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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十二章:転生者の仕事編
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第三百三十六話:誘拐?

 それからしばらく雑談をした後、勉強の邪魔をしてもいけないので、早々に退散することにした。

 みんな、もっと話そうと名残惜しげだったが、チトセさんがテストが終わったらたくさん遊べるからと説得し、後でコラボしようと約束をして、事なきを得た。

 みんな、元気そうで何よりである。テストは大変だろうけど、頑張って乗り切ってほしいところだね。


「さて、帰ろうか」


 すでに夕方なので、さっさと家に戻るとしよう。

 夕焼け色に染まった道を歩きながら、今日の夜のことを考える。

 配信に関してだけど、本番はせめて明日にしたい。

 今日の夜でもいいけど、流石に練習を全くしないのはだめだと思うし、一日くらいはちゃんと練習して、本番に臨みたい気持ちがある。

 まあ、一日と言っても、今からとなるとせいぜい三、四時間程度になりそうだが。

 明日の朝も練習に費やして、夜に本番の流れがいいかな?

 一応、ルートの確認もしておきたいし、もうちょっと効率化できるところがないか探す時間も欲しい。

 場合によっては、明日じゃなくて、明後日とかになるかもね。

 ちょっと遅いかなとも思ったけど、普通のRTAの練習時間を考えると、短すぎるか。

 そんな、一日二日練習しただけでまともな記録が出るなら、苦労はしない。

 私のように、魔法の力を借りているとかでないのなら、それはその人が天才ってことになるだろう。

 だから、今回の滞在中に配信出来れば、そこまで気にする必要はないかな。


「それにしても……」


 アケミさんの家を出てからしばらくが経ったが、なにやらおかしな気配を感じる。

 この世界の人達は、魔力を持たないから、探知魔法による探知はできないけど、それでも今までの経験から、人の気配には割と敏感になっている。

 背後に三人、前方に四人、何かいる。

 この時間だし、帰宅中の人とか、色々候補はあるかもしれないけど、その視線が悉くこちらを向いているので、私に用があるのは間違いないだろう。

 いったい何の用だ? 別に、私は何かやらかしたつもりはないんだけど。


「失礼、少しいいだろうか」


 そうこうしていると、前方にいた四人が私の前に立ちはだかるようにして現れた。

 全員、黒服を着て、ご丁寧にサングラスまでかけている。

 こんなの、アニメとかでしか見たことないぞ。一体何の集団なんだ。

 と思ったけど、一つ心当たりがある。

 今日の昼頃、デパートのゲーセンで、ぬいぐるみを欲しがっている少女にぬいぐるみを取って上げたけど、その時の護衛というのが、こんな感じの黒服だったと思う。

 まさか、それ関係か? もう二度と会うことはないと思っていたけど、目をつけられてしまったか。


「なんでしょう?」


「この方に見覚えはありませんか?」


 そう言って、一枚の写真を見せてくる。

 そこには、今想像していた少女の姿が映っていた。

 やはり、彼女の関係者らしい。


「一応、知っています。お昼頃、デパートで会いましたね」


「では、あなたがぬいぐるみを取ってくれたという……」


「そんなこともしましたね」


 確かに、カタギの人間じゃないとは思っていたけど、なんでわざわざ私の下に来たんだろうか。

 こうして狙い撃ちしてきたってことは、恐らく探していたってことだよね?

 この子がこの人達にとって大切な人なんだとしても、別に私は危害を加えたわけではないし、報復されるいわれはないんだけど。

 この人だって、ぬいぐるみを取ってくれたって言っているしね。


「よかった。あなたを探していたのです」


「探していたって、なんのために?」


「お嬢が会いたがっています。どうか、ご同行願えませんか?」


「ふむ……」


 会いたがっているってことは、お礼でも言いたいってことなんだろうか。

 流石に、文句を言うためだけに呼び出すわけじゃないだろう。もし、何か報復を考えているなら、この場でぼこぼこにしようとすればいいんだから。

 しかし、わざわざお礼を言うために呼ぶというのもなんか変な感じ。

 というか、お礼なら、すでにあの時貰っている。ちゃんと、ありがとって言ってくれたしね。

 だから、わざわざ会いたいというのは、何か別の理由があるような気がする。


「どうでもいいですけど、その格好で、集団で私みたいな子供を囲むって言うのはどうなんです?」


「それは……申し訳ありません。ですが、ちゃんと連れて帰らないと何を言われるかわかったものではないので……」


 見た目は怖いけど、態度的には結構下手に出てくれている。

 恐らく、下っ端なんだろうね。

 単に、見つかりませんでしたなら仕方ないと思われるかもしれないけど、見つけたのに連れ帰れませんでしたじゃ、確かに何言われるかわかったもんじゃない。

 あの子が凄い我儘な性格で、じゃあこいつらクビで、とか言う可能性もあるわけだし、ここでついて行かないのは、この人達が可哀そうか。


「まあ、わかりました。ただ、家族が心配するので、連絡してからでいいですか?」


「それはもちろん。ありがとうございます」


 見た目は完全に誘拐のそれだけど、まあ、最悪こいつらが悪者だったとしても、何とかなる。

 私は、メールで一夜ひよなに連絡をすると、この人達について行くことにした。


「こちらへどうぞ。車を用意しています」


 そう言って、少し進んだ先の角に停めてあるワゴン車の前に連れていかれる。

 見た目も黒だし、やっぱり誘拐なんだよなぁ……。

 一体、あの子は何者なんだろうか。せめて、それだけでも掴んで帰りたいところである。

 車に乗り込み、扉が閉められる。

 窓もスモークガラスでほとんど外が見えないけど、少しくらいまともな人を演じるつもりはないんだろうか。

 ちょっと呆れながらも車に揺られていると、しばらくしてとある家の前にやってくる。

 結構な豪邸だ。立派な庭園があり、日本でも有数の名家って感じがする立派なお屋敷である。

 私は、アニメとかでしか見られない家を前に、若干興味を惹かれながらも、案内されるがままに中に入っていく。

 恐らく、応接室だろうか。畳敷きの部屋に通され、お茶が出される。

 しばらく待っていると、襖が開き、あの時の少女がやってきた。


「待ってた」


 そう言って、ぎゅっと私の腰に抱き着いてくる。

 唐突な事態に、お茶をこぼしそうになったが、何とか堪えて、机の上に置き、少女のことを撫でた。


「これ、葵。お客さんに突然抱き着くんじゃない」


「ん、ごめんなさい」


 少し渋めの声が聞こえてきて、葵と呼ばれた少女は私から離れる。

 顔を上げてみると、襖の向こうに、もう一人いることに気が付いた。

 羽織に袴と、なんだか現代さを感じさせない格好だが、その身長はかなり高く、2メートルはあろうかという体躯である。

 親、かな?

 やたら威圧感のある姿にちょっとドキッとしたけど、すぐに平静を取り戻して、居住まいを正す。


「急に呼びつけて悪かったな。俺は信之、この家の当主をやってる。よろしくな、嬢ちゃん」


「ご丁寧にありがとうございます。私はハクと申します」


「ハクか。いい名だ」


 信之さんは、そのまま部屋に入ってくると、私の向かいに腰を掛けた。

 そうして、懐からキセルを取り出すと、火をつける。

 なんか、親玉って感じの人だなぁ……。

 私は、一体何をされるのかとドキドキしながら、行く末を見守った。

 感想ありがとうございます。

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> 少し進んだ先の角に停めてあるワゴン車の前に連れていかれる。 なんてハイエースなんだ
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