第二百九十七話:御伽話の船
第二部第十一章、開始です。
年が明け、冬も本番になってきた頃。私は、家でまったりとした時間を過ごしていた。
別に、雪が降っていようが何だろうがそこまで寒さは感じないけど、それでも感覚的に寒いと感じることはよくある。
昔なら、雪が積もったら雪だるまを作ったり、雪合戦したりと遊んでいたこともあったけど、ここ最近では、雪が綺麗だとは思うけど、わざわざ遊びたいと思うほどではなくなってしまった。
なんか、純粋さを失ったようで、ちょっと悲しいね。
まあ、こんなこと言えるのは雪国でないからだろうし、贅沢な悩みなんだろうけどね。
「ハク、お客さんだよ」
「はーい。誰かな」
そんなことを思いながら家でぬくぬくしていると、来客があった。
誰だろうと玄関に出てみると、そこにはアルトの姿があった。
「やあ、ハク、こんにちは」
「アルト、なんでここにいるの?」
アルトは、王太子であり、結構忙しい身である。普段なら、あちらから呼び出すことはあっても、やってくることはあまりない。
まあ、アルトは私の騎士でもあるから、身分的にはちょっと曖昧だけど、お茶会の誘いなら普通に招待状を送るなりするはずだけど。
「ちょっと気分転換にね。まあ、用事もあるっちゃあるんだけど」
「へぇ。まあ、そういうことなら上がって」
「お邪魔するよ」
思わぬ人物にびっくりはしたが、来てくれる分には普通に嬉しいことである。
私は、応接室にアルトを通し、お茶を用意する。
城で飲まれているような高級なものじゃないだろうけど、まあ、そこまで気にしないと思うからいいだろう。
「それで、用事って?」
「ああ、父上から言伝を預かっているんだけど」
そう言って、アルトは王様の言っていたことを話し出す。
どうやら、私にやってもらいたいことがあるらしい。詳しいことは直接会って話したいから、城に来て欲しいとも言っていた。
何か厄介事でもあったのかな? 王様が私に頼みごとをするのは珍しいことじゃないけど、こうしてアルトをよこしたと考えると、割と重要なことなのかもしれない。
「なるほどね。アルトは何か聞いてる?」
「いや、特には。ただ、ゴーフェンが関わっているとは思うよ」
「ゴーフェンって言うと、ドワーフの国だっけ」
昔、アルトの護衛という立場で、一度訪れたことがある。
その時は、色々トラブルもあったけど、結果的には皇帝とも仲良くなれて、悪くない立ち去り方をしたと思っていた。
アルトが言うには、ここ最近、ゴーフェンの外交官がやって来て、色々と話をしているのを目撃したらしい。
だから、恐らくそれ関連の何かじゃないかと予想を立てたようだった。
「なんだか懐かしいね」
ゴーフェンを訪れたのは、およそ10年くらい前だと思う。
ゴーフェン自体は、錬金術や魔道具の生産が盛んということもあって、なかなか面白いところだったんだけど、そこまで行く用事がなかったのもあって、その後は行く機会もなかった。
皇帝は元気にしているだろうか。ドワーフは割と長命だから、まだ世代交代はしていないと思うけど。
「まあ、そういうわけだから、時間ができたら城に来て欲しい」
「わかったよ。何なら、今からでもいいけど?」
「せっかく二人きりになれたんだから、もう少し堪能したいけどね」
まあ、本当に二人きりかは怪しいけど、と言いながら、扉の方を見ているアルト。
まあ、扉の外にはエルとユーリがスタンバってるから、確かに二人きりではないかもね。
アルトが相手ということで、今回は少し遠慮してもらったんだけど、これは後で文句言われちゃうかな。
別に、アルトとはただの友達であって、特別な関係というわけではないんだけどね。
いやまあ、確かに騎士と主君という関係ではあるけど、それはあんまり気にしてないし。
「ここだと大したもてなしはできないけどね」
「別に構わないさ。私はハクの話が聞けるのならそれでいい」
何か面白い話はないかとせがんでくるアルト。
まあ、そういうことなら話し相手になって上げよう。
私は、ここ最近起きたことを話し出す。
まあ、地球のことだったり、神様のことだったりはあんまり話せないけど、それでも去年一年だけを見ても、割と濃い一年だったような気がする。
不穏なこともあったし、これからがちょっと心配だね。
アルトは、私の話を楽しそうに聞いてくれる。話すというだけでも、肩の荷が下りるようで、私も楽しかった。
「それじゃ、名残惜しいけどこの辺で。言伝は確かに伝えたからね」
「うん。すぐに行くよ」
その気になれば、夕方まで話せる勢いだったけど、アルトもそこまで暇じゃないのか、お昼頃には退散していった。
日を改めていく、というのでもいいが、どうせ今は暇なので、このまま王様の下に向かうことにする。
「いったい何の用事なのか」
城に向かうと、門番に顔パスされて、すぐに応接室へと通された。
しばらく待っていれば、王様がやって来て、私のことを出迎えてくれる。
「忙しいだろうに、すぐに来てくれて感謝する」
「いえ、今はそこまでじゃないので問題ありませんよ。それで、どういったご用件でしょうか?」
「うむ。実はな……」
そう言って、王様は話し出した。
アルトの予想通り、どうやらゴーフェンに関連することらしい。
というのも、ゴーフェンでは、錬金術や鍛冶による、魔道具や武具などの生産などが盛んで、職人気質のドワーフ達が、日夜研鑽を続けている。
元々、ドワーフは手先が器用で力持ちな者が多く、鍛冶や錬金術はドワーフの独壇場とも呼ばれていた。
だが、ここ最近は、新たな素材の発見や画期的な技術などの発見が少なく、少し停滞していると感じているらしい。
もちろん、今でも十分に凄い技術力を持っているのだけど、ゴーフェンとしては、より高みを目指したいと考えたようである。
そこで、一大プロジェクトとして考えられたのが、魔導船の開発だった。
「魔導船、ですか?」
「うむ。ハクは、魔導船のことは知っているか?」
「いえ、特には」
魔導船というのは、簡単に言うと、地球で言うところの飛行船に近いものらしい。
ガスではなく、魔力によって浮力を生み出し、自由に空を駆けることができる船。それが魔導船なんだとか。
ただ、これはただのおとぎ話の産物に過ぎなかったらしい。
元々は、昔の人々が、数百年先の未来を予想した時に、こんなものがあるんじゃないかと想像されたものであり、当時の技術では実現するのは不可能とされていた。
だが、その時代からかなり進歩した今の時代であれば、実現することもできるのではないかと、思い切って挑戦することにしたようである。
なんか、随分と夢のある話をしているじゃないか。
この世界で、空を飛ぶ方法はかなり限られている。飛行魔法は存在しているが、それで空を自在に駆けることができる人なんてほとんどいないだろう。
空飛ぶ魔物に騎乗したりするのも、一部の地域に限定された危険な方法だし、空を飛ぶのは、人類の夢でもある。
もしこれが実現されれば、世界に大きな影響を与えるだろう。
その瞬間を目の当たりにできるのであれば、ぜひ見てみたいものだ。
私は、少しワクワクしながら、王様の話を聞くのだった。
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