第三百二十六話:編集を終えて
それからしばらくして、いい時間になったので、配信を終了した。
途中から、アケミさん達もコメント欄に現れて、ちょっとした騒ぎになったが、連絡する手間が省けてよかったと言えばよかったと思う。
配信が終わった後、通話アプリを見てみると、着信があったので、すぐに出た。
『ハクちゃん、配信お疲れさまー』
「アケミさん、ありがとうございます。連絡が遅れてすいません」
『気にしないで。ハクちゃんも忙しいだろうしね』
『今回はどれくらい滞在するんですか?』
『また一緒にご飯食べに行こうよー』
アケミさんに続いて、スズカさんやチトセさんもすぐさま通話に入って来て、口々に話を聞く。
今回は、どのくらい滞在することにしようかな。
時間の問題は大丈夫だとして、少なくとも、ケントさんの問題が解決するまではこちらに滞在しないといけない。
まあ、自己紹介動画は一夜が編集してくれているし、他の動画に関しても、機材はあるからそこまで難しくはないだろう。
多少反応を見るってなると、一週間か、あるいは二週間ってところだろうか?
今回はお兄ちゃん達を連れてきていないので、また近いうちに来るかもしれないけどね。ひとまずは、そのくらいってことで。
「ご飯はぜひ。何ならコラボもしますか?」
『するする! 明日にでもしたい!』
『でも、そろそろテストが近いですから、配信は控えるって言ってませんでした?』
『うぐっ! そ、それはそうだけど、ハクちゃんは特別だし……』
『今焦ってやるよりも、後ほど時間がある時にたっぷり時間を取った方が結果的に満足できると思いますが』
『わ、わかったよ……。ハクちゃん、ごめん、そう言うことだからコラボは少し待ってくれる?』
「構いませんよ。テストは大事ですからね」
学校の評価は、テストが結構な割合を占めているからね。
私は一夜漬けで何とかすることも多かったけど、勉強できる時間があるならそれを使った方がいいのは間違いない。
『ハクちゃんの配信は絶対見るから、それだけは譲れないからね』
「それなら、私もあんまり配信しない方がいいですか?」
『どうしてそんなこと言うのー!』
泣きそうな声で怒ってくる。
私の配信ってそんなに需要があるんだろうか。
確かに、チャンネル登録者とかを見てみると、徐々に上がって行ってはいるんだけど、泣くほどか?
まあ、いいや。どのみち、こちらに滞在できる時間が少ない以上、配信はしないともったいない。
ここを逃せば、また一年後とかになりそうだしね。
『たくさん配信してほしいな』
「わかりました、なるべく配信しますね」
『そう来なくっちゃ!』
その後も、近状報告を含めて話を続け、夜は更けていった。
まあ、流石に明日も学校があるということで、そこまで遅くまでは通話してなかったけどね。
部屋を片付け、リビングへと戻る。
そこには、ノートパソコンを広げている一夜の姿があった。
「あ、お疲れハク兄。配信どうだった?」
「問題なく終わったよ。一夜は、ずっと編集してたの?」
「こういうのは後に回さない方がいいからね。どうせ暇だったし」
そう言って、一夜は記録媒体を渡してくる。
どうやら、すでに編集は終わったらしい。
配信の時間プラス、通話の時間があったとはいえ、かなり早くないだろうか?
それとも、字幕を付けるくらいだったらそんなに難しくないんだろうか。よくわからない。
「ありがとう。明日にでも届けてくるね」
「そうして。あ、ちゃんと確認はしておいてね? こっちでも確認はしたけど、変なものが映っていたら困るし」
「それはもちろん」
投稿する前に確認するのは当然のことである。
私は記録媒体を【ストレージ】にしまい、一夜を労った。
「それじゃ、寝よっか」
「一緒に寝るの?」
「もちろん」
「わかったよ」
なんか、毎回来るたびに一緒に寝ている気がするが、今更ながら一夜はそれでいいんだろうか。
昔は、一緒にお風呂に入ったりもしていたが、もういい年だし、少しは恥じらいというものがあると思うんだが。
この見た目だからか? 確かに、性別上は同じになっているけども。
そんなどうでもいいことを考えながら、一夜と一緒のベッドに入る。
しばらくすれば、すぐに眠りに落ちることができた。
翌日。私は朝食を食べた後、再びアパートへと向かった。
途中、ローリスさんにも連絡し、一緒に動画を確認してもらう約束を取り付ける。
ケントさんは、あれから落ち着かないのか、そわそわとした様子だった。
まあ、頭だけ鳥という奇妙な格好で自己紹介動画を作ってしまったのだから、色々と思うところはあるだろう。
自分のせいで、この場所がばれるようなことがあったらどうしようと思っているのかもしれない。
でも、それに関しては、あんな言い訳を思いついた私が悪いわけだし、ケントさんが気に病む必要はないと思うんだけどね。
やっぱり、根が優しいから、自分で抱え込んでしまうのかもしれない。
せめて、見せかけでもきちんと配信者としてスタートを切れたらいいんだけど。
「ローリスさんも来ましたね」
「ええ。もうできたの? 早くない?」
「一夜は優秀ですからね」
ケントさんの部屋に集まって、さっそく動画を確認する。
見た限り、特におかしな部分は見当たらない。
字幕も、きちんと見やすいようにフォントが調整されているし、ところどころに効果音なんかも入っている。
素人の自己紹介動画としては、できすぎなくらいじゃないだろうか?
まあ、実際に作ったのは素人ではなくプロと言っていい人だから当たり前ではあるんだけど、これならあの記者だって文句はないはずである。
「大丈夫そうですし、さっそく上げましょうか」
「そうね。ふふ、どんな反応が見られるかしら」
「ほんとに大丈夫かなぁ……」
ウキウキしている様子のローリスさんと違い、ケントさんは不安そうである。
私は、動画サイトに新しく作ったケントさんのチャンネルに、動画を投稿した。
後は、SNSも新しくアカウントを作り、ケントさんのチャンネルとして運営していくつもりである。
ただ単に見せかけるだけだったらここまでやらなくてもいいのかもしれないけど、一応、これを機にみんなが見つかった時のデメリットを少しでも減らせるんじゃないかという期待があるし、うまくいくなら、ぜひ続けて行って欲しいところだから、こういうのはちゃんとやるよ。
さて、後は反応が現れるのを待つばかり。果たして、どんな反応が待っているやら。
私は、しばらくの間、パソコンの前に釘付けになっていた。




