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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十章:学園の特別講師編
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幕間:現れた救世主

 ラストに救われた食堂の経営者、メルデルの視点です。

 私の人生は、とても暗いものだった。

 元々は、子爵の爵位を持つ貴族の家系であり、そこそこ裕福に暮らしていた。父も母も、ちょっと人を舐めたような態度を取ることは多かったが、それでも波風を立てなければ、平和に暮らしていけた。

 お父様は、貴族とは平民から傅かれる立場の上級国民だと言っていたけど、私はとてもそうは思えなかった。

 一応、お父様は一つの町を任されていたけれど、その町も、人々がいなければ立ち行かない。日々豪華な食事を食べて、見目の麗しい女性を呼びつけて酒を飲む、そんな生活をしているお父様より、汗水たらして働いている町の人達の方が、よっぽど凄いと思う。

 ただ、そう言って反発するととても機嫌が悪くなり、時には手を上げてくることもあったので、言うに言えなかった。

 そんなある日、お父様の不正が暴かれた。

 各方面に渡すはずの支援金を懐に入れ、私腹を肥やしていたのである。

 ちょうど、王都から偉い人が来ていて、その人に町の人達が報告したことにより、発覚したらしい。

 町の人達は、お父様のことを嫌っていた。だから、引きずり落してやろうと、ずっと機会を窺っていたようだ。

 その人は、事態を重く受け止め、お父様は鉱山送りに、私とお母様は、町から追放されることになった。

 お母様は、かなり文句を言っていたけど、町を出ること自体はすんなりと受け入れたようだ。というのも、行く当てがあったらしい。

 これでも、お父様を通じて、社交界にはそこそこ顔が利くようで、他の町に行ってそれらを頼れば、以前と同じとまではいかなくても、また裕福な暮らしができると思っていたようである。

 だが、現実は甘くない。不正をした貴族に甘く出る貴族はおらず、同じく不正をしていた仲間でさえも、トカゲの尻尾きりのように知らんぷりをしてきた。

 結局、どこにも頼ることはできずに、私達は逃げるように国外に脱出するしかなくなったのだ。


「なぜ、なぜ私がこんなひもじい生活をしなくてはならないの!?」


 町を出る際、お母様はいくつかの宝飾品を持ち出していた。

 流石に国外まで出れば、私達のことを知っている人はいなくなり、換金することもできたが、そんなのは一時の時間稼ぎにしかならない。

 定職に就こうとも考えていないお母様は、私に稼いで来いと命じ、自分は食っちゃ寝の生活を続けていた。

 だが、国外からやってきた身寄りのない子供を働かせてくれる場所などなく、何とか困っている人を見つけて、手伝いをし、その見返りにわずかばかりのお金を貰う、そうやって稼いできた。

 だが、お母様はそんなはした金じゃ足りないと言って当たり散らす。私は精一杯頑張っているのに、いつも罵声を浴びせられていた。

 このままお母様と一緒にいたら、骨までしゃぶられる。そう考えて、逃げ出そうとも考えたけど、結局自分一人で生きて行けるかわからなくなり、逃げ出す勇気も沸いて出てこなかった。

