第三百十一話:海の破壊者
転移魔法で港町までやってくる。
シノノメさんを探すためにやってきたことはあったけど、今日も賑わっているようだ。
ひとまず、シーサーペントの情報がないかを探ってみる。
もしかしたら、近くにいるかもしれないし。
「いや、そんな話は聞かないなぁ」
そう思って、船乗りの何人かに話を聞いてみたが、誰も知らない様子だった。
この町のギルドにも足を運んだが、同じく情報は入ってきていないという。
やっぱり、そう簡単には見つかってくれないようだ。
「ちなみに、シーサーペントを探すために船を出してくれたりは?」
「いや、するわけないだろ。誰が好き好んであんな危険生物を探しに行くんだよ」
一応、誰か船を出してくれないかと聞いてみたが、誰もが首を横に振っていた。
まあ、そりゃそうだよね。いくらお兄ちゃん達が王都で有名なAランク冒険者だとはいえ、絶対無事に生還できる保証はない。
仮に命が助かっても、船に大ダメージを負う可能性も十分にあるし、わざわざそんな危険な目に遭いたいと思う人はいないようだった。
多分、王様に交渉すれば、多少報酬を出してくれそうな気がしないでもないけど、それでも人は集まらなそう。
やっぱり、船乗りの力を借りるのは難しそうだなぁ、
「どうしたものかなぁ」
「海の上でもある程度戦える足場があればいいんですよね?」
「え? うん、まあ、そうだけど」
悩んでいると、エルが確認するようにそう話しかけてきた。
浮遊魔法で浮かすという手はあるが、それだと戦うのが難しい。
やはり、船は必要になると思うんだけど、何か当てでもあるんだろうか。
「それでしたら、私の背に乗るというのはどうでしょう」
「え?」
「いえ、ですから、私の背に。人間と比べたら大きいですし、ある程度の足場にはなると思いますが」
そう言われて、はっとした。
そうだ、よくよく考えてみれば、エルの正体は竜である。その真の姿を解放すれば、空飛ぶ足場として利用できないことはないだろう。
まあ、竜をそんな使い方していいのかという疑問はあるけど、私とエルで力を合わせれば、海の上でも十分に活動できるだけの足場を確保することができるはず。
なんで思いつかなかったんだろうか。確かに、背中に乗るというのは考えないでもなかったが、足場にするという発想はなかった。
「でも、エルはそれでいいの?」
「まあ、ハクお嬢様以外を乗せるのはあまり好きではありませんが、別にそこまで気にするほどのことでもありませんし」
「そ、そっか。なら、お願いしてもいい?」
「もちろんです」
さて、これで問題は解決した。後は、シーサーペントを見つけられるかどうかにかかっている。
ひとまず、人気のないところまで行き、エルに竜の姿になってもらう。
私も、戦う際は足場になる所存ではあるけど、見つけるまではエルに頼ってもいいだろう。
というか、足場も何も、私達が直接戦えばいいんじゃないかとも思ったけど、それだとお兄ちゃん達の戦果がなくなっちゃうから、やっぱり戦う必要はあるか。
全員で乗り込んで、海原へと飛び立つ。
ひとまず、港が見えなくなるくらいまで飛んで、そこからどこを探しに行くかを考えることにした。
「シーサーペントの生息域とかわかるの?」
「いや、わからないけど」
「……それで探せるの?」
「まあ、ほら、今日一日で見つけなくちゃいけないわけじゃないし」
流石に、ノーヒントですぐに見つけられるだなんて思っていない。
以前、シノノメさんを捜索する際にも、フェアリーサークルというヒントはあったが、見つけるには相当な時間がかかった。
それを考えると、今回はさらに難易度が高いだろう。
闇雲に探すのは大変ではあるけど、海の魔物の生息域を正確に調べる術はこの世界にはない。
だから、それらしい場所を予測して、探していくしかないね。
「地道に行こ?」
「まあ、それもそうか。何とかなるだろ」
ずっと飛ぶことになるエルには申し訳ないが、しばらくはこれで探していくとしよう。
地平線の先まで広がる海原を見つめながら、獲物を求めて飛び回るのだった。
そうして探し始めてから一週間ほど。成果は全然なかった。
時たま、船を見かけたり、島を見かけたりすることはあったが、海上に出て獲物を探しているシーサーペントを見つけることはできなかった。
いやまあ、シーサーペントが海上に出るのは、獲物の音を察知してのことだろうし、普段は海の底で大人しくしているのかもしれないから、海の上で探すだけ無駄なのかもしれない。
あるいは、大きな音を立てて、寄ってくるのを試してみるのもいいかもしれない。
幸い、この状態でも魔法は使える。軽く爆発か何か起こせば、近くにいるなら寄ってくるかもしれないね。
「エル、ちょっと水面に近寄ってくれる?」
〈了解です〉
探知魔法で周りに船などがないことを確認し、火魔法で爆発を起こす。
派手な水しぶきが上がり、辺りに波が轟いた。
さて、これでどうかな?
「……お?」
しばらく待っていると、海の底から、何かが上がってくるのがわかった。
探知魔法で見てみても、結構大きな反応である。
これは、釣れただろうか?
やがて、それは海上に顔を出す。
それは、まさしく海の破壊者であるシーサーペントだった。
「来た来た。お兄ちゃん、お姉ちゃん、頼むよ」
「オッケー」
「任せとけ」
ようやく現れた魔物に、気合十分の二人。
私は、即座に竜の姿となり、みんなのサポートに回ることにした。
私とエルの背中を足場に、お兄ちゃん達がシーサーペントに突撃する。
シーサーペントの得意技は、その長い体による締め付け攻撃だ。
船よりも巨大な体は、容易に船を残骸に変えるほどの威力を持つが、逆に言えば、小さな獲物相手には効果を発揮しにくいということでもある。
まるで、羽でも生えているかのように空中を自在に飛び回る二人を前に、シーサーペントは翻弄されていた。
「キシャァアアアア!」
闇雲に、水のブレスを放つシーサーペント。
まるで高圧洗浄機のような細いブレスは、当たれば岩をも貫きそうな威力がありそうだが、それに当たるほど私達は弱くはない。
空中での戦闘故に、近づくのに多少苦労はしたが、二人の攻撃が届けば、一瞬にして頭を切り飛ばされ、その身を水面に横たえさせる結果となった。
「お疲れ様」
「まあ、ざっとこんなもんだな」
今回、必要なのはシーサーペントの鱗である。
それなりの枚数が必要故に、外傷は必要最低限という条件があったが、二人は見事にそれを成し遂げた。
まあ、攻撃が的確過ぎて、倒れた後もしばらくぴくぴく動いていたが、やがてそれも収まり、回収可能な状態になる。
かなり大きいが、私の【ストレージ】なら問題なく収納可能だ。
後は、この一体で足りるかどうかってところだね。
まあ、一層をすべてシーサーペントの鱗で覆うわけではないと思うし、かなりでかいから足りるとは思うけど、必要なら、もう一度爆発を起こして誘うのもいいかもしれない。
その辺は、後で様子を見てからやるとしようか。
そんなことを考えながら、王都に帰るのだった。
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