第三百六話:代わりとなる素材
とりあえず、この話は王様にも報告しようということで、フェンスさんが通信魔道具で知らせることになった。
そう言えば、持っていたなと思ったんだけど、だったらなんで前回使わなかったんだろうか。使っていたら、もっと早く木材の調達が出てきただろうに。
「いえ、その、お恥ずかしながら、緊張で忘れておりまして……」
そう言って、フェンスさんは恥ずかしそうに俯いていた。
まあ、確かに、今回のプロジェクトは、今後の歴史を動かすかもしれない重要なプロジェクトである。
その橋渡し役を任されたとあっては、確かに緊張するのは当然かもしれない。
ただでさえ、皇帝が直々に説明会に来ていたわけだしね。いくら外交官とはいえ、仕方のないことだっただろう。
「それで、王様はなんと?」
「候補となる素材を探してみるとおっしゃっていました。見つかるかどうかは、わかりませんが……」
魔力を全く通さない物質か、魔力を良く通す木材か、口で言うだけなら簡単でも、なかなか候補は見つからなそうだ。
今回は、オルフェス王国の実力を発揮しなくてはならないから、他国から輸入して、という手段も取れないし、難しいところである。
私が上げたような、アダマンタイトやら魔力溜まりの木やらを除いたら、他に何か手に入れられるようなものはあるだろうか?
「うーん、思いつかない」
木材に限らなければ、もしかしたらあるかもしれないけど、船体の大部分は、木材を使う必要があるだろう。
これを例えば、魔物由来の素材に置き換えるとしたら、もしかしたら行けるかもしれないけど、それだと数を用意するのが相当大変である。
他の国と協力して用意できるならそうでもないかもしれないけど、そんな都合のいい魔物いるだろうか。
「私も、ちょっと探してみますね」
「よろしくお願いします」
とりあえず、それっぽい素材がないか、私の方でも探してみることにする。
転移魔法で一度自宅に戻り、ギルドの資料室を漁ってみることにした。
ギルドの資料室には、これまで冒険者が相手にしてきた魔物の情報が並んでいる。
中には、素材としての特徴も書いてあるものもあるので、もしかしたら何か見つかるかもしれない。
そう思って見てみたんだけど……。
「トレント、か……」
探してみて、行けそうだなと思ったのは、トレントだった。
トレントとは、動く木と呼ばれており、森の中で不意に襲い掛かってくる魔物である。
見た目は、木に洞のような目と口がついた感じなので、ほとんど木と言ってもいい。
枝を激しく揺らして襲い掛かってくるのが厄介だが、時たま実をつけていることがあり、その実はとても濃厚で、美味しいと言われているようだ。
今回目をつけたのは、それではなく、本体の方。
木型の魔物であるなら、倒せば当然木が手に入るはずである。
魔物由来の素材は、基本的に魔力を良く通すので、今探している、魔力を良く通す木材としては、いいのではないかと思ったのだ。
だが、当然そんな簡単には行かない。
「探すのが難しすぎるよね……」
トレントは、木に擬態している、というか、木そのものと言ってもいい。
それゆえ、その多くは森に生息しているわけだが、パッと見ただけでは、それがトレントなのか、普通の木なのかの判断がつかないのだ。
そもそも、森の中は魔物の巣窟であり、奥に入れば入るほど、多くの魔物と遭遇する可能性がある。
それらを相手にしながら、完全に木に擬態した魔物を見つけるなんて、無理があるだろう。
仮に見つけられても、せいぜい一体や二体と言ったところだろうし、魔導船の船体として使う分を集めるためには、相当な数が必要ということを考えると、ちょっと現実的ではない。
「やっぱり、魔物で代用するのは無理があるかな?」
これが、もっと必要量の少ない場所の物だったら、行けていたのかもしれないけど、流石に船体全部は無理だ。
フェンスさんは、やってやれないことはないと言っていたけど、冒険者の視点からすると、無謀もいいところである。
下手に魔物の素材を要求されなかったのはよかったけど、あんまり解決にはなってないよなぁ。
「ワンチャンあるとすれば、木材の養殖……?」
木材を養殖するって言うとちょっと変かもしれないが、これには考えがある。
というのも、以前、私はヒノモト帝国の転生者達のために、魔力溜まりに家を作ったことがあった。
その際、既存の木材で家を建てようとすると、魔力溜まりの神力のせいで急成長してしまい、とてもじゃないけど住めない家になったことがある。
ここで重要なのは、持ち込んだ植物は皆、急成長してしまったということだ。
元々の木材は、そこまで魔力の流れがいいわけではない。むしろ、止まっていると言っていいほどである。
それが、魔力溜まりに持っていった瞬間、急成長したってことは、神力に当てられて、特性が変化し、魔力を良く吸収するようになったからではないかと推察できる。
まあ、魔力溜まりが異常なだけかもしれないけど、もしその性質が別の場所でも適用されるなら、意図的に魔力伝導率のいい木材を作り出すことも可能なのではないか、と思ったのだ。
「まあ、試しにやってみるのはありかもね」
必要なのが神力だった場合、ほぼ私しかできないからちょっとあれかもしれないけど、魔力でも代用できるんだったら、ワンチャン誰でもできる可能性がある。
これがオルフェスの名産かと言われたらわからないけど、オルフェスで取れた木を、使えるように加工しているだけなんだから、特に問題はないと思う。
ひとまず、やるだけやってみようと思い、まずは実験してみることにした。
森に赴き、適当な木を伐採する。
自然に生えている木は、伐られるまではそこまで魔力伝導率は下がらないけど、伐られてしまうと、一気に下がる。
だから、これを魔力で復活できないかを試そう。
と言っても、そもそもこの理論自体が間違っているかもしれないから、まずは私が神力で試してみることにする。
木に向かって神力を流す。
魔石を変換する要領で、木の魔力を侵食し、馴染ませるような形で。
そうしてしばらく神力を送り込み続けていると、ある変化が起こる。
伐られて、その場に横たわっていただけの木が、まるで早回しをしているかのように成長を始め、瞬く間に新たな芽を出したのだ。
丸太自体を苗床に、新たな木が生えてきていると言った形だろうか。この現象が見られるということは、やはり、神力によって木が急成長するという理論は間違っていないような気がする。
「後は、これが魔力でも通用するかどうかだね」
探知魔法で見てみても、魔力の流れが激しかったので、魔力の通りが良くなったのは間違いなさそうだ。
後は、神力でなくても機能するかどうかを試すだけである。
私は、さっそく隣にいたエルに魔力を流すように頼む。
さて、一体どうなるだろうか。
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