第三百四十話:雷鳥チャンネル
ローリスさんは頑なだった。
一応、みんなの意見を聞いて、その意見を尊重し叶えようとしている良きリーダーみたいな感じもしなくはないけど、その裏には、自分がやりたいだけというのが透けて見えている。
別に、私もみんなが配信者になることはどちらでもいいと思ってる。
確かにリスクはあるが、それはあくまでみんないっぺんに映ったらであって、それぞれが個人の配信者としてやる分には特に問題はないだろう。
よっぽど、こいつらは人外だ、と決めつけて、過去の動画とかから調べ上げるような人でもいない限り、特に問題は起こらないとは思う。
しかし、ローリスさんは、あちらの世界で、皇帝という立場についている。
時間の流れが違うのを利用して、私と同じように、一年おきとかに来て配信するんだったら体裁は保てるかもしれないが、ローリスさんのことだから、絶対どこかで飽きてやめる気がする。
「大丈夫だって! 絶対やめないから、ね、いいでしょ?」
もはや、捨て犬を拾ってきた子供を説得している親の気分である。
ここまで来たなら、もうやらせてみて、うまくいけばそれでよし、うまくいかなかったら、動画を削除して雲隠れ、でもいいのかもしれない。
環境の問題が残っているけど、そこらへんはローリスさんなら何とかするだろう。
一人一人が配信時間を決めて、被らないようにするなら多分大丈夫だと思うし。
仕事も、基本的には夜にやるものだから、昼間とかにやる分には文句もない、と思う。
「……はぁ、わかりました。そこまで言うなら、やってみてもいいと思いますよ」
「やった! 流石はハク、話がわかるわね」
嬉しそうに笑顔を見せるローリスさん。他の転生者達も、許可されたとあって嬉しそうだった。
唯一、ケントさんだけは、ため息をついていたが、私も同じ気持ちである。
「それで、動画配信者になるのはいいですけど、どこで撮るんです? それぞれの部屋で撮るんですか?」
「基本的にはそれでいいんじゃない? 全部で七人だから、それぞれの曜日ごとに割り当てて、その人の撮影を手伝うって感じで」
「編集については大丈夫なんですか? 流石に、また一夜に頼むのはなしですよ?」
「あ、自分編集の心得あるっすよ」
そう言って、転生者の一人が手を上げる。
こんなところに経験者がいるとは思わなかったが、まあ、それなら最低限の編集はできるだろうし、教えることもできるか。
「グループにするとか言ってましたけど、ケントさんのチャンネルでみんなやるんですか?」
「その方がいいでしょ? みんな仲間なわけだし」
まあ、リアルな人外配信者がそれぞれ個人でポンポン出てきたらそれはそれでまずいのか?
関係を疑われるのは間違いないし、そうでなくても、一緒に撮影しようってなったら、人気の取り合いになって仲が悪くなる可能性もある。
だったら、初めから同じチャンネルの仲間として扱った方が、余計な差ができなくていいかもしれないね。
「わかりました。細かい部分のフォローは、ローリスさんがやってくださいね」
「任せといて! ふふ、楽しみだわ」
念願の配信者になれるとあって、テンションが高い。
まあ、人気が出るかはさておき、特徴があるのはいいことだろう。
みんな、魔物としての能力で身体能力や動体視力は高そうだし、ケントさんと同じように、初めてのゲームでも十分に活躍できる可能性もある。
ちゃんと、仕事と両立できるのかが心配だけど、もし仕事が疎かになるようだったら、正則さんに頼んで、注意してもらうことも考えておこうかな。
いや、でも、正則さんはローリスさんに甘々だし、普通に許しそうな気がする。
まあ、問題が起きても何とかしてくれそうって感じはするけど、本当に大丈夫なのか心配になってきた。
パフォーマンスしすぎて、顔ばれとかしなきゃいいけど。
私は、一抹の不安を抱えつつも、みんなの様子を見守っていた。
ひとまず、まずは自己紹介動画を作ろうということで、みんな張り切って撮影に臨んだ。
基本的には、頭を元の姿の頭にし、それに加えてある程度の人外要素を加えていくと言ったスタイルになった。
ローリスさんだけは、【擬人化】した上で全身毛で覆われているから、どうしたものかと思ったけど、もう精巧な着ぐるみということで押し通すことにした。
一応、変身魔法を使えば、同じようなスタイルにすることはできるかもしれないけど、その場合、私やウィーネさんが近くにいる必要がある。
私だって、いつもこちらに来れるわけじゃないし、ウィーネさんも、国を放っておけない以上は一緒に来ることは難しい。
そもそも、こちらの世界では魔力を回復する手段がない以上、まともに変身魔法をかけられるのは私だけだ。どう考えても、コスパが悪すぎる。
まあ、今はめちゃくちゃリアルな着ぐるみもあることだし、多分大丈夫だろう。
「そう言えば、チャンネル名どうするんですか?」
現在、ケントさんが持っているチャンネルは、『雷鳥チャンネル』となっている。
サンダーバードだから雷鳥、となったわけだけど、今後他の人達も一緒に使うのなら、その名前は適さないだろう。
ケントさんがリーダーを務めるとかなら話は別だが、ローリスさんは自分がリーダーとしてやっていく気満々みたいだし。
「そこらへんは後で考えましょう。そのまま、『ヒノモト帝国』とかでもいいんだけど」
「……まあ、それでもいいとは思いますけど」
それぞれが帝国の民となって運営するチャンネル、という感じならば、まあ間違ってはいないとは思うけど、なんとなく、威圧感があるような気がする。
そもそも、『Vファンタジー』のような箱でもないのに、個人で運営するチャンネルに七人も登場するって言うのが珍しい気がする。
三人組とか、五人組は割と見るけども。
というか、当然のようにケントさんが組み込まれているけど、ケントさんはそれでいいんだろうか?
「まあ、みんながやりたいって言うなら……」
あんまり乗り気ではなさそうだけど、みんながやるならと了承したって感じか。
なんか、苦労人枠になりそう。最初に投稿したのもケントさんだし、ローリスさんがリーダーを名乗っても、ケントさんが実質的なリーダーになりそうだよね。
まあ、今はそんなに見ている人もいないだろうし、普通に変わる可能性もあるか。
別に、リーダーが誰だろうが特に問題はないし、気にするようなことでもない。
「さて、後は編集してアップロードするだけね。頼むわよ」
「任せるっす」
ノリノリで作業を始める転生者達。
自分達の動画が作られていく場面が面白いのか、あれやこれや言い合いながら、作業は進んでいった。
流石に、全員分の動画を編集するには至らなかったが、こんなに楽しかったのは久しぶりだと、みんな満足げだったので、まあいいんじゃないかな。
「私はそろそろ帰りますね。今日は配信したいので」
「そう言えば、ハクも配信者だったわね。ばっちり視聴するから」
「……まあ、ありがとうございます」
知り合いに見られるって言うのはなんだか恥ずかしいが、まあ、見られるのが仕事だし、仕方ないか。
今後、何かやらかさないか心配ではあるけど、私もやるべきことをやらなければならない。
わずかな不安を抱きつつも、一夜のマンションに帰るのだった。
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