第三百二十七話:動画の撮影
それからしばらくして、いくつかのコメントを貰うことができた。
反応としては、リアルな鳥頭についての言及がほとんどだったと思う。
一応、尾羽もしっかり見せるようにはしていたんだけど、そちらに関してはほとんど言及されなかったようだ。
概ね期待するような内容が多く、これからのケントさんの活躍を待っているようである。
とりあえず、最初の掴みとしてはオッケーって感じかな。
「あ、このコメント」
それから更に待っていると、尾羽に関して言及するものがあった。
それは、最近SNSを騒がせている謎の男についてであり、長瀬さんが投稿した写真のことである。
多少SNSに張り付いている人からしたら、あの話題は結構有名なんだろう。
あれから長瀬さんが、無事に見つかったという旨を投稿してから、また少し騒ぎになったらしいし、それで見ている人もいたのかもしれない。
そのコメントを皮切りに、尾羽に関して言及するコメントが増えてきた。
あれは本物なのか、特殊メイクなのか、それともコスプレグッズなのか。ようやく見つけた手掛かりと言える動画に、みんな興味津々の様子である。
一応、あの写真とケントさんを結び付けさせて、余計な疑念を払しょくしようとは考えていたので、これは想定通りの反応だね。
「さっきから通知がめっちゃ来てるんですけど……」
「真実を知りたい人がたくさんいるんでしょうね」
新たに作ったSNSのアカウントには、さっそくフォローが相次ぎ、コメントやメッセージで質問してくる人がたくさんいるようである。
これは、次の動画である程度質問に答えた方がいいかもしれないね。
「さて、それじゃあ、次の動画を撮っていきましょう。何かやりたいゲームはありますか?」
「最近は、FPSが少し気になってますね」
「ああ、たくさんありますよね」
「まあ、みんなパソコンなのでやったことはないんですけど」
今のところ、ケントさんがやっていたのはファミリー系のゲームばかりで、FPSはあんまり触ってこなかったようだ。
ただ、動画を見るのは好きなようで、いつかはやってみたいという気持ちがあったらしい。
せっかく、動画配信者という一歩を踏み出したのだから、せっかくだからやってみたいと思ったようだ。
まあ、チャレンジするのはいいことだし、それでいいんじゃないだろうか?
私はFPSはそんなに得意ではないからあんまり力にはなれないけど、仮にへたくそだったとしても、それはそれで需要があるかもしれないし。
「なら、ダウンロードしちゃいましょうか。スペックは足りてますか?」
「問題ないわ。最新のやつだからね」
「そんないいもの用意してたんですね」
てっきり、力の加減ができずに壊されると嫌だから、安物を渡しているのかと思っていた。
まあ、その辺はローリスさんの気遣いなんだろうな。自分の国の民として、信用しているって言うのもあるだろうけど。
ダウンロードの仕方を調べながら、ひとまずやってみる。
多分、これで行けると思うんだけど。
「あ、起動できましたね」
「おおー」
「それじゃ、軽くやってみてください。できそうだったら、動画撮っていきましょう」
「わ、わかりました」
私は、ローリスさんと共に後ろから眺めながら、様子を見守る。
基本的には、キーボードとマウスで操作するようだけど、これでちゃんと狙えるんだろうか?
参考になるかはわからないけど、イカゲーの操作は、ジャイロじゃないとほぼ狙えなかった記憶がある。
多分、コントローラーを繋げれば、同じようにできるかもしれないけど、今はそれはないし、ちょっと心配になってきた。
「……なるほど、大体わかりました」
「もうですか? 早いですね」
「まあ、基本操作だけですけどね。後は、やりながら覚えていくことにします」
ほんとに軽く触っただけなのに、もう覚えたとか普通に凄くない?
というか、覚えたと思っても、それじゃあすぐに動画撮ろうとは思わない。
私だったら、もうちょっと操作に慣れて、自信が持てるところまで行ってからじゃないと本番には行きたくないだろう。
これも才能なんだろうか。FPSできるってだけでも羨ましいけど。
「なら、撮っていきましょうか。でも、操作はいいとして、実況とかできます?」
「じっ、きょう……?」
「いや、動画なんですから、実況しないと」
まあ、ゲーム画面だけ撮っておいて、後付けで実況したり、あるいは字幕で捕捉したりって言うのでもいいかもしれないけど、やっぱり動画を撮る以上は、ある程度は実況しないといけないだろう。
今回のゲームは、一応初見なわけだし、その新鮮な反応を見たいって言う人も多いだろうしね。
ケントさんの様子を見る限り、ただゲームすればいいと思っていたらしい。
まあ、無言でも、プレイがうまかったり、何かネタ要素があったりすれば人気は出るかもしれないけどね。
方向性をある程度決めておいた方がいいかもしれない。実況した方がいいとは思うけど、それでプレイに支障が出たりしたら困るし。
「無理そうなら後付けでも構いませんが……」
「……い、いや、何とかやってみます」
そう言って、ぐっと拳を握るケントさん。
うーん、まあ、とりあえずやってみるのがいいだろう。
別に、一発撮りで成功させなきゃならないというわけではないし、だめそうなら別の方法を考えればいいだけの話だ。
ローリスさんがカメラを構える。ケントさんは、【擬人化】で頭をサンダーバードのものに変化させ、挨拶を始めた。
「こ、こんにちはー。今日はこの、レジェンズなゲームでチャンピオンを目指していきたいと思います」
こういうのって、オープニングとか作った方がいいんだろうか?
あった方が人気は出そうだけど、オープニングを作れるだけの技術が私にはないんだよね。
また一夜に頼んでみるって言うのでもいいかもしれないけど、流石に何度も何度も頼むのは気が引ける。
最初の自己紹介動画は編集してくれたけど、いずれは自力でできるようになった方がいいとも言っていたし、そう言ったことを学ぶ機会を作った方がよさそうだ。
「初めてプレイするので、色々と至らない部分もあるかと思いますが、どうかご了承ください」
挨拶もほどほどに、さっそくプレイを開始する。
それにしても、その見た目で敬語って言うのはどうなんだろうか?
いや、そう言うキャラがいてもいいとは思うけど、サンダーバードの見た目って、結構目つきが鋭いから、敬語だと若干違和感がある。
まあ、それがケントさんの素の喋り方だろうし、慣れてない時にキャラを作ろうとしても変になるだけだろうか。
流石に、そこまで考えて動画を作るってなると、考えることが多くなりすぎるし、あんまり気にしない方がいいかもしれない。
一応、キャラ付けとしてなら、頭がサンダーバードになった影響で、若干喋り方が変って言うのがあるし、それで十分だと思う。
まあ、最初の挨拶以外は、パソコン画面で録画しているので、ケントさんの顔は映っていないんだが。
声を出さないように気をつけながら、ケントさんの様子を見守っていた。
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