第三百七話:木材の養殖
エルに魔力を流してもらったが、これと言った変化は起こらなかった。
いや、一応、若干色味が変化したりはしたが、それ以上の変化は起こらず、特に魔力伝導率が良くなったとかは感じられなかった。
やはり、魔力だとダメなんだろうか? あるいは、エルのやり方が悪いのか。
一応、アリアにも試してもらったけど、結果は同じだったので、人によってというよりは、単に魔力だとダメってことなんだろうと思う。
やっぱり、魔力で魔力伝導率を底上げするのは無理があるかな?
例えば、これが魔石なら、魔力を流すことによって、属性を変化させたりできるわけだし、魔力を持っているものイコール魔石という考え方をするなら、変化が起こってもおかしくはないんだけど、流石に、魔力を持つものと魔石は全くの別ものってことなんだろうね。
木材を都合よく使える存在に変化させるのは無理だとわかった。
さて、ここからどうしたものか。
「これがダメとなると、いよいよもってなにも候補がないような……」
まあ、探せばまだ納品していない木材もあるとは思うけど、伐られている木という時点で魔力伝導率はそこまでよくない。
木の魔力伝導率を高水準で保つためには、伐られていない木を用意する必要があるけど、それだと建材には使えない。
代用案があるとしたら、木材の代わりに、軽くて、丈夫で、供給がそこまで難しくないものってことになると思うんだけど、そんなものあるだろうか。
「もう、ハクお嬢様が持っているミスリルを提供したらいいんじゃないですか?」
「いいのかなぁ……」
まあ、どっちにしろ、ミスリルはその内納品する予定だった。
ゴーフェンには、ミスリル鉱山があるとはいえ、それだけで賄うのは大変だし、集められるなら、他の国からも集められた方がいいに決まってる。
オルフェスは、そこまで多くの鉱山を持っているわけではないけど、流石に国中探せば、ミスリル鉱山の一つや二つくらいは持っている。
そこから採掘されたという体で、多少のミスリルを提供するくらいだったら、まあ、許されるのかなと思わなくもない。
どうせ、持っていてもそんなに使わないんだし、使える時に使うべきだとは思うんだけどね。
他の国が、それは卑怯だと言ってくるのが怖いけど、別にその事実を知られることはないと思うし、そもそも、オルフェスの国民である私が入手したものを提供しているだけなのだから、特に文句を言われる筋合いはないとも言える。
深く考えないで、とりあえず協力できるところはするべきなのかな。
「まあ、それに関しては後で王様に聞いてみようか」
王様が協力してほしいって言うならするし、いらないというならしないってことでいいと思う。
木材か、その代わりとなるものは引き続き探す必要がありそうだけど、それは追々ということで。
「ゆっくりやって行こう」
今作ろうとしているのは、夢の船である。
今まで、作ること自体が不可能だと言われているものを作ろうとしているのだから、困難が待ち受けているのは当たり前のことだ。
そんなすぐに出来上がるわけでもないんだし、ゆっくりと、時間をかけて探していくとしよう。
そんなことを考えながら、家に戻るのだった。
その後、王様に確認し、ミスリルの提供はすることにした。
このミスリルはダンジョンで取れたものであり、正確にはオルフェスの物じゃないけど、まあ、産地はそこまで重要じゃない。
きちんと使えるかどうかの方が重要だし、自国が産地じゃないからと言って、それは卑怯だと言ってくる人はいないだろう。
というか、ミスリルは割と貴重なものであり、国内で生産できない国もあるくらいである。
オルフェスが生産できない国というならともかく、しっかりと生産の土台は整っているのだから、別に問題はないと思いたい。
ま、そもそもばれなきゃ何も言われないと思うけどね。
「それより、これからどうするのかを話し合わないと」
木材が適さないとわかってから、ゴーフェンでは、何度も話し合いが行われてきた。
もっと適した木材はないのか、ないなら、どの程度で妥協すべきなのか。
ゴーフェンとしては、どんなに金を払っても、最高の素材を使いたいと思っているようだが、流石にいくら金を積まれても用意できるものは少ない。
いや、私が協力していいなら、魔力溜まりからいくつか木材を持ってくることくらいはできるけど、それはどうなんだろうか。
サンプルとして示すのはありだろうか?
元々、魔力溜まりは、入ったら出てこられないと言われるほどに危険な場所で、対策をしていなければ、そのまま動けなくなり、餓死するような場所である。
それ故に、魔力溜まりにある素材は、あまり知られていない。
だけど、魔力溜まりに入るための対策法は、すでに確立しているのだ。
魔力溜まりにある魔力、正確には神力だが、あれは人の中に際限なく吸収され、その人物に吐き気などの状態を引き起こす。
これは、その人物の許容量を超えて神力が吸収されるからであり、仮に魔力を空っぽの状態にしておけば、多少であれば、普通に行動することもできる。
ただ、もっと楽なのは、そもそも神力を吸収させないようにすること。
防御魔法で、体の周囲に膜を張り、神力の吸収を防げば、吐き気などに襲われる心配はない。
防御魔法自体は、なぜかあまり知られていない魔法ではあるけど、それくらいなら、教えることができるし、後は魔力溜まりの場所さえわかれば、取りに行くことも可能なのではないかと思うのだ。
「誰もが魔力溜まりを開発できるなら、別にずるでも何でもないしね」
まあ、問題があるとすれば、魔力溜まり自体が珍しく、なかなか見つからないことと、森の中にあるものを探すなら、魔物の相手もしなくてはならないということ。
それに、森の魔力溜まりの木には、神星樹の実が生っていることがある。
あれは、市場では結構な高値で取引されていて、食べると力を手にすることができると言われる代物だ。
魔力溜まりにあるそれは、すべて収穫しても、次の日にはまた実をつけるくらい簡単に取れるので、もしそれが公のものになれば、ちょっと騒ぎが起きるかもしれないよねって言う不安がある。
私がすべて仕切って、取りに行くって言うのでもいいけど、それだと流石に忙しすぎるし、他にもやりたいことはあるので遠慮したいところ。
やっぱり、魔力溜まりの木を利用するのは無理があるかな。
後は、それこそ世界樹とかだけど、世界樹って伐採していいのかな? 響き的には、だめそうな気がするけど。
「セレフィーネさんなら、何か案を出してくれないかな?」
魔導船の設計図を作れるくらい頭のいいセレフィーネさんなら、もしかしたら何か対策を考えてくれるかもしれない。
本当なら、私が会いに行くのは違うんだろうけど、気になるし、一応聞いてみようかな。
そう考えて、私はマグニス邸に向かうのだった。
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