第三百四話:デートのついでに
町は、なんてことのない町だった。
確かに、ところどころに製材所があったり、森には木こりの小屋があったりと、確かに林業をしているんだろうなというのはわかったけど、別にそれだけで栄えているというわけではなく、あくまでも産業の一つとして数えられているようだ。
ちょっと、期待していたのとは少し違うけど、まあ別に町の発展具合を見に来たわけではない。
私達の目的は、仕入れる予定の木材がどんなものかを見るためだ。
いや、それすらもおまけではあるけど。
「木材って言っても、いくつか種類があるんだな」
どうやら、ここには数種類の木材があるらしい。
二つの森と接地していて、それぞれの森から様々な木材が取れるらしく、用途ごとに使い分けているらしい。
軽くて丈夫なものもあるんだろうかと覗いてみたが、わかるのは、柔軟だったり、燃えにくいだったりの特性で、特にそれが目玉、という風に紹介されているものはなかった。
まあ、試しに持って見た限りでは、軽くて丈夫そうなものもあったけどね。
ゴーフェンに納品するとしたら、この辺だろうか。
「どれくらい必要なの?」
「うーん、詳しくは聞いてないけど、なるべくたくさん?」
「この町の木がなくなりそうだね」
確かに、数種類ある中で、最も軽そうなものはわかっているけど、だからと言って、それだけを送るわけにもいかないだろう。
どんな木材が有効なのかわからない状況なのだから、とりあえず全部送って、どれが合うかどうかを試す必要がある。
試すだけだったら、そこまで数はいらないかもしれないけど、それでもこの町の規模を考えると、大半がなくなってもおかしくはなさそうだ。
流石に、この町だけで供給するのは無理があるかな?
他にも、候補となる町を考えておく必要があるかもしれない。
「まあ、その辺は後でフェンスさんと一緒に報告すればいいか」
可能ならば、オルフェスが提供できる木材は全部試してほしいけど、木の種類はそこまで多いわけじゃない。
特に、森は国境をまたいであることも多く、別の国の名産となっている場合もある。
もし、他の国と同じものを納品して、喧嘩にでもなったら困る。
だから、送るのは、特にオルフェスで取れると言われている木材に限った方がいいだろうね。
「それより、せっかく来たんだから、何か遊んでいく?」
「この町って、何か遊び場があるのか?」
「さあ……」
本当に、ただの興味本位で来ただけなので、何か下調べをしていたわけではない。
特に何もないなら、今からでも別の場所に行って遊ぶでもいいんだけど、せっかく来たんだし、何か探してみようか。
そう思って、街の人々に何かないかと聞いてみる。すると、木彫りの体験会みたいなものをやっているのを聞きつけた。
木彫りは結構技術がいるが、この町ではそう珍しいことではないらしい。
特に、観光業が乏しいこの町では、よく取れる木の端材を利用して、工芸品を作り、それを他の町に売りに行くことによって生計を立てる人もいるそうだ。
私も、一応木彫りができないことはない。美術の授業でやったことがあるし、今は割と手先も器用なので、ある程度はできるはずである。
これが面白いかどうかはともかく、せっかくあるのだから、参加してみるのもいいだろう。
二人にも聞いてみたが、どちらも面白そうだと言っていたので、問題はないだろう。
場所を教えてもらい、体験会に参加する。さて、どんなものが作れるかな。
体験会というだけあって、そんなに大きな催しではなかったが、会場には多くの子供達が集まっており、説明役のおじさんの話を熱心に聞いていた。
私達も、説明を聞きながら、とりあえず彫ってみたけど、まあ、できはそこそこなんじゃないだろうか。
後は色を付けてやれば、立派な木像の完成である。
「なかなか難しいな」
「立体的に彫るのは難しいですよね」
サリアとユーリも、できはそこまで悪くないように見えるが、あんまり納得は行ってない様子。
確かに、初めてだと、どこまで彫っていいかわからなくなるよね。
完成した品は、そのまま持ち帰ることができるようだ。
後で、家にでも飾っておくとしよう。
「こんなものかな?」
「なかなか新鮮だったぞ」
「木彫りなんてそうそうやらないからね」
体験会を終え、ひとまず帰路につくことにした。
ちょっと物足りない気もするが、まあ、元からついでみたいなものだったし、本格的にデートするのは別の場所でもいいだろう。
まだ時間はある。時間が許す限りは、楽しんでいこう。
そんなことを思いながら、転移魔法で家に帰るのだった。
それから約一か月ほど。
ついに、転移魔法陣が使える日がやってきたので、フェンスさん達がゴーフェンから帰ってきた。
あれから、何度か私もゴーフェンに行って、成り行きを見守っていたんだけど、素材の供給が本当にできるかどうかがわかるまでは、ゴーフェンの方も動くに動けないらしい。
いや、一応、自国で取れるミスリルを使って、一部の装置の開発には着手しているようだけどね。
まだまだ供給は足りていないので小規模ではあるけど、本格的に各国からの納品が始まれば、一気に進むことだろう。
「なるほど、木材か」
私は、フェンスさんと共に、王様に今回のことを報告した。
ゴーフェンが欲している木材。その供給ルートには、すでに目途がついており、後は協力を取り付けるだけである。
私が帰ってきた時に伝えていればもっと早くに着手できたけど、それは他の国に対してフェアじゃないし、一応待っていたんだよね。
私が興味本位で見に行った町以外にも、木材を生産している町はいくつかある。
適した木材であるかどうかはわからないが、木材を納品するだけだったら、そう難しいことはないだろう。
「わかった、すぐに取り掛かるとしよう」
元々、王様はゴーフェンに対して協力的なだけあって、特に文句を言うこともなく、準備に取り掛かった。
まずは、一か月後を目途に、いくつかの種類の木材を持ってくることが先決だろうか。
納品計画が整ってから、やっぱりこの木材は使えませんでしたじゃ困るし。
転移魔法陣がもっと気軽に使えるんだったらいいんだけど、そういうわけにはいかないからねぇ。
それとも、他の国に迷惑だからと遠慮せずに、私がガンガン手伝うべきなんだろうか。
私なら、瞬時に転移魔法で送ることができるし、連絡だってスムーズにできるだろう。
今回だって、あらかじめ連絡しておけば、もっと早く木材を揃えることはできたと思う。
どうも、その塩梅が難しい。
オルフェスを贔屓するんだったら全力で応援するけど、そのせいで他の国に恨みを買われても困るしね。
せめて、皇帝が私の事情を知っていればいいんだけど……流石に話すまでには至ってないよね。
まあ、この辺はずるをせずに行くのがいいだろう。
早く完成品を見たいという気持ちはあるけど、私のせいで歪められるのは本意ではない。
ここはじっくり、成り行きを見守っていくとしよう。
そんなことを考えながら、この先の展開を想像していた。
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