよ。どう編集したのかわかりませんけど、背景も違うものになってますし」
ケントさんの時は、まんまこの部屋の背景だったけど、みんなの動画は、なにやらおしゃれな部屋だったり、自然溢れる森だったり、色々とバリエーションがある。
わざわざ背景作ったってこと? だとしたら、結構な労力がかかってそうだけど。
編集の心得があると言っていたけど、結構技術があるのかもしれない。
「オッケー。それじゃ、このまま投稿しちゃうわね。一体どんなコメントが付くのか楽しみだわ」
「人気が出るといいですね」
ケントさんの時は、割と好評な様子だったけど、そこからさらに六人も一気に追加されるとなったら、どうなるかわからない。
気に入られたとしても、人気はばらけるだろうし、そもそも、ケントさんの二番煎じって形で、そこまで人気が出ない可能性もある。
まあ、そのための一つのチャンネルで投稿なんだけど、どこまで効果があるものか。
「よし、これで投稿完了ね」
「そう言えば、結局チャンネル名どうしたんですか?」
「それなんだけど、このまま『雷鳥チャンネル』で行こうかと考えているの」
「おや、それまたどうして」
以前は、自分がリーダーになってこのチャンネルをまとめていくんだ、みたいな感じだったのに、どういう心変わりだろうか。
「だって、このチャンネルは元々ケントのものだし、すでにファンらしき人もそれなりにいる。それなのに、チャンネル名を変えて、私がリーダーだって言い張ったら、チャンネルを乗っ取ったみたいじゃない?」
「まあ、事実そうでしょうね」
「だから、あくまでリーダーはケントのまま。私達は、ケントの友達として、お邪魔させてもらっているという形にすることにしたの」
「なるほど」
確かに、ケントさんはまだ動画を二本しか投稿していないが、それでもなかなかに好評なコメントが寄せられている。
チャンネル登録数も、順調に伸び続けているし、ここでいきなり違う人が出しゃばってくるよりは、確かにその方がいいかもしれない。
ケントさん的には、さっさとリーダーを譲りたいって感じだったけどね。
そもそも、ケントさんは私がとっさについた嘘に乗る形で、仕方なくやっているわけだし、そこまでの意欲はないのかもしれない。
まあ、ここまで来たらそのまま突っ走ってみてもいいんじゃないだろうか。
そのうち、配信が楽しくなることもあるかもしれないし。
「まあ、そこら辺の運営のしかたは任せます」
「ええ。配信についてはまだ初心者だし、ハクに頼ることもあると思うけど、その時はよろしくね」
「元は私が原因ですし、その時は全力で手助けしますよ」
さて、一気に六人もの配信者が追加されたわけだが、反応が出揃うのは少なくとも明日になってからだろう。
最悪、正体に気づくような核心に迫られなければ何でもいいので、適度に人気が出てくれたらいいんじゃないかな。
そんなことを思いながら、私はケントさんの部屋を後にする。
さて、どうなることやら。
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