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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十二章:転生者の仕事編
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第三百二十一話:ひとまずの対処

 部屋の中で、私達は改めてケントさんから話を聞く。

 状況としては、ウィーネさんに聞かされたものと大体同じ。出勤途中に数人の男性に襲われている女性を見つけ、ちょっと痺れさせて動きを封じる形で撃退した。

 なぜ襲われていたのかはよくわからなかったけど、放っておくこともできなかったので、女性を助け起こした後、特に会話することもなくその場を去ったという。

 女性は、ぜひともお礼がしたいから名前や連絡先を教えてほしいと言っていたようだが、正体がばれるわけにもいかなかったので、それらはすべて無視したようだ。

 その結果、その女性はSNSに写真を投稿し、色々と言われているわけである。

 確かに、助けておきながら無視して去っていったケントさんも悪いっちゃ悪いけど、やっぱり無断でSNSに写真を投稿するのはいただけないよなぁ。


「ちなみに、その写真ってどんなのなんですか?」


「あ、これです」


 そう言って、ケントさんはスマホを取り出し、そのSNSの投稿を見せてくれた。

 見た限り、どうやら後ろから撮られたもののようである。

 ケントさんの格好は、ジーパンにジャンバーという格好だったが、慌てて撮ったためか、かなりブレていて、後ろ姿というのも相まって、個人を特定するほどのものではないように見える。

 ただ、よく見てみると、ジーパンの隙間から特徴的なギザギザの尾羽が飛び出しているのが見えたので、恐らくこれを見咎められたんだろうなとわかった。

 返信欄を見てみると、個人的に解析した人がいるのか、その部分をアップした写真なんかも上がっている。

 彼女を批判しているのは、恩人を探すためとはいえ、無断で写真を投稿したこともそうだけど、女性がなんでこんな時間に外を出歩いているのかとか、そんな都合よく助けが現れるわけがないとか、あまりにも都合が良すぎる状況なだけに、やらせなんじゃないかと疑っている人達である。

 まあ、確かに、この人が何でそんな時間に外を出歩いていたのかって言うのは引っかかるよね。

 そりゃ、この国は夜に女性が一人で出歩いても大丈夫なくらい治安はいい方ではあるけど、だからと言ってわざわざ夜に出かける理由なんてないだろう。

 肝試しでもしに来たんだろうか? こんな街中でやることではない気もするけど。


「このまま放っておけば、いずれ収まる気はしますが……」


「それはそうなんでしょうが、やっぱり、気になって……」


「うーん」


 流石に、いくら解析されたところで、この写真からケントさんに辿り着くことは不可能だろう。

 相当ぶれているし、自分の名前が書かれたものが映っているというわけでもない。

 強いて言うなら服装とかから特定されるかもしれないが、その時着ていた服は、正則さんから支給されたものらしいので、買った店から辿り着くこともできないだろう。そもそも、同じような服を着ている人なんてたくさんいるだろうしね。

 手がかりと言えるのは、たまたま映ってしまった尾羽と、帽子の隙間から覗く黄色い髪くらいか。

 まあ、よほど根気良く調べれば、この辺りで黄色い髪色をしている人なんてここくらいなものだろうし、それで辿り着かれる可能性はあるかもしれないけど、流石にそこまでして調べる人はいないはず。

 だから、このまま放っておけば、次第に熱も冷めて、ネットの海に流れていくと思うけど、それだとこの女性が可哀そうだというのがケントさんの言い分らしい。

 私としては、どう見ても自業自得なんだけど、根が優しいんだろうね。

 さて、そうなると、どうするべきか。


「流石に、正体をばらすのはあまりお勧めしませんが」


「それはわかってます。だから、正体を隠して、どうにか会えないかなと」


「一応、お父さんが調べてくれているけど、まだ見つかってはいないわね」


 ケントさんは、その女性についてある程度の特徴は覚えていたが、詳しく顔までは見ていないらしく、手掛かりはそこまで多くないのだという。

 いくら情報網が広い正則さんとはいえ、流石にそれだけの情報では特定するのは難しいらしく、捜索は難航しているとのこと。

 せめて、その女性のアカウントから、ある程度場所を特定できればとも思ったけど、どうやら今回のためにわざわざ新しくアカウントを作ったらしく、それらしい投稿は何もなかったようだ。


「ならもう、DMでも送ったらいいんじゃないですか?」


 唯一彼女に繋がる場所がそのSNSしかないのだから、そこからメッセージを送って、連絡を取る以外にないだろう。

 そりゃ、恩人を探しているって内容に、自分こそがその恩人ですってメッセージを送ったところで、警戒されてしまうかもしれないけど、相手だって、探している以上は無碍にはできないはず。

 会うのは難しくても、せめてメッセージでお礼でも言ってもらえれば、相手も満足するかもしれないし、この件が収まれば、批判する人もいなくなるはずだし。


「やっぱり、それしかないですかね」


「それで受け入れてもらえるならそれでいいですし、受け入れてもらえないにしても、何もしないよりはましでは」


 一番嫌なのは、この話が大きくなりすぎて、本格的に捜索が始まってしまうことである。

 手がかりはかなりブレた写真一つのみとはいえ、特徴的な髪色と尾羽が見えてしまっている。

 特に、髪色はほとんどが黒髪や茶髪なこの国では目立ちすぎるし、それだけで特定される可能性もなくはない。

 だったら、話が大きくなる前に、収めた方がいいだろう。


「……わかりました。やってみます」


 ケントさんは、そう言ってスマホを操作する。

 まあ、解決法としてはちょっと強引かもしれないけど、このまま放置しておくよりはまだましな解決法だろう。

 メッセージにて、あの時助けた者だということ、そして、写真を削除するようにという旨を書く。

 写真の削除に関しては、ネットの海に放たれた時点でもう手遅れな気がしないでもないけど、少なくとも、この女性に対する批判はなくなるだろう。

 メッセージを送り、しばらく待っていると、返信が来た。

 そこには、ぜひ直接お会いしてお礼が言いたいので、駅で待ち合わせしたいと言った旨が書かれていた。

 駅に関しては、そう遠くない場所である。このアパートの最寄り駅と言ってもいい場所だ。

 待ち合わせするにしてはちょっと小さな駅な気もするけど、場所で合わせたんだろうか?

 本来なら、できれば会いたくはないけど、ケントさんの気持ちを考えると、会っておいた方がいいだろう。

 一応、帽子などの対策の他に、こちらで隠蔽魔法でも掛けておけば、万が一にもばれることはないはずである。

 ケントさんも行きたそうにしていたので、向かうことにした。


「ケントさん、私も隠密魔法で姿を消してついて行きますので、何かあっても後始末は任せてください」


「いや、流石にこれ以上正体がばれるようなことはしませんよ。大丈夫です」


「念のためですから」


 ないとは思うけど、正体が露見するようなこともあるかもしれない。

 隠蔽魔法はしっかりするつもりだから、大丈夫だとは思いつつも、しっかり自分の目で確認しておきたかった。

 少し不満そうなケントさんを言いくるめて、出かける準備をする。

 さて、変なことにならなきゃいいけど。

 感想ありがとうございます。

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