幕間:事件の後処理
オルフェス魔法学園の学園長、クレシェンテの視点です。
今回の事件は、うまく収まってくれて何よりである。
歴史あるオルフェス魔法学園の教師が、密輸に加担していたなど、外聞が悪いにもほどがある。
もちろん、それで潰れてしまうほど歴史は浅くないが、それでも大きなダメージになる可能性はあった。
だが、ハク君のおかげで、そのダメージは最小限に抑えられた。
今回の件で重要なのは二つ。留学生の迷惑行為と、ラスト先生の思惑である。
留学生達は、なぜか迷惑行為を繰り返していた。それは、傍から見たら理解不能で、たまにある、子供の時の気の迷いによって引き起こされた、ちょっとしたやんちゃなのかと思うことだろう。
実際、ギルドはそのように認識していたし、町の人達も、概ね考えは同じであると感じた。
だが、実際には、留学生達が迷惑行為をしていたのは、ラスト先生のためであったということが判明した。
ラスト先生は、犯罪グループに脅されて、密輸に加担した。その際に、留学生を利用したいという相手の要求に応えるために、あえて留学生に迷惑行為を起こさせた。
だが、その裏には留学生を守りたいという意思がはらんでおり、自分が責任を負う形で、留学生を守ろうとした。
この二つを総合すると、犯罪者に屈することなく、子供達を守ろうとした、教師の鑑、といった見方ができる。
もちろん、細かい部分は違う解釈もあるだろうが、ラスト先生は一貫して、子供達を守ろうとしていただけである。
それは、オルフェス魔法学園の教師として誇るべきことであり、一気に美談へと変化するわけだ。
今回の事件は、号外として王都中に知らせたが、おかげでラスト先生が叩かれることは少なく、怒りの矛先は犯罪グループの方に向いてくれた。
ギルドも、そう言った理由があったのなら仕方ないと許してくれたし、一件落着と言っていい。
オルフェス魔法学園のメンツは保たれたというわけだ。
「もっとも、そこまで気にする必要はなかったかもしれないが」
確かに、事件が丸く収まったことは喜ばしいが、そこまで手を回さなくても、事件を揉み消すことくらいはできた。
そもそも、密輸に関してだって、知っていたのはハク君の類稀なる諜報能力があったからこそである。
一般市民は裏でそんなことが行われていたなんて夢にも思わないだろうし、表向きには、ただ留学生が悪さをしているだけに留まったはずだ。
それくらいだったら、留学生を絞り上げて情報を吐かせ、見せしめにするくらいで十分だったはずである。
ラスト先生の悪事も、すべてはラスト先生一人の責任となり、後はどうにかして揉み消せば、済んだ話である。
だから、ここまで事件が大事になってしまったのは、ハク君のせいと言えなくもないが、結果的により良い結末となったのだから、悪いとは言えない。
「それにしても、ハク君は凄いね」
ラスト先生の過去については、そこまで詳しく調べようとは思っていなかった。
元々、調べるだけの情報がなかったし、ラスト先生の、自分は人殺しだという発言が気になりはしたものの、そこまで重要視していなかった。
それなのに、わずか一週間足らずで、あそこまで調べ上げるとは、本当にどれだけの情報網を持っているんだろうか。
おかげで、メルデルの所在もわかったし、メルデルがいなければ、裁判の結果は変わっていただろう。
ラスト先生に聞いたが、密輸についての話は、遮音の結界がある場所で話していたのだという。それ以外の場所では、話していなかったのだとか。
それなのに、ハク君は知っていた。情報網が広いというだけでは、説明がつかない。
まあ、その答えは、この十数年で姿が全く変わっていないところを見れば、説明はつくのかもしれないが。
「まあ、ハク君のことはあまり触れない方がいいのかもしれないね」
少なくとも、ハク君は陛下の味方であることは間違いない。そうでなければ、ここまでこの町に長く住んではいないだろう。
数々の伝説も残しているし、そこまでの実力があるのなら、どこでだってやって行けるはずだ。
下手に藪をつついて蛇を出すよりは、今まで通りに接して、協力してもらった方が何倍もいい。
「さて、となると、後は例の犯罪グループの残党狩りかな」
事件の主要人物である四人は既に処刑したが、どうにも、この町に潜んでいるのはそれだけではないらしい。
キーリエ君の話では、例の薬屋の他にも、一般人に紛れてちらほらといるようだ。
主犯が処刑された今、彼らがどういう動きをするのかわからない。特に悪さをしないのなら、放置でもいいが、腐っても大型犯罪グループの一員である。何もしないってことはないだろう。
となれば、随時摘発していく必要がある。
他国の人間というのが非常に面倒くさいが。
「フォルテ、いるか?」
「はい。何か頼み事ですか?」
私が呼ぶと、フォルテはすぐにやってきた。
私の息子であるフォルテは、王都でとある店を任せている。
それ故に、多少なりとも商人に顔が利き、他国の情報が入ってきやすい。
奴らは薬屋を隠れ蓑にしていたようだし、商人なら、物の流れから何か知っていてもおかしくはない。
だから、それを調べるために呼んだのだ。
「なるほど。通常営業では特に情報は入ってませんでしたが、薬屋なら、大体一年ちょっと前くらいに来たと記憶しています」
「だろうな。知りたいのは、その流通ルートだ」
「そこから足取りを追うつもりで?」
「そう。まあ、実際にやるのは私ではないだろうが、ある程度は調べておかないと、学園としても無責任だからな」
他国の人間だからこそ、流通ルートは限られる。にもかかわらず、あれだけの店を作り上げられたのは、犯罪グループが手助けしていたからという可能性が高い。
どこの国かというのは大体想像がつくが、どのようなルートで運んでいるのかがわかれば、そこから根っこを掴めるかもしれない。
もちろん、他国の犯罪グループである以上は、私達に捕まえる権限はないかもしれないが、やられたからには、やり返す必要があるだろうしね。
「わかりました。ちょっと調べてみます」
「頼んだよ。ああ、それから、何人か捕まえたら、話を聞いておいて欲しい」
「それが本来の仕事なので、言われずともやりますよ」
そう言って、フォルテは去っていった。
フォルテの話し合いに答えない者はそうはいない。運が良ければ、そこからも足取りを追えるだろう。
ある程度分かったら、陛下に連絡して、場合によっては例の国に抗議をする形になるだろうか。
相手は白を切るだろうが、だからこその証拠集めだし、そっちがやらないならこっちがやると言い張れる。
元々、いつも後ろ向きな考え方をしているのだから、今回くらいは文句を言ってもいいだろう。
さて、どうなることやら。
一人残された学園長室で、そんなことを思っていた。
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