第三百二十四話:動画を作ろう
それから数日。機材自体はすぐに揃えることができた。
ケントさんもローリスさんも、配信の仕方についてはほとんど知らないようだったけど、その辺に関しては私が何とかして上げられる。
なので、とりあえずの問題は、どういう動画を上げるのかということだ。
「ケントさん、何か方針とかありますか?」
「いや、そんなこと言われても……」
いきなりそんなことを聞かれて、ケントさんは困惑したようにそう答えた。
まあ、元々やるつもりもなかったのに、成り行きでやることになってしまったのだから無理はないけどね。
決まっていることは、ケントさんの本来の姿をある程度見せるということ。
元々、ケントさんの姿を現実で目撃されたから、騒ぎになっているわけで、それを証明するためには、実際に見せるしかない。
もちろん、本物と正直に言うわけではなく、あくまでコスプレとかそういう方向性でね。
まあ、動画配信者だったとしても、コスプレしたまま外を出歩く人は、企画でもない限りそうはいないと思うけど、言い訳にはなる。
動画で姿を晒すことによって、こちらの正体がばれる可能性もなくはないけども、普通に考えて、動画の中で仮に人外要素を出したところで、それを信じる人は少ないだろう。
もちろん、あまりにも現実離れした、本来のサンダーバードの姿を全部見せるとかしたらちょっとあれかもしれないけど、【擬人化】した状態の姿を見られるくらいなら、多少おかしな行動をとったとしても、見逃されるはずである。
まあ、ちょっと希望的観測も入っているけど、下手に隠そうとするよりは、大々的に見せた方がいいという考え方もある。
大丈夫、敵と認定されない限りは、まともな行動をとっているだけなら特に何も言われないはずだ。
「何でも構いません。ゲームしたいだとか、歌を歌いたいとか」
「まあ、ゲームならそこそこできますよ」
そう言って、ケントさんは部屋の隅に置いてあるゲーム機を指さす。
どうも、仕事が決まる前に、暇をつぶすために、ローリスさん経由でお願いして用意してもらったらしく、ほぼ毎日のように遊んでいたんだとか。
一日中ゲームできるとか幸せな生活だなとか思うけど、おかげでそれなりにプレイには慣れているとのこと。
特に、サンダーバードになった影響なのか、動体視力もかなり強化されているようで、反射神経が要求されるゲームは結構得意とのこと。
まあ、別にそういうものに特化していなくても、要求されているのは、人外要素を持った人が何かしらしている様子だから、ただゲームするだけでも一応要件は満たしているのかな。
「なら、方向性はそれで行きましょう。まずは、自己紹介動画を作らないとですね」
「自己紹介するんですか?」
「そりゃ、動画を配信する以上は知ってもらわなければなりませんから。たとえ、見られることが目的でなくてもね」
紹介動画なしに、初めからゲーム動画とかを上げてもいいかもしれないけど、やっぱりそういうものを上げた方が周知されやすい。
動画配信をする以上は、最低限するべきことはしなければならない。
あからさまにやる気がないと、あの記者からも何言われるかわかったもんじゃないしね。
それに、ゲーム配信となると、動画に映すのはゲーム画面がメインとなるだろうし、それだとケントさんの姿を映す機会が少ない。
ケントさんの姿が、現実でも違和感ないものとするためには、その姿を動画で見せつける必要がある。
そのための、自己紹介動画でもあるわけだね。
まあ、心配なら顔だけ隠しておけばいいんじゃないかな。あんまり姿を晒しすぎて、このアパートが特定されるのは困るし。
「ねぇ、どうせやるならもっと人外感強くして見たら?」
「どういうことですか?」
そんなことを言っていると、ローリスさんが会話に入ってきた。
人外感を強くする。要は、尾羽だけでなく、他にも人外要素を足してみたらどうかという話らしい。
確かに、髪色と尾羽だけでは、人外配信者というには少し弱い気もするけど、そんなことできるんだろうか?
「【擬人化】をうまく使えば、ある程度見た目を操作することは可能よ。ハクだって、大人モードとかになれるでしょ?」
「まあ、それは確かに」
「だから例えば……頭をサンダーバードのものにしちゃうとか」
なるほど、確かに、頭が丸々サンダーバードのものになっていたら、顔ばれも避けることができるし、より人外感を強めることができる。
一応、頭だけなら被り物をしているという言い訳もできるし、割とありかもしれない。
「それ、喋れるんですか?」
「大丈夫でしょ。難しそうなら、ハクが何とかしてくれるわ」
「私任せですか……。いやまあ、それくらいなら多分何とか出来ますけど」
魔物の口の構造は、人の言葉を話すのに適しているわけではないが、魔物の中にはきちんと人の言葉を喋ることができる魔物だって存在する。
それに、構造だけで言うなら、ローリスさんだって同じようなものだし、練習すれば話すくらいは普通にできるだろう。
もしダメそうなら、翻訳魔法か何かを使えばいいし、いっそのこと、思いっきり魔物の鳴き声みたいなのにして、字幕でこう喋っている、みたいな感じにしたらそれはそれでありかもしれない。
「うーん、まあ、そう言うことなら……」
「なら、さっそく自己紹介動画作りましょ。撮影は私がやって上げるわ」
そう言って、カメラを持つローリスさん。
なんだかんだ、ローリスさんもこの状況を楽しんでいる気がする。
ひとまず、自己紹介の分を作り、カンペを用意して、撮影の用意をする。
部屋がちょっと映ってしまうのはあれだけど、まあ気をつければ特定はされないだろうし、多分問題はないだろう。
「それじゃあ、行きますよ。さん、にー、いち、きゅー!」
「は、初めましてー。人外系ライバー始めましたー」
自己紹介動画ということで、そこまで長く尺を取ることはないが、ケントさんはカンペ通りにサクサクと紹介をしていく。
ところどころ、緊張からか噛んだりどもったりしているところはあったけど、それはまあ、初心者らしくていいんじゃないだろうか?
最後に挨拶をして、動画を終了する。
見ていた限りでは、なかなかよかったのではないだろうか?
「こ、これでいいんですか?」
「うん、大丈夫。後はこれをアップロードして、SNSで告知しておけばオッケー」
一応、改めて見返して、都合が悪いものが映ってないかを確認し、問題なさそうだったので、編集して後日動画サイトに上げることになった。
編集に関しては、私はそんなに詳しくはないんだけど、その辺は一夜に聞いてみることにしよう。
不安げに顔をしかめるケントさんと、対照的にニコニコなローリスさん。
さて、うまい具合に誤魔化せてくれるといいんだけど。
私は、一抹の不安を抱えながらも、作業を進めることにした。
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