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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十章:学園の特別講師編
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幕間:子供と大人の違い

 学園の教師、ラストの視点です。

 私は他国の人間が嫌いだ。

 正確には、他国の人間の中でも、特に大人が嫌いである。

 その理由は、幼少期に、家を奪われたからだ。

 いきなり私が住む村にやって来て、この村は我々が接収すると宣言した馬鹿軍人ども。

 あの時は、別に戦争をしていたわけでもないし、奴らが特別金に困っていたわけでもない。

 ただ単に、その周辺で訓練をしたいからという理由で、いきなり村をすべて持っていったのだ。

 当然、村長を始め、村の人々は抗議した。いきなりやって来て、そんなことをされるいわれはないと。

 だが、奴らは逆らう奴は容赦なく切り捨て、私達を追い出してしまった。

 後に、生き残りが領主に掛け合い、村は返還されることになったが、その時にはすでに、村は見る影もなかった。

 確かに、軍人は戦争などの作戦行動中は、村から食料や水を接収することはある。それは敵国だけでなく、自国の軍人もそうで、国が勝つために仕方のない犠牲だと割り切ることはできる。

 だが、それはあくまで自国のものだけであって、他国の奴らにくれてやるいわれはない。しかも、戦争でもない平時に、堂々と接収するなんて言うのは、頭がおかしい行為である。

 だから私は、その時から他国の人間は信用しないことにした。

 もちろん、あの時の軍人が頭がおかしいだけで、他の人はそうでもないということはわかっている。だが、どうしてもあの時のことがちらついて、素直に信用することはできなかった。

 いつの日か、奴らに復讐してやろうと、騎士を目指したこともあったが、運悪く足を怪我してしまい、夢は叶わなくなってしまった。

 あの時から、すべての歯車が狂い始めた気がする。

 一体どうしたらいいのかと思いつつも、生活するために行商人となり、町を転々とする日々。

 正直、人生に疲れていた。どうせ、これからもうまくいくことはないだろう。仮に、今はうまく行っているのだと感じても、少し欲を出せばすぐにでも転落する。そんな未来が見えていた。

