第三百三話:提供すべき素材
それからしばらくして、オルフェス王国が提供する素材が決まった。
それは、木材である。
意外に思うかもしれないが、ゴーフェンでは、木材はあまり余裕がないらしい。
というのも、手に入れた木材のほとんどは、鍛冶などに薪として使用されてしまい、建材として使う木材が揃っていないのだとか。
故に、なるべく軽くて丈夫な木材があれば、それを提供してもらいたいということらしい。
もちろん、ミスリルもあればできれば提供してほしいとは言っていたけど、他の国にも木材を要求しているところは多いらしく、意外な素材が不足しているものだと感じた。
まあ、そういうことなら、用意するまでである。
と言っても、この話は、それぞれの国の外交官との間で決まっただけであり、まだ国に持ち帰ったわけではないので、最終的な判断は、次に転移魔法陣が使えるようになる日まで待つことになるようだ。
外交官は、多分決められる権限を持っているけど、意見を国に持ち帰らないわけにはいかないからね。
転移魔法陣が使えるのは約一か月おき。そう考えると、結構大変だなぁと思う。
いっそのこと、私が転移魔法で送って上げた方がいいんだろうか?
その方が、余計な時間が省けて楽だと思うんだけど。
「オルフェスの外交官ならともかく、他の国まで手を出すのはやりすぎだと思いますよ」
「そう?」
「そもそも、普通の人は転移魔法なんて使えないんですから、警戒されちゃうと思いますけど」
「まあ、それもそうか」
確かに、転移魔法を使えるのはせいぜい竜とか精霊くらい。それを使えるとなったら、私は一体何者だってことになってしまう。
ただでさえ、長い間容姿が変わっていないことでいろんな噂が飛び交っているのに、余計に警戒させる必要はないか。
ちょっと申し訳ないけど、ちゃんと転移魔法陣で帰って行って欲しい。
「それにしても、オルフェスって、木材取れるんですか?」
「取れますよ。と言っても、皇帝陛下のお眼鏡にかなうかどうかはわかりませんが」
フェンスさんによると、オルフェスは、他の国と比べて、割と森が多い地域らしい。
いや、割合としては他の国も大差ないんだけど、開拓されている森という意味では、オルフェスはかなりの割合を占めるようだ。
中には、林業で生計を立てている町もあるらしく、そこを頼れば、十分な量の木材を用意できるのではないかとのこと。
「丈夫なんですか?」
「建材に使われているくらいなので、丈夫ではありますが……」
フェンスさんは、少し不安そうな顔をしている。
確かに、一般的に家や船に使うような木材だとしても、今回作るのは魔導船である。
果たして、同じように作って大丈夫なのかという疑問はあるし、もしかしたら、全く適さない素材という可能性もある。
もちろん、初めてトライすることなのだから、多少の失敗は当たり前だとは思うけど、ここで選ばれなかったら、国としてはちょっと残念な気分になるよね。
その分、他で巻き返せばいいということでもあるけど、やっぱりできれば一番になりたい。
適した木材であるといいんだけど。
「まあ、やるだけやって見ましょうよ。何事もチャレンジです」
「……それもそうですね。ここで臆して、消極的になる方が印象が悪いですか」
木材に関しては、戻ってから話し合うとして、これからどうしようかな。
今後も、何か意見があればどんどん言って欲しいとは言われているけど、すでにやるべき話し合いは終わった。
後は、それぞれの国に帰ってから、調整を行い、要求された素材を提供する準備をすると言ったところである。
材料がなければ、物を作り始めることもできないので、まずはそれの到着待ちとなるため、完全に進捗がストップした状態だ。
別に、私が転移魔法でちゃちゃっと連絡してきてもいいけど、それは他の国の人に悪い気もするし、先んじて材料を搬入できたとしても、他にも必要なものはあるだろうから、どのみち先には進まない。
ここは、じっくりと待つ必要がありそうだ。
「何か手伝うことがあればいいんだけど……」
一応、まだ材料が詳しく決まってないので、設計図を見直す可能性はある。
何も、初めから成功するとは思っていないので、セレフィーネさんも、いくつかの設計図を作っているようだった。
だから、それを手伝うというのも考えたけど、私は確かに魔道具作りもできるけど、プロではない。流石に、魔道具の発明家として名高いセレフィーネさんの助手は務まらないだろう。
なら、ゴーフェン内で供給する予定のものを搬入する手伝いでもしようかとも考えたけど、それに関してはすでに人員を割いているらしく、特に増員は考えていないとのこと。
待つ必要があるとは言ったけど、本当にやることなくなるとは思わなかった。
「……また街でも見て回ろうか」
結局、やることなんてそれくらいしかない。
なんか、いつも忙しくて、暇が欲しいと思ったことはあったけど、いざ暇になると何していいかわからなくなるね。
そんなことを考えながら、街に繰り出すのだった。
それから数日。特にやることもないので、転移魔法で自宅に戻り、ユーリやサリアを連れて遊びに出かけることにした。
一応、使節団として向かっているのに、そんなことしていいのかと思ったけど、皇帝も、次の満月までゆっくりしていて構わないと言っていたので、別に問題はないだろう。
最近は、色々忙しくて、あんまりデートする機会もなかったし、これを機に遊びに行くことにしたわけである。
「ハクも大変だな」
「まあ、楽しいからいいんだけどね」
そう言って、腕を組んでくるサリアは、今や立派な大人の女性である。
相対的に、私が子供に見えてしまって、ちょっともやもやした気分にはなるけど、サリアは変わらず私のことを親友だと言ってくれるので、悪い気はしない。
さて、今回はどこに行こうか。国外はちょっと難しいけど、国内だったら割とどこへでも行ける。
「そういえば、その林業が盛んな町って、どこなんだ?」
「確か、ここからちょっと南に行ったところにある町らしいけど、行ってみる?」
「せっかくだから見てみよう」
デートなのだから、仕事の話はどうかとも思ったけど、確かに少し気になるので、行ってみることにする。
町の名前は聞いていたけど、流石に行ったことはなかったので、竜の翼で向かうことにした。
私がドラゴンの姿になると、二人とも興奮した様子で背中に乗ってくる。
私のドラゴン姿って割とレアだから、それで喜んでいるのかもね。
馬車なら一か月はかかる道のりも、竜の翼ならひとっとびである。
さて、一体どんな町なんだろうか?
感想ありがとうございます。




