第三百九話:行きつく先は
「条件としては、魔力伝導率がいいものというのは当然ですが、加工が容易なもの、というのも上げられるでしょうね」
「加工が容易なものですか」
船体と浮力を生み出すパーツとの間に噛ませると言ったが、それだけでは効率ダウンは避けきれないらしい。
すべて解消するためには、念のため、船体すべてをその素材で覆う必要があるとのこと。
つまり、板とか曲線とか、そういう形に加工ができないと、そもそも船体すべてを覆うことが難しいってことだね。
「それだと、宝石とかは難しいですか?」
「加工自体はそこまで難しくないと思いますが、魔力伝導率の減衰を考えると、かなりの量が必要になってくるかもしれません」
宝石は、というよりは魔石は、削ることで形を整えることができる。ただし、削りすぎると、内部にある魔力が減って、魔力伝導率も落ちる結果となるので、例えば板状に加工するとなると、結構な減衰が予測される。
魔力伝導率の差を小さくするというのが目的なので、あまりにも減衰が酷いようなら、宝石は使えない可能性もあるとのこと。
「となると、素材としてよさそうなのは……」
「一番は、やはり魔物の素材でしょうね」
「やっぱり……」
魔物の素材は、その多くが魔力伝導率がいい。
魔物が持つ魔石の効果なのか、それとも別の理由があるのかはわからないが、魔物の素材は、倒して回収しても、魔力伝導率が落ちにくい。
だからこそ、武器や防具に使用されることも多いわけだ。
ただ、加工は結構難しく、硬い素材はとことん硬いので、素材は選ぶ必要がありそう。
一番いいのは、ゴムのような、柔軟な素材だろうか。
複数用意する必要があるから、すべてをそれにする必要はないけど。
「候補では、どんなのがいるんですか?」
「ワイバーンの鱗なんかはよさげだと思っているんですよね」
ワイバーンの鱗は、かなり硬く、魔法攻撃すら弾くと言われている。
加工は難しそうだが、もし加工できれば、確かに最適な素材になりそうだ。
一番上の素材は、魔力伝導率の良さもそうだが、敵からの攻撃に耐えうる防御力も備えている必要がある。それを考えると、確かにうってつけの素材かもしれない。
「まあ、欲を言うなら竜の鱗の方がよさそうですけどね」
「竜の鱗ですか……」
確かに、ワイバーンよりも、竜の鱗の方がより硬く、魔力伝導率もいいだろう。
しかし、竜を目の前にして、その発言とは……まさか気づいているわけではないよね?
一緒にいるエルもちょっと目つきが鋭くなったし、セレフィーネさんの底が知れない。
いや、まあ、多分ただの偶然だとは思うんだけどね。悪意がある言い方じゃなかったし。
「リストに関しては、簡単にまとめたものがあるので、渡しておきましょう」
「いいんですか?」
「どうせ、この後他の国の方々にも渡しますし、問題はないと思います。それに、ハクさんなら、簡単に見つけてくれそうですしね?」
「簡単かどうかはわかりませんが、頑張って見ます」
解決策は見えた。後は、このリストに載っている魔物を倒して、素材を入手するだけである。
私は、二人に礼を言い、マグニス邸を後にする。
しかし、簡単に手渡してくれたけど、書いてある魔物がえぐいのが多い気がする。
ワイバーンなんかはまだ可愛い方だ。危険度で表せば、平然とBランクやらAランクやらが出てくる。
もちろん、高ランクの冒険者なら倒せないことはないだろうけど……そもそもそんなに数がいるのだろうか。
確かに、船体すべてを覆うとはいえ、その層はとても薄い。魔物の毛皮とかでも、数体から十数体くらいいれば事足りるだろう。
ただ、危険度が高い魔物は、それ故に出現頻度も低い。会うためには、森の奥地とかの魔物の巣窟に出向かなくてはならないだろう。
高ランクの冒険者と言えど、そんなにホイホイ狩りに行けるんだろうか?
オルフェスはまあ、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかがいるから何とかなりそうだけど、他の国がちょっとしんどそう。
いや、他の国だって、Aランクの一人や二人くらいいるか。そもそも、冒険者はどこの国でも活動できるし、その気になれば他の国から引き抜いてくることもできる。
協力して集めるという手もあるし、冒険者の問題は何とかなりそうではある。
まあ、まずはこれらの魔物がいるところを探すべきだろう。
一応、心当たりはあるが、オルフェスでと考えると、ちょっと候補は少なくなるかな?
「素材だけでいいなら、竜の谷に行けば簡単に手に入ると思いますが」
「まあ、ね。でも、オルフェスじゃないし、どうかなって」
「気にする必要あります?」
「だって、フェアじゃないし」
確かに、オルフェスだけのことを思うなら、オルフェスの貢献度を稼ぐために色々手を回すのは間違っちゃいないけど、私は別にオルフェスが一番にならなければいけないなんて思っちゃいない。
他にも協力する国がいて、その中で誰が一番貢献度を稼げるかって言う勝負みたいなことをしているのだとしたら、そこに私みたいなのが入り込んじゃいけないだろう。
これがもし、私の我儘によるプロジェクトなら、それでもいいかもしれないけど、今回主導となっているのはゴーフェンである。
ゴーフェンだって、オルフェスだけ色々持ち込んで来たら、どう評価していいかわからないだろうし、そこは平等に評価が下されるべきだ。
まあ、一応私はオルフェスの国民だし、王様がやれというならやるけど、王様だって、そこまで望んではいないだろう。
ゴーフェンとの絆が深まれば、今後が安泰というのはあるかもしれないけど、それはあくまで国で解決すべきことであると思うし、わざわざ竜の力は借りないと思う。
私ができることは、できる限りオルフェスらしく、手伝いをすること。
未知のダンジョンで手に入れた宝石やらミスリルやらを大量に納品したり、竜の谷で狩ってきた魔物を納品したりは少し違うと思う。
確かに少し面倒ではあるけど、そこは守らないと。
「まあ、そういうことなら構いませんが、あんまり気にし過ぎて自らを縛り過ぎないように」
「わかってるよ」
さて、リストのことはフェンスさんに伝えて、そこから王様に伝えておくとしよう。
もしかしたら、冒険者として呼び出されるかもしれないけど、その時は応じてもいいかな。
私も、一応はBランク冒険者なわけだしね。
夢の船を作るというプロジェクト。最初から困難にぶち当たっているけど、一つ一つ乗り越えて、最後まで突き進んでいきたいものだ。
そんなことを考えながら、戻るのだった。
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