幕間:お披露目式
主人公、ハクの視点です。
今日は、魔導船のお披露目会の日である。
お披露目と言っても、公の発表ではなく、魔導船の製作に携わった国々に対するものではあるけど、携わった国は結構な数に上るし、そのうち魔導船の情報は世界中に広がっていくことだろう。
最先端の技術を真っ先に目の当たりにできると考えれば、このお披露目会も結構重要な意味を持つ。
特に、あまり活躍できなかった国は、自分も呼んでもらえてほっとしていることだろう。
「皆の者、よく集まってくれた。本日は、魔導船の完成を祝う日である。お互いの健闘を称え、どうか楽しんでいってほしい」
皇帝が、そう高らかに宣言する。
今回のお披露目会では、実際に魔導船を飛ばしてみて、その運用度のテストを行う目的もある。
協力してくれた国の中から、希望があった人々を数人乗せ、皇都の周りを一周する予定となっている。
まだ試作品故に、安全面の確認はされていないが、魔導船の初の飛行ということで、希望者は多く、ほぼすべての国から希望者が手を上げた。
中には、その国の王様なども行きたいと言っていた国もあったようだけど、流石に、万が一のことがあったらいけないので、王族は遠慮してもらったようだけど。
まあ、そんなの関係なしに、皇帝は乗るつもりみたいだけどね。
よほど職人達の腕を信頼しているのか、それとも好奇心か。どちらかはわからないけど、皇帝が乗り込むことで、他の人も若干安心しているようなので、意味はあるのかもしれない。
「それでは、乗り込んでくれ」
その言葉と同時に、魔導船からタラップが降りてくる。
皇帝が先んじて乗り込み、他の人達も後に続く。
私も、ぜひとも乗ってみたいと思っていたので、当然立候補している。なので、その後に続いた。
魔導船の内部は、客船をモデルに作られている。
いくつかの船室があり、パーティが開けるほどの大広間も存在している。
色々なパーツがくっついていることを除けば、ただの豪華客船に見えなくもない。
まあ、それだけでも凄いことだけどね。
ここまでの大きさの船は、この世界だとほとんど見ないし、これだけ大型化してきちんと機能するなら、魔導船じゃなくても凄い技術力である。
「皆乗ったな? それでは、発進!」
皇帝の指示により、魔導船が起動する。
各種取り付けられたプロペラやら羽やらが動き出し、徐々にその巨体を浮かび上がらせていく。
数瞬後には、船は上空にいた。
甲板でその光景を目の当たりにしていた人々は驚き、あるいは歓声を上げ、このプロジェクトの完成を喜んでいるようである。
いやぁ、まさかほんとに飛ぶとは。
半分くらい、飛ばずにそのままなんて可能性も考えていたけど、流石にセレフィーネさんの設計でそれはないか。
ぐんぐんと高度を上げやがて雲と同じくらい高くまでくる。
ここまでくると、若干空気が薄くなる気もするけど、まあ、そこまで深刻ではないかな。
風避けの魔道具も機能しているようで、突風に煽られて落ちそうになる、なんてこともない。
この調子で行けば、快適な空の旅を続けることができそうだ。
「魔法を使わず、人の手だけで空を飛ぶ時代ですか」
「昔は空を飛ぶ人いなかったの?」
「飛行魔法で空を飛ぶ人はいましたが、このように道具を使って空を飛ぶ人はいませんでしたね」
エルが、感慨深そうな表情でその光景を見ている。
飛行魔法は、相当な魔力操作の技術と、莫大な魔力が必要となってくる。
遥か昔では、神様の神力が溢れていたから、魔力の問題は特になく、技術に関しても、それが当たり前の時代だっただろうから、特に驚かれるようなことはなかった。
しかし、神様が地上からいなくなり、神力から魔力へと変化していった過程で、飛行魔法は、ほぼ使い物にならない魔法と化してしまった。
だから、今の時代で空を飛ぶというのは、かなりの偉業なのである。
そう考えると、確かに凄いことだよね。
「船が空を飛ぶって言うのは、ゲームでは見たことがあるけど、実際にやるってなると凄いことなんだね」
「ハクお嬢様は、自分でも飛べますけどね」
「それはそうだけど、こういうのってワクワクしない?」
そりゃ確かに、あちらの世界では、飛行船だったり、飛行機だったり、空を飛ぶ手段は色々あるけど、手段によって、感じ方は変わると思う。
極端に言うなら、自力で空を飛ぶのと、誰かに飛ばせてもらうのとでは全然違うだろう。
特に、魔導船はおとぎ話の中に出てくるような、本来は存在しない船である。
それが実際に飛んでいると考えると、ちょっと興奮する。
「申し訳ありませんが、私にはよくわかりません」
「そう?」
「不安定というか、いつ落ちるかもわからないものに身を任せたくはないので」
エルとしては、自分で飛べるのに、わざわざ自分よりも遅く、不安定なものに身を任せるのはあまりよろしくないらしい。
魔導船の方が性能的に上回っているというなら、使うのも吝かではないが、そうでないなら、自分で飛んだ方がましって感じらしい。
まあ、この辺りは、空への憧れを持っているかどうかで変わってくると思う。
私は、元々普通の人間だったから、空を飛んでみたいという願望は少なからずあった。けれど、エルは元々が竜で、空を飛べるのが当たり前だったから、そこまで空に対する憧れがないんだろう。
だから、同じ飛ぶなら、単に性能のいい方を選びたいってことなんだと思う。
「ハクお嬢様は、この船と私の背中なら、どっちがいいですか?」
「それは、エルの背中だけど」
「ふふ、それを聞いて安心しました」
ちょっと嬉しそうに笑顔を見せるエル。
何の対抗心なんだろうか。魔導船もエルの背中も、どちらもいいものだと思うけどね。
しかし、この魔導船、そんなに速くはないな。
かなり巨大だから、それを浮かせるための浮力を生み出すので精一杯で、推進力を生み出す力が弱いんだろうか。
この様子だと、もしかしたら馬車の方が早い可能性もある。
これなら、移動革命とまでは行かないのかな?
いや、いくら遅くても、道中危険な魔物や盗賊と出会わなくて済むというのはあるし、空なら地形関係なく一直線に進むことができることを考えると、多少遅くてもつり合いは取れているかもしれない。
それに、今回の魔導船は、まだ試作品段階である。
これからもっと改良が成されていくだろうし、そのうち、高速で移動できる手段として確立するかもしれない。
「まあ、これに関しては、今後に期待かな」
こうして、空を飛び、移動できるというだけで、すでに革命的な発明である。それに文句を言うのは、お門違いというもの。
まあ、改良するにあたって、またギガントゴーレム級の魔石が必要になるかもしれないと思うと、なかなか進まなそうではあるけど、それもいずれは改良していけるといいね。
魔導船は、宣言通り皇都を一周し、元の場所に戻って、着陸することができた。
人々は、空飛ぶ船に感銘を受け、その一助となれたことを誇りに思うことだろう。
いつの日か、魔導船が普通に使われる時代も来るといいね。




