第三百三十八話:遅くに帰って
それからしばらく、ゲームで遊んでいたが、流石にもう外が真っ暗になってきたので、帰りたいと言ったら、めちゃくちゃ渋られた。
葵ちゃんは、私と同じで、あんまり表情が変わらないようだったけど、それでも帰って欲しくないというのがわかるくらいには引き留められた。
今にも泣きそうだったが、途中で信之さんが入って来て、今日は遅いから、また今度遊ぼうなと言ってくれたおかげで、何とか解放されたが、逆に言うと、また今度遊ぶことが確定してしまったので、ちょっと怖いところ。
ほんとに、こっちの事情とか関係なく呼び出しとかされたら堪ったものではないので、先手を打つことにした。
「信之さん、スマホは持っていますか?」
「おう、持ってるぞ。連絡先を交換するか?」
「はい。私は、一応仕事をしていて、もっと言うなら日本にいないことも多いです。なので、急な呼び出しされても応えられない時があると思うので、もし用がある時はあらかじめ知らせてくれると嬉しいです」
「なるほどな。わかった、今度用がある時はあらかじめ連絡しよう」
これで、際限なく呼び出しを受けるということはないだろう。
まあ、断り続ければ、もしかしたら強制連行されるかもしれないが、その時はどうにかするしかない。
最低でも、私の大切な人達に手を出さないなら、急な呼び出しくらいは許すし、ラインを越えなければ問題はない。
信之さんが、そのあたりを理解してくれているといいけど。
「それじゃあ、家まで送らせる。礼の方も、一緒の乗せるから、後で確認してくれや」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。助けてくれただけでなく、遊び相手になってくれてありがとうな」
連絡先を交換し、外に用意されていた車に乗って、帰路につく。
一応、念のため向かうのは、駅にしておいた。
一夜のマンションだと、一夜に迷惑がかかる可能性があるし、私が住まわせてもらっているマンションでも、それはそれで『Vファンタジー』に迷惑をかける可能性がある。
あの様子を見る限り、家がわかったところで何かしてくるとは思えないけど、一応、念のためにね。
黒服さんからは、家じゃなくていいのかと何回か聞かれたけど、大丈夫だと返し、強引に駅で降ろしてもらう。
今の時間だと、終電も近いから、追跡することもままならないだろう。
途中、トイレに入って、貰ったおもちゃ達を【ストレージ】にしまって身軽になり、そのまま転移でマンションの屋上まで飛ぶ。
やれやれ、予想以上に遅くなってしまった。一夜起きてるかな。
「ただいま」
「おかえりー。結構遅かったね」
もしかしたらもう寝てるかもと思ったが、流石にそこまで早寝ではなかったようだ。
一応、一夜にはあらかじめ遅くなる旨は伝えておいたけど、流石にここまで遅くなるとは思っていなかったのか、若干不満げである。
「どこ行ってたの?」
「それが、ちょっと妙なことに巻き込まれてね」
私はこれまでのことを説明する。
偶然少女を助けたら、突然呼び出されてたくさんおもちゃ貰いましたって結構凄いことしてるよね。
お礼を言われるくらいはもしかしたらあるかもしれないが、わざわざ家に呼び出す人はそんなにいないと思う。
「なるほどね。やっぱりハク兄ってトラブルメーカーだと思う」
「なんでさ」
「ハク兄がいると、いつも何かしらトラブルが起こるじゃない?」
「まあ……」
確かに、心当たりがないわけではない。
一部は、私が自ら首を突っ込んでいるものもあるし、トラブルメーカーと言われても仕方ないのかもしれない。
でも、半分くらいは私の意思とは関係なく起こっていることだし、それはそれで仕方ないことだとも思う。
今回だって、ただ単にクレーンゲームを手伝っただけなのに。
「それで、おもちゃ貰ったんだって?」
「うん。これね」
「うわ、立派な箱。ほんとにやばい家なんじゃないの?」
改めて、箱の中を確認する。
入っているのは、ゲーム機やゲームソフト、某アニメのぬいぐるみに、こちらの世界で人気のカードゲームのカードの束。他にも、スリングショットとかベーゴマとか懐かしいものから、VRゴーグルといった最新のものまで幅が広い。
この箱だけでも結構な値段がしそうだし、ただのお礼にしては気合が入りすぎている気がしないでもない。
「普通の家じゃないことは確かだと思うよ。黒馬組とか言ってたし」
「そっち系? ほんとに大丈夫?」
「まあ、あっちが変な気を起こさなければ大丈夫だと思う」
できれば、こちらの世界では穏便に事を運びたいというのがあるので、変なことにならないことを祈る。
おもちゃ類に関しては、ゲームなら配信で使えないこともないけど、すでにこれらのゲームはリスナーさんからの贈り物で手に入れているんだよね。
だから、わざわざこっちを使うまでもないし、後でケントさんにでも持っていって、動画作成の足しにでもしてもらおうか。
いらないって言うなら、それはそれでお兄ちゃん達が使うだろうし、問題はない。
「それならいいけど、気を付けてよね?」
「わかってるよ」
ひとまず、あの家のことはいったん忘れて、ご飯を食べるとしよう。
一夜はすでに食べているようだったので、適当に作って食べることにする。
「そう言えば、動画はどうだった?」
「よかったよ。見やすいし、わかりやすかった」
ご飯を食べながら、動画のことを話す。
そう言えば、投稿してからそれなりに時間が経ったけど、コメントとかはついただろうか。
気になったので、ノートパソコンを持ってきて、ケントさんのチャンネルを覗いてみることにする。
初めてのFPS実況という名目で投稿された動画だが、コメント欄を見てみると、結構な数のコメントがついていることがわかった。
反応としては、純粋に、鳥頭がプレイしているという目新しさと、プレイのうまさを称賛するものと、例のSNSの騒ぎについての質問返しのコーナーで、ある程度納得してくれた人とで分かれているようだった。
あれから、長瀬さんの方にもメッセージを送った人がたくさんいたようだけど、それに長瀬さんも間違いないと答えたようで、繋がりが明らかになったようである。
中には、このための仕込みだったんじゃないかと揶揄する声も上がっていたが、それに関してはある程度は仕方ないだろう。
状況が都合が良すぎるし、記者によるやらせとか言われても全然通ってしまう部類だ。
だから、それらの声は少なからずあると思うけど、そこらへんは長瀬さんに背負ってもらうとしよう。
「ならよかった。人によっては、見どころが違うとかもありそうだからね」
「そこまで意識はしてないと思うけどね」
そりゃ、いくつかカットしたシーンはあるけど、結果的に面白いと思われるシーンが残ったんだから、文句はないだろう。
ケントさんだって、ここは絶対使ってほしいなんてことは言わなかったわけだし。
それよりも、このコメントの結果を見て、ケントさんがどう動くのかが気になる。
動画配信に興味を持って、これからも続けてくれたら嬉しいけど、果たして。
そんなことを思いながら、ご飯を食べるのだった。
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