第三百十話:担当する魔物
王様に伝えたことで、すぐにギルドにそれぞれの魔物の討伐依頼が出された。
今回必要なのは、できる限り魔力伝導率がいい素材を持つ魔物ということになるけど、その条件で行くと、AランクやらBランクやらの魔物がごろごろ対象になってくる。
一応、木材に近づけていきたいから、最終的には普通の魔物も相手にする必要はあるんだけど、それらは別に急がなくても手に入れられる。
ということで、今回集めるべきなのは、そんな高ランクの危険な魔物ばかりというわけだ。
「まさか、ハクもこの件に一枚噛んでいたとはね」
「教えてくれてもよかったんじゃないか?」
「いや、まあ、一応秘密だったっぽいからさ」
危険度の高い魔物を狩る以上、ギルド側も、ランクの高い冒険者を選別する必要がある。
そうなると、必然的に名前が挙がってくるのが、お兄ちゃんとお姉ちゃんだ。
なんたって、王都随一の冒険者だからね。この二人を置いて、王都の冒険者を語ることはできないだろう。
一応、他にも世間的に有名な冒険者はいるが、やはり二人が群を抜いている。
今回の依頼は、国からの直接の依頼だし、ギルドとしても、この二人に声をかけないわけにはいかなかったってことだね。
私としては、一緒に仕事できるから嬉しいけども。
「そんなプロジェクトなら、王都中の冒険者に声をかけてもおかしくないが」
「流石に、そこまで人員は割けないよ。王都の守りもあるし」
一応、王都の守りという意味では、国の騎士達がいるっちゃいるが、有事の際は、滞在している冒険者に助けを乞うこともある。
特に、Bランク以上の冒険者は、国が囲っていることも多く、優遇する代わりに、その町にいてもらうって言うことをしているので、冒険者も立派な戦力だ。
だから、いくらゴーフェンに気に入られるためとはいえ、すべての人員を割くということは難しく、今回魔物討伐に指名されたのは、お兄ちゃん達を含め、10名程度。
まあ、Bランク以上の冒険者は貴重なので、これでも多い方ではあるんだけどね。
と言っても、早々王都に危機が訪れるとは思えないけど。
「今回、俺達が狩るのはどいつだ?」
「シーサーペントだって」
シーサーペントとは、海に存在する、細長い体を持つ巨大な蛇である。
海で襲われる魔物として有名なのは、おとぎ話にも登場しているクラーケンだが、シーサーペントも割と有名な方で、出会った場合、その細長い体で船を絞め壊し、沈めるという。
音にかなり敏感なので、どうにかして大きな音を響かせることができれば、怯んで、うまくすれば逃げてくれることもあるようだけど、逆上して襲い掛かってくることもあるので、一概に対処法とも言えない。
できうる限りの対処法があるとすれば、それは祈ることだけ。
海の魔物は理不尽なのが多いけど、シーサーペントも、その例に漏れないようだね。
「シーサーペントって言うと、以前に戦ったことあるわね」
「そうなの?」
「ええ。師匠と一緒にね」
「それって……」
お姉ちゃんは、昔師匠であるシノノメさんと共に、海の魔物を退治しに行ったことがあると言っていた。
その時は、船を大破させられ、運よく陸に辿り着いたって話だけど、もしそうだとしたら、お姉ちゃんは一度負けているわけか。
海の魔物は、負ければそのまま船を転覆させられ、海に放り出されてお陀仏ってパターンが多いから、生き残っているだけ凄いと思うけど、それほどの強敵ってことでもある。
まあ、今はその時よりもよっぽど強くなってると思うし、大丈夫だとは思うけどね。
いざという時は、私が浮遊魔法でみんなを浮かせれば沈むことはないと思うし。
「ま、今回こそは倒してやるわ」
「怖くない?」
「当たり前でしょ。あの時のことを後悔させてやるんだから」
そう言って息巻いているお姉ちゃん。
多分、今から戦うのは、その時のシーサーペントとは別個体だと思うけど……まあ、別にいいか。
お兄ちゃんにお姉ちゃん、それにエルと私。どう考えても過剰戦力だけど、海ということを考えると、案外打倒かもしれない。
まずは、シーサーペントを見つけるところから始めないといけないけどね。
「それで? シーサーペントの目撃情報は?」
「今のところはないって。だから、見つかるまで待つか、探しに行くかってことになると思うけど」
「なんだ、すぐに戦うってわけじゃないんだな」
魔物の出現状況は、ギルドが割と把握しているけど、シーサーペントの情報はなかったような気がする。
まあ、元々遭ったら帰れないみたいな相手だし、それで情報が遅れてるって可能性もあるけど、今のところ、船が帰ってこないってことはない様子。
となると、航路から外れた場所にいるのは間違いないだろう。
見つけるためには、あえて航路を外れて探しに行くか、あるいは出現するまで待つかってところだけど、まあ、待ってられるわけもないので探しに行くよね。
別に、早く討伐したからと言って、他の冒険者の討伐待ちになると思うし、早くに狩る意味はあんまりないけど、ただ待っているというのも暇だし。
一応、早めに見つけられればゴーフェンからの評価が上がるかもしれないというメリットもないことはないし、さっさと見つけに行きたいね。
「ま、そういうことならのんびり探して行こうか」
「船は用意してあるの?」
「ああ、それはちょっと難航しているみたい」
海の魔物を狩る以上、船は必須になるわけだが、誰だって、好き好んで危険に飛び込みたくはない。
それも、出会ったらほぼ沈められて帰ってこれないというシーサーペントが相手となれば、わざわざ志願する人もいないってわけだ。
最悪、船は国が用意するって感じで用意できるかもしれないけど、人がいなければ動かすことはできない。
流石に、私も一人で操船はできないし、船乗りの協力は必須になってくる。
「ああ、まあそうだよな」
「どうする? 小舟でも借りていく?」
「いや、流石に小舟じゃ戦いにくいだろ。お前はともかく、俺は足場が必要なんだ」
「私だって必要だけど」
一応、私が浮遊魔法でみんなを浮かせて探しに行くという手もあるけど、戦いとなると、流石にそれでは不安が残る。
いくら二人が実力者とは言っても、地に足をつけていなければその実力も半減するというもの。
まあ、お姉ちゃんの場合、頑張れば海の上を走れそうではあるんだけど、止まれないって言うのは普通にデメリットだろうしね。
誰か手伝ってくれる人がいればいいんだけど。
「とりあえず、港町に行ってから考えるか?」
「そうね」
ここで言い争っていても始まらないので、とりあえず向かうことにする。
さて、どうなることやら。
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