 このまま、つつましく暮らすくらいなら、もういっそのことすべてを投げ出して、楽になった方がいいのではないか、そんなことを思ったりもしていた。

 そんな折、とある少女に出会った。

 その少女は、あろうことか、私の馬車の積み荷を奪おうとしていた。

 明らかに素人だし、かなり痩せていたから、きっと食うに困ってのことだろうとすぐにわかった。

 嫌いな、他国の人間。しかし、自然とそこまで怒りは沸いてこなかった。

 子供は純粋である。どんなに輝かしい原石だとしても、磨き方が悪ければすぐに曇ってしまう。

 だからきっと、こんなことをしたのには何か訳があるのだろうと、そう思った。

 聞いてみると、母親からの指示だという。やはり、大人は汚い。世の中には、汚い大人が腐るほどいる。

 こんな子供が、盗みを働かなくてはならないなど、言語道断だ。

 私はすぐさまその親に注意しようと、少女を伴って向かった。その親は、なにやらわけのわからないことを言って襲い掛かってきたから、とっさに反撃して、殺してしまった。

 別に、初めから殺す気はなかった。だが、ついいつもの盗賊を殺す加減で魔法を放ってしまい、運悪くそれが胸に当たって致命傷となってしまった。

 子供の目の前で、親を殺してしまった。それは、いくら他国の人間だとは言っても、心に来るものがあった。

 私のせいで、この子は路頭に迷うことになる。それは紛れもなく、私の責任だった。

 だから、せめて引き取って、養うことにした。

 幸いにして、少女、メルデルは、あまり気にしていない様子だった。

 私のことを恩人だと言い、色々と手伝いもしてくれた。

 その好意は素直に嬉しかったが、それと同時に、申し訳ない気持ちもあった。

 どんな理由があれ、私はこの子の母親を奪ってしまった。仮にメルデルが許してくれても、その事実は変わらない。

 この子を幸せにしなければならない。そう思った。そしてそれは、私が一緒にいては達成できない。

 だから、私はメルデルを孤児院に預けることにした。

 十分な寄付金も用意したし、孤児院の中でも特に評判がいい場所を選んだつもりだ。

 ここならば、幸せになることができるだろう。別れは辛いが、これはメルデルのためなのだ。

 何度も引き留める声を背中に聞きつつ、私はその場を去った。

 その後は、空虚な時間が続いた。

 なんだかんだ、メルデルと共に過ごした日々は、楽しかったらしい。

 一人で行う行商の旅は、今まで以上に虚無感がにじみ出していた。

 ふらふらと町をさまよい、辿り着いたのは王都。

 行商の旅も飽きてきたし、どうにか資金を貯めて、どこかに店を構えるのもいいかもしれない。そんなことを思っていた折、一人の男に声をかけられた。

 話を聞くと、その男はオルフェス魔法学園の学園長なのだという。

 話くらいには聞いたことはあったが、まさかそんな人物が話しかけてくるとは思わず、少し面を食らってしまった。

 どうやら、私の魔法は筋がいいらしく、ぜひとも教師として学園に来て欲しいと言ってくれた。

 学園の教師となれば、かなりのエリートである。そんな輪の中に、私なんかが入っていいものかとは思ったが、このまま行商の旅を続ける理由もなくなっていたし、ちょうどいいと思って、その話を引き受けることにした。

 教師となってわかったのは、私は案外子供好きなんだということである。

 子供は純粋で、何者にもなることができる。だからこそ、彼らを育てる立場である教師というのは性に合っていて、天職ではないかとも思ったものだ。

 他国の人間である留学生も、私のことは素直に見てくれる。それに比べて大人は……。

 嫌なことを思い出してしまい、少し気分が悪くなってしまった。

 そうして、教師を続けてしばらく経った時、ある事件が起こった。

 それは、他国の大きな犯罪グループが密輸を企んでいるという計画。

 私は、偶然にも、そのグループの一人と口論になった。相手が他国の人間だということもあって、ちょっと強めの口調で言い含めていた気がする。

 それを根に持ってなのか、相手は私を脅し、密輸に協力しろと迫ってきたのである。

 何を馬鹿なことをと思ったが、過去の殺人のことを持ちかけられて、私は頷くしかなかった。

 あの事件は、私にとって最大の汚点である。それを人質に取られてしまっては、従わざるを得なかった。

 だが、タダでやられるつもりはない。

 留学生を利用したいと言っていたが、そんなことさせるものか。私はこの時、捕まってもいいから、子供達だけは守りたいと考えていた。

 結局、密輸は未然に防がれ、私も捕まることはなかったが、あの時の覚悟は、私の人生で、最も気を張った瞬間だっただろう。

 まさか、生き残れるとは思っていなかったが、人生何があるかわからないものだ。


「礼を言う必要はないが、ハク君にも感謝しておくといい」


「ハクに、ですか? それはなぜ?」


「君が思い悩んでいると見抜き、どうにか罪を軽くしようと奮闘したのは、彼女だからね」


 オルフェス魔法学園の卒業生である、ハク。

 その類稀なる魔法の才を買われて、特別講師となっていたが、その思想はとても危ないものだった。

 だからこそ、学園長に進言してやめてもらったのだが、まさかハクが私のことを気にかけてくれているとは思わなかった。

 天才の発想というのは、一般人に分からないものということか。実際、ハクは数々の功績を残しているし、私なんかでは、足元にも及ばない。

 本当に人間かと疑いたくなるほどだ。

 だが、そんな彼女が私のために奮闘してくれたというなら、確かに感謝すべきだろう。

 メルデルに誘われた食堂で、隣で食事を楽しむハクを見て、心の中でそう思った。


 感想ありがとうございます。

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[一言] > 本当に人間かと疑いたくなるほどだ。 竜と精霊のハーフだしね
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