第百九話:聖教勇者連盟
「聖教勇者連盟? なんですかそれ」
勇者と聞くとRPGの主人公のようなのを思い浮かべるけど、この世界にも勇者みたいな役割の人がいるのだろうか。
「詳しいことは知らない。少し調べてみたけど、セフィリア聖教国ってところで勇者召喚の儀って言うのが行われていて、それによって集められた召喚者が集うのが聖教勇者連盟って組織らしい」
どうやら勇者という称号があるわけではなく、召喚の儀によって召喚された召喚者のことを勇者と呼ぶらしい。
召喚と聞くと使い魔的なものを呼び出して戦わせる召喚士という職業を思い浮かべるけど、どうやらこれはその上位版のようだ。
どうやって召喚しているかまではわからないが、呼び出された勇者は皆類稀なる力を持ち、強力な戦力になるのだという。
「遥か昔の時代に魔王と呼ばれる強力な魔物がいて、それを倒すために呼び出したというのが勇者召喚の始まりらしい。ラノベでありそうな展開だよな」
「確かに……」
勇者によって邪悪な魔王は打倒され、世界は平和になりました。めでたしめでたしってね。
でも、それだとなぜ今もそんな組織が存続しているかがわからない。この世界は未だに何かしらの脅威に晒されているってことなのかな?
今まで訪れた街でそういった噂は聞いたことがない。他の国ではどうか知らないけど、少なくともこの国ではそんな脅威に晒されているとは思えないんだけど。
「それで、ユルグさんはどうしたんですか?」
「入ることにしたそうだ。どうにもその組織は転生者を探して匿っているらしくてな。探し人の情報が得られるかもしれないと思って入ったらしい」
「……その勇者って、もしかして」
「ああ。恐らく俺達と同郷だ。転生したか転移してきたかの違いって話だな」
前世で死に、この世界に生まれたのが転生者なら、まだ生きている状態でこの世界に呼び出されたのが転移者だ。
勇者達はどうやってか転生者の事を知り、それを保護しようとしているのかもしれない。確かに、同じ転生者同士なら色々と話もできるだろうし、この世界でどうしたらいいか迷っている人なら保護された方が救われるだろう。
ただ、それって大丈夫なのかな?
アリシアの話だと転生者は皆何かしらの優れた能力を持っている。それを利用すれば、大きな戦力となるだろう。召喚された勇者も何かしらの能力を持っているらしいし、それを合わせたらかなり大きな力になってしまう。それこそ、国すら落とせるかもしれない。
一国がそれほどの力を持っても大丈夫なのだろうかと心配になる。今のところ特に問題は起こっていないようだけど、果たしていつまで続くだろうか。
……考えすぎかな? 何の意図もなく、ただ転生者だから保護しているってだけなのかもしれないし、難しく考える必要はないのかもしれない。仮に何か企んでるとしても、私にはどうしようもないしね。
「アリシアは勧誘受けてるの?」
「いや、まだだ。まあ、勧誘されても入るつもりはないけどな。俺は今の生活に満足してるし」
確かに、アリシアは両親も優しい人だし、目標だってある。わざわざ保護してもらわなくても立派に生きていけるだろう。
私も別にいいかなぁ。特にこれって言う目標はないけど、別に生活に困っているわけでもないし。
まあ、セフィリア聖教国は隣の大陸らしいからそうそうこちらに来ないとは思うけど。
「まあ、そんな感じだな。白夜の方は何か変わりはなかったのか?」
「これと言って特には」
まあ、王子様に告白されたりギルドで決闘を申し込まれたり学園に通うことになったりしてるけどこれといったことは何もない。
「おいおい、十分だろ。学園に行くのは知ってたけど、告白とか決闘とか初耳だぞ?」
「言うほどのことでもないかなって」
「お前な……。まあいいや、詳しく聞かせろよ。特に告白とかすげぇ気になる」
ズイッとこちらに顔を近づけてくるアリシア。
告白って言ったって、別にロマンチックなものでもなかったし、そもそも断ったんだから脈もない。というか、アリシアは私の前世知ってるよね? 男が男に告白されて何が楽しいのか。
「俺も何回か告白されたことあるけどな、流石に王子様からはないぜ」
「王子でも別に嬉しくないけどね」
「まあな。確かに顔はいいが、男だからなぁ」
「私はアリシアが告白されたってことの方が気になるけど」
アリシアは普段は完璧なお嬢様だ。気品溢れる優雅さで、ふとした拍子にふっと微笑まれれば大抵の男は陥落する気がする。私と違って表情も豊かだし、告白したという男の心境が透けて見えるようだ。
男が男に告白されても何にも面白くないが、男が女に間違われて告白されたって考えるとちょっと笑えるかもしれない。
今まで培ってきたアリシアの所作は完全にお嬢様のそれだからね。でも中身は男。告白してきた男が可哀そうになってくる。
「結局そっちも気になるんかい。まあ、全部振ってやったけど」
「可哀そう」
「白夜だって人のこと言えないだろ? 王子を振っておいて」
まあ、確かにね。確かに私は私のつもりだけど、男である記憶がある以上、男と結ばれる運命を想像できない。普通に女の子の方が好きだし。
だけど、これから先成長したらそういう選択を迫られる時が来るのかもしれない。この体は間違いなく女だし、自然の摂理に従うなら男と結ばれるのが自然なのだろう。その時私はどうするんだろう。今なら絶対結ばれないって断言できるけど、その内考え方が変わったりするのだろうか。……なんか想像したくないな。
「見た目可愛いのにもったいないよな」
「それ、アリシアに言われたくない」
「えー? 白夜の方が可愛いじゃんか。俺が男のままだったら告白してたかもしれないぞ?」
「やめて気持ち悪い」
アリシアは非常に整った顔立ちをしている。キリッとした切れ長の目、シュッとした鼻、ぷっくりとした唇。まだ幼さの残る顔立ちではあるが、10歳でこれなら将来は相当な美人に育つことだろう。
それに比べて私はどこか作り物のような顔立ちである。切れ長の目は同じだが、目も鼻も整いすぎていて逆に気持ち悪い。表情が動かないものだからじっと動かずに座っていれば人形と間違えられるかもしれない。
確かに可愛い部類には入るのだろう。でも、表情豊かで将来性もあるアリシアの方が可愛いと私は思う。
私ですらほんのり微笑まれたらちょっとドキドキするしね。私にはできない芸当だ。笑おうとしてもこう、ひくひくと顔を引きつらせることしかできないから。ほんとに、なんでこんな表情が動かないのか、これがわからない。
「ほら、ちょっと笑ってみなよ。こう、ニコッと」
「それが出来たら苦労しない」
「ほんとに表情動かないよな。まあ、それが可愛いってところもあるけど」
多分それは人形のような無機物に対する可愛さであって人に対するものじゃないと思うの。
前世はこんな無表情キャラじゃなかったはずなんだけどな。確かに不愛想ではあったかもしれないけど、ここまで表情が動かないなんてことはなかった。ハクの記憶を辿っても笑った覚えとか全然ないし、生まれつきこうだったのかもしれない。
その後も私のここが可愛いとか色々と弄ってくるものだからお返しとばかりに私もアリシアのことを褒めまくってやった。
最初は平然としていたけど、だんだんと恥ずかしくなってきたのか顔を真っ赤にして、最後にはプルプルと震えながら俯いていたのがちょっと可愛かった。