第三百十八話:船の完成
その後、セレフィーネさんを攫った男達を尋問し、アルバン王国の関与がきちんと判明した。
ゴーフェンは、すぐさま公式に文書を送り、アルバン王国に抗議したが、アルバン王国は関与を否定し、そんな奴らは知らないと一点張りだった。
まあ、そう言うしかないよねって感じ。
ここで認めてしまったら、ゴーフェンから何を要求されるかわかったもんじゃないし、社会的にも、ゴーフェンを妨害した国として、多くの国から批判を浴びることになってしまう。
ただ、今更否定しても遅いけどね。
あれから解析も進んで、樽に仕掛けられていた刻印魔法の型が判明し、アルバン王国の刻印師によるものだと判明した。
これは、私が【鑑定】によって、製作者の確認もしたので、間違いない。
他にも、アルバン王国の関与が判明してから調査した結果、職人の何人かに、寝返るように勧誘していたことが判明した。
幸い、職人達はいずれも寝返るような人はいなかったようだけど、刻印魔法が施された樽を贈ったことも判明しているし、もはや言い逃れはできない。
いくらアルバン王国が否定したところで、ゴーフェンはアルバン王国がやったと確信しているし、周りの国にもそう発信する。
ゴーフェンとアルバン、国力の差がはっきりしているこの二国を比べた時に、どちらの主張を信じるかと言われたら、そんなの考えるまでもない。
証拠がないならともかく、それも揃っているからね。少なくとも、ゴーフェンに友好的な国は、皆アルバン王国を非難するだろう。
ゴーフェンの社会的地位を失墜させるつもりが、自分の国が信用を失ってしまった。何とも皮肉な話である。
まあ、歴史的に仕方ない部分もあったのかもしれないけど、そこで張り合うのではなく、別の強みを見つけるなりなんなりして、自分を磨くことができたのなら、少しは変わっていたかもしれないね。
「アルバン王国は、ゴーフェンからの経済的制裁を受けて弱体化するだろうし、この件にはもう手を出せないだろうね」
流石に、ゴーフェンが正式に抗議している中、アルバン王国の人間による不祥事が発覚したら、それこそ言い逃れができない。
まあ、言い逃れしようがしまいが、経済的制裁を受けることに変わりはないだろうが、少しでも無実の余地が残っているのと、完全な有罪では全然違う。
だから、アルバン王国は、無理くりでも関与を否定し続けるしかない。
そして、そうなっている以上、これ以上の妨害はできないはずである。
もちろん、アルバン王国の他にも共謀して妨害しようとしていた国はあるかもしれないけど、今回の一斉調査で明らかにならなかったってことは、恐らくそう言った国はなかったんだろう。
アルバン王国の一人負けって形になるけど、そこはもう自業自得としか言いようがないね。
「開発も順調に進んで、もう完成するらしいですね」
「そうだね。いや、早かったなぁ」
妨害の心配がなくなったから、というのはあるけど、元々職人達の士気は高かったし、妨害の心配がなくなり、素材の供給も、設計図の問題も、特に問題らしいものがなかったので、とんとん拍子に進み、エルバートさんの予想通り、一か月後には完成が見えてきていた。
すでに船体のコーティング作業は終え、浮力を生み出すパーツの取り付けに入っている。
最も重要な動力部も、満を持して登場したギガントゴーレムによって問題なく完成し、魔導船の形はすでに完成形と言ってもいい。
「明日にはお披露目でしたっけ?」
「うん。実際に飛ばしてみるらしいから、楽しみだね」
お披露目と言っても、公に公開するのはまだまだ先ではあるが、完成祝いということで、関係者の中から何人かを選んで、実際に飛ばしてみるようだった。
動力部のテストはすでに行っているから、すぐに失速して落下、ということにはならないと思うけど、初めての試みであるために、失敗する可能性もある。
だから、ちょっと怖くはあるけど、これに乗らない手はない。
本当なら、何年も先のことだったはずなのに、こうして半年ちょっとで乗れるようになったのだから、私としても嬉しい限りだ。
最悪落ちても、それはそれでいい思い出になると思う。
いや、実際落ちたら大惨事だろうから、ちゃんと対処はするけどね?
