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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十一章:空飛ぶ船編
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第三百八話:セレフィーネの解決案

 屋敷に赴くと、執事さんに出迎えられた。

 応接室に通され、お茶がふるまわれる。

 しばらく待っていると、エルバートさんとセレフィーネさんがやってきた。


「なんだ貴様、私を笑いに来たのか!?」


「え?」


 なぜか、エルバートさんは不機嫌な様子で、私の顔を見るなりそう怒鳴ってきた。

 セレフィーネさんがそれを窘め、とりあえずソファに座る。

 一体何があったんだろうか。困ったことがあるなら相談に乗るよ?


「ふん、貴様も知っているだろう。魔導船の開発が、さっそく滞っていることを」


「ええ、まあ」


 エルバートさんが腹を立てているのは、さっそくプロジェクトが頓挫しているということについてのようだった。

 ミスリルを始め、いくつかの素材はすでに搬入されており、各種パーツの開発が進められている。

 ドワーフにとって、魔道具を作ることなど造作もなく、開発自体はうまくいっているようだった。

 しかし、パーツごとに作っているせいか、それを合わせた時の不具合が思った以上に大きく、このままではパーツの開発をやり直すか、あるいは設計図から作り直す必要があると言われているようだった。


「セレネの設計図は完璧だ。材料さえ揃えば、数ヶ月で完成することだろう。それなのに……」


「実際にはうまい具合に材料が揃わないと」


「そうだ! ああ、忌々しい……!」


 別に、エルバートさん的には、そこまで難易度の高い素材を要求しているつもりはないらしい。

 今問題になっている木材だって、普通に建材に使われている一般的な木材でも、十分に実現可能だと考えていたようだ。

 実際、木材とミスリルを合わせた魔道具も存在する。その最たるものが、マグニス家が作り出した、魔導銃だ。

 魔導銃では、特に魔力伝導率に関する問題は起こらなかった。だから、今回も大丈夫だと考えていた。

 しかし、実際にやってみるとこれである。

 一体、何が原因なのか、エルバートさんにもわからないようだった。


「セレフィーネさんもわからないんですか?」


「いえ? 原因は想像がつきます」


「そ、そうなのか!?」


 エルバートさんが、目を見開いてセレフィーネさんを見ている。

 なんで兄妹なのに知らないんだ。


「魔導銃は、魔石に込められた魔力を使用して、疑似的に魔法を再現し、それを弾として撃ち出すための魔道具です。確かに木材は使ってますが、使用部位はストックなどの部分であり、弾を撃ちだす部位には使用されていません」


「つまり、干渉しないってことですか?」


「はい。多少干渉しているとしても、魔導銃は誰にでも扱えるようにと、出力を弱めにしてあります。暴発を防ぐという目的もありますし、あえて効率を落としている部分もあるのです」


 私の知る魔導銃は、初級魔法、あわよくば中級魔法すら扱える代物だが、あれでも出力は落としているらしい。

 でも確かに、普通に魔法を放つのと同じと考えるなら、放った瞬間に銃が壊れてしまってもおかしくはない。そうならないってことは、そこを調整してるってことなんだろう。

 流石、魔道具の発明者だけあって、考えられている。


「しかし、魔導船の場合、浮力を発生させるパーツと船体が直接干渉します。船体に浮力を伝えなければいけないので当たり前ですが、それによって魔力減衰が発生し、効率が落ちる。これは、ある程度予想できたことです」


「し、しかしセレネ、あの時はこれでばっちりだと言っていたではないか」


「設計図通りの魔力伝導率を持つ素材なら、ですね。正直、木材の魔力伝導率を甘く見ていたというのはありますが、あそこまで効率が落ちると試算が出るとは思いませんでした」


 セレフィーネさん自身、木材の魔力伝導率にはあまり目を向けてこなかったらしい。

 魔道具の基本は魔石であり、魔石の魔力を設計図通りに伝えることができるなら、素材はそこまで関係なかった。

 効率が落ちると言っても、それがそこまで大きくないなら、減衰率もたかが知れているし、そこまで重要視しないこともよくあったのだという。

 完璧を目指すドワーフにしては珍しい発想だなと思ったけど、それはセレフィーネさんだけに限った話ではなく、すべての魔道具職人に言えるらしい。

 例えるなら、ポテトチップスの袋から、一枚なくなってもそこまで大きな損ではないが、もちもち触感が売りの二つしか入ってないアイスから一つがなくなったら凄く損した気分になるとか、そんな感じ。

 小さな変化であれば、よほど致命的なバグでもない限りは気にしない、そんな感じなんだと思う。


「何か解決策はないんですか?」


「ありますよ」


「え、あるの?」


「当たり前じゃないですか。私を誰だと思ってるんです?」


 きょとんとした顔をしているエルバートさんに、セレフィーネさんはくすくすと笑いながら答える。

 てっきり解決策なんてないと思っていたけど、案外簡単なことなんだろうか?


「魔力伝導率が著しく離れた物体同士が接触しているとまずいならば、魔力伝導率をできる限り同じに近づけたものを噛ませれば問題ないわけです」


「でも、それだとすべてをミスリルで作ることになってしまうんじゃ?」


「別に、ミスリルである必要はないですよ。例えば、そうですね……宝石を噛ませるとかどうでしょう」


 宝石は、魔石の亜種とも呼ばれており、高い魔力伝導率を誇る。

 確かに、魔力伝導率だけの話をするなら、宝石ならミスリルとも近い、というかむしろ上回っているまであるけど、宝石で船体を作れということだろうか?


「一枚で完結させる必要はありません。宝石の下に、さらに別の素材を噛ませ、その下にさらに別の素材を、という形に、徐々に魔力伝導率を下げていく形を取れば、そこまで不具合も発生しないと思います」


「なるほど……」


 つまり、層を作れということか。

 ミスリルと木材が嚙み合っているのが問題なのであって、その間に、魔力伝導率が比較的高いものをいくつか噛ませていき、魔力伝導率の差を徐々に小さくしていけば、不具合は生じないということだ。

 確かにそれなら、魔力伝導率の高い木材をわざわざ探してこなくても、他の素材で代用することができるし、数もそこまで必要にならないだろう。

 流石、設計者だけあって、問題の把握もお手の物のようだ。


「あれ、でも、なら何で早くそれを言わなかったんですか?」


 この数日間、各国とゴーフェンの間で、素材をどうしようかとずっと相談していた。

 その解決策が、すでに思い浮かんでいたのなら、早く言えばよかったのではないだろうか。


「代用となる素材の選定をしていたんですよ。候補となる素材を持ってきてもらって、それから絞るのもよかったですが、ある程度は決めておきたかったので」


 設計図を描き直すのも楽じゃないんですよ、とセレフィーネさんは笑っていた。

 確かに、設計図がすでにあるのに、色々な素材を持ってきて、こっちの方がよさそうだからそれに変えていくって形になると、いらぬところで不具合が生じる可能性がある。

 まあ、それを見越して、素材の明言はせず、魔力伝導率などの特性で描いていたようだけど、やっぱりそれだと面倒くさいってなったようだ。

 まあ、それなら仕方ないのかな。その気持ちはわかるし。

 でも、素材の選定をしているなら、これで少しは進むだろうか。

 フェンスさんも、ちょっと疲れた顔をしていたし、いい報告ができそうで何よりである。

 そんなことを思いながら、どんな素材が必要なのか、聞いてみることにした。

 感想ありがとうございます。

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