 そうして、どんどん貧しくなっていき、手持ちの資金も尽きた時、お母様はとんでもないことを言ってくる。

 それが、馬車から物を盗んで来いというものだった。

 仮にも、貴族だった者の台詞とは思えない。私は拒否したが、殴られて仕方なく行くことにした。

 もういっそのこと、見つかって殺されてしまうのもいいかもしれない。そんなことさえ考えていた。

 人生の分岐点は、まさしくそこだっただろう。

 私が盗みに入った馬車は、ラストという行商人の馬車であり、私はすぐに見つかってしまった。

 訳を聞かれたので、正直に話すと、ラストさんは私を連れてお母様の下へ行き、注意をしてくれた。

 ようやく、叱ってくれる人が現れた。これで、お母様も多少はまともになるだろう。そう思っていたけど、お母様は相変わらずで、逆にラストさんに襲い掛かろうとした。

 その時、ラストさんの反撃が運悪くヒットし、お母様は亡くなった。

 身内の死という、割とショッキングな出来事だったけど、不思議と何も心に響かなかった。むしろ、これでようやく解放されると、安堵すら覚えた。


「おい、お前、行く当てはあるか?」


 少しバツの悪そうな顔をしながら、ラストさんはそう聞いてきた。特に身寄りもなかった私は、正直にないと答えた。

 そうしたら、ラストさんは私を連れて行ってくれると言ってくれた。

 まさか、ただの難民である私を、引き取ってくれる人がいるなんて思わなかった。

 それからは、今までの世界が嘘だったかのように、とても明るく見えていたと思う。

 少しでも役に立とうと、算術を学び、真贋の目を養い、できうる限り荷物運びもした。

 この機会を逃してはならないと、それはもう必死に働いた。

 ラストは、私のことを少し鬱陶しそうな目で見ていたけど、私にとっては、人生で最も輝いていた時期だと思う。

 こんな生活が、ずっと続けばいいのにと思っていたが、別れは唐突に訪れた。

 ラストは、急に私を孤児院に預けると言い出し、さっさと去って行ってしまった。

 私は、捨てられてしまったと思って、泣きわめいた。

 自慢じゃないけど、私はラストの役に立てていたはずだ。確かに、迷惑をかける時もあったけど、それでも捨てられるほどではないと思っていた。

 なのに、こんな急に別れるなんてあんまりである。

 何度も説得したけど答えは変わらず、私は孤児院で過ごすことになった。

 人生は山あり谷ありというが、ここが谷だったんだろう。私は、ラストに捨てられたショックが拭いきれず、毎日泣いていた。

 けれど、後になって、ラストにも何か訳があったんじゃないかと思うようになった。

 ラストは行商人だし、手伝いをしていたとはいえ、私を連れて旅をするのは大変だっただろう。

 それに、ずっと家なき子でいるよりも、孤児院でも屋根のある場所で暮らした方がいいと考えたのかもしれない。

 孤児院というと、お父様が支援金をちょろまかしていたせいもあって、かなり貧乏なイメージがあったけど、私が預けられた孤児院はかなり裕福そうで、服も食事も、綺麗なものが出てきていた。

 私の幸せを願ってここに置いてくれたのだとしたら、ラストには感謝するべきである。

 もちろん、別れたくはなかったが。

 だから私は、必死に勉強することにした。

 ラストが私の幸せを願ってくれたのなら、その恩返しをしなければならない。今までは、ラストに養ってもらう形になっていたが、今度は逆に、私がラストを養って上げればいい。

 そうして、あの時どう思っていたのかを言ってやるんだと、心に決めた。

 幸い、孤児院でも勉強すること自体は簡単だった。この町は、支援がしっかりしていて、孤児でも仕事に就くのは難しくないらしい。

 まあ、この国の人間ではない私はちょっとハンデがあるかもしれないけど、それくらいどうってことはない。

 それを撥ね退けてこそ、ラストに胸を張って会いに行けるというもの。

 そうして、ひたすらラストのことを考えながら突き進み、私は食堂の経営者となった。


「そして今、こうしてまた会うことができた。これって、もはや運命だと思うんだよね」


「そうなのか?」


「そうなの! これからは、私が養ってあげるから、覚悟しておいてよね」


「別に養われるほど生活に困っているわけではないが」


「もう、少しは察してよ!」


 ラストは、立派な大人になっていた。子供達を守るために、自ら悪者になる覚悟までしていた。

 やっぱり、私が好きだった人は、どこまでもまっすぐで、裏表のない人だと思う。

 後は、これをどうにかして振り向かせるだけだ。

 先は長くなりそうだけど、これからも頑張っていくとしよう。

 私は、自慢の料理をふるまいながら、そう心に誓った。

 感想ありがとうございます。

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