「ハクさん、ここにいらっしゃいましたか」
「セレフィーネさん、それに、エルバートさんも」
ちょっと感慨にふけっていると、セレフィーネさんがやってきた。
隣には、少し不機嫌そうな顔をしたエルバートさんが立っている。
この二人は、今回の魔導船造りの最大の功労者と言っていいだろう。
この二人がいなければ、ここまで短期間で完成することはなかったと思う。
「どうかしましたか?」
「まだお礼をしていないと思いまして」
「ああ、あれですか」
そういえば、後でお礼をすると言っていたような気がする。
あの後は、国の調査とかで色々忙しかったというのもあり、結局お礼は受け取らずじまいだったんだけど、そのまま忘れてくれていてもよかったんだけどな。
「セレネを助けてくれたことには感謝している。本当なら、個人のために魔道具作りなどあまりしないが、今回は特別だ」
「ハクさんのために、新しい魔道具を作ったんですよ。どうか、受け取っていただけますか?」
そう言って、セレフィーネさんは小さな小箱を渡してきた。
開けてみると、中には黒い結晶質の石がはめ込まれた、ペンダントのようなものが入っている。
アクセサリーとして見るなら、なかなかおしゃれな代物だけど、一体どんな魔道具なんだろうか?
「それは、まだ未完成なんです。ハクさん、あなたの魔力を注ぎ込んでみてくれますか?」
「こう、ですか?」
言われるがままに、注ぎ込んでみると、石が黒から透明に近い色に変わっていった。
「これで、ハクさんの魔力が登録されました」
「これは、一体どんな魔道具なんですか?」
「一言で言うなら、魔石生成装置、ですかね。ハクさんの余剰な魔力を吸い込んで、新たな魔石を生み出すことができるものです」
試しに、もう少し魔力を注ぎ込んでみてくださいというので、やってみると、石の色が完全に透明になり、表面が水面のように揺らぎ始める。そして、波紋が広がっていったかと思うと、ぽちゃん、という音と共に、小さな魔石が転がり落ちた。
涙型をした、透明な魔石。
魔力を注ぎ込めと言われたが、私の場合は神力なので、小さいとはいえ、かなりの密度を誇っているようである。
これ、魔石としては相当優秀なのでは? 小さいのに魔力が多いってことは、それだけ魔道具の小型化ができるってことだし。
「見ていた限り、ハクさんは魔力を持て余していそうなので、その魔力を利用できる形のものを作らせていただきました。気に入っていただけると嬉しいのですが……」
「いや、これ凄いですよ。とても嬉しいです」
魔石を生成できるというだけでも凄いが、もっと凄いのは、余剰の魔力を吸い取ってくれるということである。
私の魔力、いや、神力は、竜珠によって抑えてはいるものの、まだかなりの量が漏れ出てしまっている。
訓練をすることによって、抑えることはできているし、定期的に発散すれば、普通の人間と変わらないくらいまでにはできるけど、それには結構な精神的な労力がかかる。
それを、この魔道具は解決してくれるのだ。
私にとっては、普通の生活をするにあたって、必需品レベルで欲しいものである。
「それならよかった。改めて、あの時はありがとうございました。また何か困ったことがあったら、頼らせていただきますね」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」
「それでは」
そう言って、二人は去っていく。
最後に思わぬ貰い物をしたが、まさか、セレフィーネさんは私の神力のことを知っていたんだろうか?
いや、魔力と言っていたし、神力とは思ってないのかな。
でも、私にとって有意義なものを贈ってくれたことに間違いはない。
明日のお披露目会も楽しみだし、今回の件は、とても楽しかった。
私は、ペンダントを首にかけ、その場を後にするのだった。
感想ありがとうございます。
今回で、第二部第十一章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十二章に続きます。




