第三百二十八話:撮影を終えて
実況なんてできないと言っていたケントさんだったけど、いざプレイしてみると、そこそこ喋っていたように思える。
攻撃を食らった時に、「いたっ」ってなるのはよくあることとして、それ以外にも、迷子になったり、不意打ちされてダウンしたり、仲間に助けられたり、いろんな場面で喋っていたように思える。
まあ、要所要所で喋ってはいるけど、無言の箇所も多かったので、そこらへんはあれだったかもしれないけど、初心者なんだし、多少は仕方ない。
動画投稿なんて、自分が楽しくなければ長続きしないと思うし、まずは無理なくプレイできることの方が重要だと思う。
そう言うわけで、何度かプレイを録画し、ひとまずは終わることにした。
すでに結構日も落ちてきたし、今回撮った中からいくつかをピックアップして、それを編集していくことにしよう。
「後は、質問返信ですね」
「そんなことするんですか?」
「はい。気になっている人はたくさんいるようですしね」
別に、第一回から質問返信をする必要はないだろうが、自己紹介動画の方ではもちろん、SNSの方でも結構な数の質問が寄せられている。
その内容は大体同じなので、だったら誤解がないように答えてしまった方がいいだろうということだ。
元々、あの写真の人物とケントさんが同一人物だということはそれとなく知らせるつもりではあったし、ちょうどいい機会と言えるだろう。
「それじゃ、ローリスさん、お願いします」
「はいはーい。ほら、こっち向いて」
「あ、はい」
ケントさんを映しながら、質問に対しての返信を行う。
まあ、あの写真の人物と同一人物というのは言うけど、断定させるのはよろしくない。
あの写真は、すでに結構な数の人に解析されているようだし、中には背景から場所を特定するような猛者もいるかもしれないし、確実に同一人物だとばれてしまうと、そのまま家も特定されかねない。
だから、あくまでふんわりと、もしかしたら関係あるかもしれないねくらいに留めておくのがいいと思う。
もしばれてもいいように手は回しているつもりだし、最悪の場合でもなんとかはなるだろう。
「……ということになります。お騒がせして申し訳ありませんでした」
最後に、謝罪と共に動画を終わる。
これで、ひとまずやるべきことは済ませたかな。
あの記者がどう出てくるかはわからないけど、一応、自己紹介動画ともう一本動画を上げるつもりだし、最低限デビューしたと言っても過言ではないだろう。
後で雑誌も見ておかないと。変なこと書かれていたら、抗議しなくてはならない。
「ありがとうございます。後は、編集して投稿するだけですね」
「ちょっと疲れました……」
「お疲れ様です。今日のところは、ゆっくり休んでください」
頭を戻し、ぐったりとした様子で倒れ込むケントさん。
まあ、慣れないと、実況するのって大変だよね。
基本的にずっと喋り続けることになるから、すぐに喉がカラカラになっちゃうし、水分補給は必須になる。
でも、ゲームによっては極端に暇な時間が少なくなる時もあるし、思うように水分補給できない時もある。
見ている分には楽しそうに見えても、意外に苦労はあるんだよね。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼します。また編集したら、持ってきますね」
「よろしくね」
「あ、でも、そのうち自力で編集できるようにはしておいた方がいいかもしれません。いつまでも、一夜に任せるわけにはいかないので」
「まあ、それはそうね。本来なら、お金払ってしてもらうようなことでしょうし。ハク、後で謝礼を用意するから、渡しておいてくれない?」
「うーん、まあ、そうですね。わかりました」
一夜がそう言うのを受け取るかどうかという疑問はあるが、確かに、一夜は今回の件には全く無関係の部外者である。
そんな人に、いくら暇だったからとは言っても、仕事をさせたのだから、その支払いはすべきだろう。
実際、こういうのはプロに頼めばそれなりのお金を払うことになるだろうしね。
まあ、受け取らなかったら受け取らなかったでいいけど、ただ単に利用したいと思っているわけじゃないと伝える意味でも、お礼は必要になると思う。
「さて、ちゃんと編集できるかな」
データを記録媒体に移し、持ち帰る。
私も、そのうち編集の仕方を覚えるべきかなぁ。
今のところは、基本的にはそのまま配信するから、編集が必要な場面はないけれど、オープニングを作ったり、待機画面を作ったり、編集ができて困るってことはないと思う。
一夜は、元からそう言う関係に強いって言うのはあるけど、すらすらとできるようだし、私も少しくらいは学んでもいいのかな。
あとで、一夜に教えてもらうのもいいかもしれない。
今のところ、作りたいものとかはあんまりないが。
「あ、そういえば、雑誌買って行かないと」
ケントさんが動画配信をすることについて、雑誌で取り上げると言っていた。
あの時は、色々とその場の思い付きで言ってしまったこともあるし、もし変なこと言ってたなら取り消しを要求しなければならない。
その辺のコンビニに寄り、さっそく雑誌を購入する。
オカルト雑誌としては、そこそこ有名みたいだけど、買っている人は見たことない。
まあ、そう言うのってほとんどがでっち上げとか、気のせいとかだと思うからね。そう言う不思議現象を娯楽として見れる人じゃないと、そうそう買わないのかもしれない。
雑誌のついでに、いくつかおにぎりを買って、一夜のマンションへと向かう。
一夜は、昨日と同じくだらだらとしていた。
「ハク兄、お帰り」
「ただいま。遅くなってごめんね」
「いいよいいよ。また動画撮ってたんでしょ?」
「なんでわかるの」
確かに、自己紹介動画を上げたからには、続きの動画を上げなければならないだろうけど、連続で撮ると思われていたんだろうか。
その通りだから何も言えないけど。
「それで? どうだった?」
「とりあえず、いくつかゲームのプレイ動画を撮って来たよ。後は、これを編集するだけ」
「ああ、これから編集なんだね。また私がやろうか?」
「できればお願い。いずれはあっちでできるようにするつもりだけど、今はまだ時間が足りないからさ」
「オッケー。動画の編集なんて最近あんまりやってなかったからね、ちょっと楽しいよ」
「そう言うもんなの?」
「まあ、大変ではあるけどね。でも、達成感はあると思うよ」
動画を一から作る場合、一分の動画を作るだけでも、一時間以上かかることもざらにあるらしい。
後付け実況でもいいと言ったけど、それはそれで手間がかかるので、できることならそのまま実況できる方がいいみたいだね。
字幕を付けるだけでも結構大変らしいし、やっぱり編集って難しいんだね。
私は、嫌な顔一つせずに引き受けてくれる一夜に感謝しつつ、早めにどうにかしなければと考えを巡らせた。




