第三百話:皇帝からの呼び出し
大まかな説明を終えると、後日各国との調整に入ると言って、演説は終わった。
話を聞く限り、今回のプロジェクトの要は、セレフィーネさんである。
元々、セレフィーネさんは優秀な魔道具の発明者である。
今までにも、数々の魔道具を作り出しており、特に魔導銃は、魔法が使えない者でも、簡易的に魔法を使った攻撃手段を獲得できる優秀な魔道具だった。
ついこの前は、スクリーンの魔道具なんかも開発していたようだし、その引き出しの多さは、どんな魔道具発明者よりも広いだろう。
だから、今回の魔導船の設計も、セレフィーネさんが担当しているようである。
流石に、魔導船のような大型ともなると、すぐにはできなかったようだけど、それでも今の時点であらかた完成していると考えると、やっぱりとんでもない人だよね。
本当に、転生者なんじゃないかと疑いたくなる。
今のところ、それらしい情報は出ていないけど、実際どうなんだろうね?
「フェンス様、少しよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。どんな御用でしょう?」
「皇帝陛下が、ハク様をお貸しして欲しいと仰せです。お連れしてもよろしいでしょうか?」
「ハク殿を?」
フェンスさんが、ちらりとこちらを見てくる。
皇帝がわざわざ私を呼び出してくるって、一体何の用だ?
私は、エルと一瞬顔を見合わせたが、特に思い当たる節はない。
まあでも、皇帝には竜の部分も見せているし、何かしら聞きたいことがあるんだろう。
せっかくプロジェクトに参加させてもらっているのだし、それ関係という可能性もあるね。
「わかりました。行きます」
「ありがとうございます。どうぞこちらへ」
フェンスさんが困っていそうだったので、代わりに答え、後をついていくことにした。
エルもついていこうとしたけど、そうしたら、ハク様以外はご遠慮くださいと言って突っぱねられてしまった。
エルは不服そうだったけど、まあ、仕方ない。
もし何かあったら連絡すると言って、エルには待っててもらう。
連れていかれたのは、皇帝の私室だった。
わざわざ私室に呼び出すって、ほんとに何する気だ?
少し、不信感を覚えつつも、中に入る。
中では、皇帝が変わらぬ格好で待ち構えていた。
「おお、ハク、よく来てくれた」
「お久しぶりです、皇帝陛下」
なんだか嬉しそうな皇帝を前に、ひとまず頭を下げておく。
せっかくだから座って欲しいと、椅子を勧められたので、ひとまず腰を下ろした。
「急に呼び出してすまない。少し、確認しておきたいことがあってな」
「なんでしょう?」
「例の、魔石についてだ」
魔石というと、魔導船に使うという魔石のことだろうか。
詳しいことは話されなかったけど、魔導船に使用される魔石は、過去最大規模のものが必要との試算が出ているらしい。
やはり、船という巨大なものを浮かせるためには、それ相応の出力が必要となり、それを確保するには、既存の魔石では到底足りないらしい。
一応、各種浮力を生み出すための装置を複数用意する予定ではあるらしいが、コアとなる魔石には、相当巨大な魔石が必要になるようだ。
確保するのが一番難しいのはそれだろうね。
「魔導船のコアに使うための魔石ですか?」
「そうだ。それに、以前ハクから貰った、ギガントゴーレムを使おうと考えている」
「ああ」
そう言えば、あのギガントゴーレムは、魔力溜まりにいた影響もあって、全身が魔力を帯びていて、実質身体全体が魔石のようになっていたんだっけ。
ギガントゴーレムの名にふさわしく、その体はかなり巨大で、魔石に換算すれば、それこそ今まで見たことのない大きさである。
まさか、あの時のギガントゴーレムがこんなところで役に立つとは思わなかった。
「確かに、あの大きさなら代わりになりそうですね」
「だろう? そこで、あれを使っていいかの許可を貰おうと思ってな」
「許可、ですか?」
はて、私が何か権利を握っていただろうか。
ギガントゴーレムに関しては、一体当たり白金貨10枚という値段で取引し、すでに皇帝のものになっているはず。
今更私が許可するようなことは何もないと思うのだけど?
「確かにそうなのだが、あれほどの大きさとなると、取り扱いには慎重にならざるを得なくてな。万が一、そんなことは許可していないなどと言われてしまったら敵わない。だから、念のために確認しようというわけだ」
「なるほど」
確かに、白金貨10枚とさらっと言ったけど、白金貨が使われるって言うのは、それこそ町全体とか、国全体が絡むような大きな金額である。
魔石に換算したら、国宝級の代物。いくら、譲ってもらったとはいえ、元々の持ち主は私だから、確認を取っておかないと、後からいらぬ妨害をされかねない。
そういう意味で、念のために確認を取りたかったようだ。
なんとも慎重なことである。
「それで、どうだろうか? 使っても構わないだろうか」
「あれは皇帝陛下にお譲りしたものですし、私にどうこうできる権限はないですよ。もちろん、自由に使って構いません」
「それを聞いて安心した。許可をくれなかったら、魔石を探すところから始めなくてはならないところだった」
魔石の入手手段は、魔物を倒すか、鉱山などから採掘する二つの経路がある。
しかし、魔物から取れる魔石は、属性魔石が多いという利点はあるが、その分大きさはそこまで大きくない。よほど強い魔物でも、拳大で大きいと言われるくらいなので、魔導船のコアにはなりえない。
では鉱山から採掘するかと言われたら、それも難しい。
そもそも、ギガントゴーレム級の大きさの魔石を採掘するとなると、つるはし程度では無理だ。
地道に掘り出すにしても、魔石は純度が高くなるほど割れやすいという性質があるため、全く傷つけずに採掘するのは難しい。
つまり、あれだけの大きさの魔石を手に入れるためには、魔力溜まりなどに存在する、岩の体を持つ魔物、すなわちゴーレムを倒して、その体を丸々利用するくらいしか方法がないわけだ。
一応、ゴーフェンの鉱山には、例のギガントゴーレムがいた魔力溜まりがあるっちゃあるけど、そもそもそこに入ることが困難だし、そこからゴーレムが生まれるかどうかも運である。
また一から探すとなったら、ほんとに何十年と時間がかかるだろうね。
「感謝する。これで、我が野望に一歩近づくというものだ」
「いえいえ。お役に立てたならよかったです」
上機嫌な様子の皇帝に、私は適当に頷いておく。
ちょっと身構えてしまったけど、真面目な用件でよかった。
いやまあ、どっかのワーキャットみたいに襲い掛かってくるなんてことはないとわかっていたけど、エルを連れてこさせなかったのがちょっと気になっていたからね。
考えてみれば、あの時はまだエルはいなかったし、単に面識がないから遠慮してもらったのかもしれない。
「共に魔導船を完成させるという目標を果たそうではないか」
「はい、楽しみにしています」
さて、用件はこれで終わったし、帰るとしようか。
私は、魔導船の完成を祈るとともに、その場を後にした。
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