第三百四十四話:実家に帰る
翌日。私は朝ご飯を食べつつ、そう言えば聞いてなかったことがあると思い出し、有野さんに連絡することにした。
以前の配信で、私の配信に対する投げ銭について聞かれたが、あの時は、自分で判断していいかわからなかったので、そのままにしていた。
『はい、もしもし』
「あ、有野さん、おはようございます。ハクです」
『あらハクちゃん、どうしたの?』
私は、投げ銭について聞いてみる。
投げ銭機能は、基本的に動画サイトの運営が一部を貰い、残ったものが配信者に届く仕組みとなっている。
これをそのまま使っていいなら、私は給料とは別に、幾ばくかのお金を手に入れることになるんだけど、『Vファンタジー』の場合は、投げ銭の一部を会社が貰うことになっているらしい。
動画サイトの運営が手数料として貰うものを、『Vファンタジー』も貰うってことだね。
まあ、私は配信者として色々とサポートを受ける立場にあるし、手数料を払うのは当然と言えば当然のことか。
投げ銭自体をオンにしていいかどうかに関しては、普通にしていいとのことだったので、今度からは投げ銭機能を解禁することにしよう。
『聞こうとは思っていたんだけど、なかなか機会がなくてね。聞いてきてくれてよかったわ』
「連絡が遅れてすいません。次から、設定しておきますね」
『ええ。用件はそれだけ?』
「はい。ありがとうございました」
『いえいえ。何か困ったことがあったらサポートするから、遠慮なく連絡してね』
そう言って、通話が途切れる。
憂いも晴れたことだし、今日は何をしようか。
心配なのは、やはりローリスさんの方だろうか?
あれから、自己紹介動画を編集しているらしいが、ちゃんとうまく機能するのかどうか心配である。
ローリスさん達が失敗するのは自業自得だけど、それにケントさんが巻き込まれるのは可哀そうだし、私も少しくらいは手伝った方がいいのかなぁ。
「そう言えばハク兄、実家には行かないの?」
「あ、そっちも考えなくちゃだったね」
こちらの世界の両親にも会わなければならない。
あちらからしたら、せいぜい二週間ぶりくらいになるだろうけど、それでも考えようによっては割と長い時間だ。
私からしたら、一年以上会ってない計算になるし、こっちに来た時くらい、一回でいいから会いに行かなければ失礼だろう。
「会わなくてもいいかもしれないけど、せめて電話くらいはしてあげてよね」
「わかってるよ。それなら、今日はそっちに行こうかな」
ローリスさんに関しては、まあ、まだそんなに慌てるような時間じゃないと思う。
どうせ、まだ投稿もしてないだろうし、大事を取るなら、私に確認を取ってきそうだし。
まあ、気が逸りすぎて、さっさと投稿してしまうって可能性もなくはないけど。
「一夜も行く?」
「まあ、せっかくだし行こうかな」
以前であれば、そんな頻繁に会いに行くこともなかったが、私が来たせいか、ついでに会いに行ってもいいんじゃないかと考えるようになったらしい。
一夜は元々優秀で、お父さん達も特に心配していないくらいだったから、あんまり会う機会もなかったんだよね。
それが、私の影響で変わったのはいいことなのか悪いことなのか。
お母さんは嬉しそうだったけどね。
「じゃあ準備してね。転移で行くから」
「相変わらず便利だねぇ」
私が一緒にいたら、電車代がかからないから、という理由も入ってるのかな? 流石にそこをけちるような性格じゃないと思うけど。
準備を整え、転移で実家へと飛ぶ。
あらかじめ、連絡をしておいたので、少なくともお母さんはいるだろう。インターホンを押すと、すぐに扉が開いた。
「もう来たのかい。相変わらず早いね」
「お母さん、ただいま」
「お帰り。ほら、上がんな」
お母さんに出迎えられ、中へと入る。
お父さんは、どうやら仕事中のようで、家にはいないようだ。
ちょっと残念ではあるけど、いつもいないことが多いので仕方ないね。
「今回はちょっと遅かったじゃないか。何かあったのかい?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけどね」
私は、近状報告をする。
お母さんになら、転生者について話してもいい気はするけど、念のため、そのあたりはぼかして伝えることにした。
ないとは思うけど、これを知っているせいで、誰かに色々聞かれる可能性もなくはないし、用心するに越したことはない。
「なるほどね。つまり、知り合いを手伝ってたと」
「うん。なんか暴走気味で、ちょっと怖いんだけどね……」
「白夜、今のお前なら大丈夫だとは思うが、あんまり変なことに首を突っ込むんじゃないよ?」
「善処はするよ」
その後も、色々と雑談をしながら過ごす。
その途中、お父さんが帰ってきた。
ちょうど、お昼時ということもあって、ご飯を食べに帰ってきたらしい。
私と一夜の姿を認めると、少し目を丸くした後、わずかに微笑んでいた。
「そう言えば、昨日の配信、見たよ」
「えっ?」
「ほら、なんかのゲームをやっていただろう?」
「え、あれ、見てたの?」
お母さんはパソコンとか使えないはずだが、どうやらお父さんが色々調べて、スマホで見ていたらしい。
確かに、私が配信をやっていることは、話したこともあったけど、まさか見てくれるとは思っていなかった。
というか、恥ずかしいな……。
別に、話し方としてはいつも通りな気がするけど、それでもリスナーのことを意識して、少しは喋り方を変えていた部分もある。
特に、他のリスナーさんからどう思われているのかとか、そう言う部分も見ていたと思うと、なかなか来るものがある。
「私はあれがどう凄いのかはよくわからないけど、立派に仕事してるんだなということは伝わったよ」
「あ、ありがとう……」
「ねぇ、お母さん、私は? 私の配信は見てくれないの?」
「一夜のも見てるよ。安心しな」
「よかった」
一夜も、結構人気の配信者だから、親の目でも気になるのかもしれない。
流石に、コメントまではしていないようだけどね。というか、やり方がわかってなさそうだけど。
「昔は、あの会社を辞めてまで、と思っていたけど、今が幸せならそれでいいさ。生き方は自分で決めるもんだ」
「そうだな。もし失敗したとしても、その時は俺達を頼ればいい。子供の尻ぬぐいをするのは、親の役目だからな」
「ありがと。私も、お父さんとお母さんに恥じないような生き方をするつもりではあるから」
なんだか、三人とも通じ合っているというか、うんうん頷きあっている。
こちらの世界の両親は、割と古い考え方を持った人だと思うけど、それでもこういうことが言えるのは、私達のことを大事に思ってくれている証なんだろうね。
「と、昼休みが終わっちまう。俺はそろそろ行くが、ゆっくりしていけな」
「うん、ありがとう」
そう言って、お父さんは去っていった。
実家に来ると、なんとなく安心できて、ついつい長居したくなってしまう。
本当は、帰りにでもアパートに寄ろうかと思っていたけど、別に明日でもいいかなぁ。
そんなことを考えながら、のんびりと過ごすのだった。




