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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十章:学園の特別講師編
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第二百九十五話:証人の証人

「よろしい。証人の発言を認めます。被告人は、密輸を計画し、違法薬草を持ち込んだたとして、有罪」


「そんな! 俺達は……!」


「静粛に! そして、証人は密輸の計画に加担していたとして……」


「ちょっと待ったー!」


 判決が下されようとしたところで、唐突に裁判場の扉が開いた。

 一斉に全員の視線がそちらに向く。

 そこには、息を切らせながらも、堂々と立つ、一人の女性の姿があった。


「何事か。今は裁判の最中であるぞ」


「その裁判をちょっと待ってくれって言ってるのよ」


 そう言って、つかつかと歩みを進める女性。

 見たところ、異邦人のようだけど、その格好は少し奇妙で、エプロンをつけていた。

 ちょっと匂いを嗅いでみれば、なんだかおいしそうな匂いがするし、ついさっきまでどこかの食堂にでもいたのかと錯覚する。

 イメージ的には、村娘って感じだけど、そんな子がいったいどうしてこんなところに?


「私の名はメルデル。今まさに有罪判決されそうになっている、このラストさんの弁護をするわ」


「何を馬鹿なことを、そんな横暴なことが……」


「かまわん。私が許す」


「こ、公爵閣下!?」


 と、そこに少し小走りでやってきたのは、学園長だった。

 学園長は、王様の弟であり、公爵の位を持つ。

 本来、裁判に口出しできる者は少ないが、その中でも特別に口が出せるのが、王様と公爵である。

 もちろん、強引に口を出すわけだから、その裁判は公平なものとは言えなくなるけど、そうせざるを得ないタイミングもあるっちゃあるからね。

 確かに、いざという時は学園長の権力でもみ消そうという話はしていたけど、ここで来るとは思わなかった。


「今回は陛下の名代で来た。これが書状だ」


「か、確認させていただきます」


 学園長が裁判長に書状を渡すと、裁判長は慌てた様子で目を通していく。

 王の名代ということなら、断れる人はいないだろう。

 まさか、そこまでしてくれるとは思わなかったけど。


「確かに。ええと、そちらの娘の発言を聞けばよろしいですか?」


「うむ。有意義な証人となるだろう」


 そう言って、学園長はさりげなく私の横に立った。

 こちらに向けて、ウインクをしてきたけど、結局あの子は誰なんだろうか。

 ……いや、確か、メルデルって名乗ったよね。ということは、ラスト先生の……。


「では、メルデルとやら。発言を許可する」


「ありがと。さっきも言ったけど、私はメルデル。過去に、ラストさんに地獄から救ってもらった、しがない食堂経営者よ」


「メルデル、お前どうしてここに……」


 ラスト先生も、ようやく誰が来たのかに気が付いたのか、驚きに目を見開いていた。

 メルデルさんは、そんな視線を無視して、話し始める。

 どうやら、メルデルさんは、現在食堂を経営しているらしい。結構人気の食堂らしく、今では各地に支店を持つ、大きな食堂なのだとか。

 まあ、その話はともかく、メルデルさんは、過去にラスト先生に、母親を殺され、その後一緒に旅をしていたことを話す。

 メルデルさんにとって、その行為はとても嬉しかったことであり、ラスト先生に感謝こそすれ、恨むようなことはないとのこと。

 ここで重要なのは、メルデルさんが恨んでいないということ。

 本来、殺人は多くの場合罪の問われることだけど、あちらの世界と違って、その境界線は割と曖昧だ。

 例えば、殺してしまった人物が盗賊などだった場合、罪に問われるどころか、むしろ報奨金を貰える。

 殺人を等しく罰するのではなく、殺した相手の好感度や地位によって、その罪は軽くもなるし重くもなるということだ。

 今回の場合、ラスト先生が殺したのは他国の難民であるメルデルさんの母親。

 別に、母親は明確な罪を犯していたわけではないが、少なくとも、ラスト先生の馬車から商品を盗んで来いと指示したのは確かだし、ラスト先生に襲い掛かってきたのも事実である。

 そもそも、難民というだけで、その人権はそこまで重要視されていないし、いくらオルフェス王国が他国の人間に寛容であっても、自国の民と比べたらその優先順位は落ちる。

 それに何より、残された子供であるメルデルさんが全く恨んでいないどころか、むしろ感謝しているという事実。これは、その殺人が、明確な罪とは言えないという証拠でもある。

 まあ、私の感覚からしたら、それでも悪いことに違いはないような気はするけど、でも、だからと言って極刑にするほどではないと感じている。


「それに、そこの人、一番端の人ね。その人、私の食堂にもよく来ていたけど、密輸がどうとか、色々口走っていたからね。前々から、怪しいとは思ってたんだ」


「なっ!?」


 メルデルさんが営む食堂は、他国の人間である彼らにとって、割と入りやすい場所だったらしい。

 だからこそ、入り浸っていたが、その際に、酒の勢いなのか、よく危ない発言をしていたようである。

 ただ言うだけだったら、酒の席でもあるし、冗談の可能性もあるけど、こうして実際にその事件が起きてしまっている以上、それは冗談ではなく、実際に計画していたという証拠になる。

 それに加えて、ラスト先生に難癖をつけていたことや、脅して言うことを聞かせようなんてことも話していたようで、それを聞いていた被告人は、顔を青ざめさせていった。

 もう、一人は諦めたのか、ため息をついて項垂れてしまっている。

 どうやら、この発言に嘘はなさそうだ。


「その発言に嘘はありませんか?」


「あるわけないじゃない。神に誓ってもいいわ」


「ふむ。では証人、今の発言に心当たりは?」


「……確かに、その通りです」


「なるほど。これは、判決を覆す必要がありそうだ」


 傍聴席はずっとざわつきっぱなしだ。

 裁判中に、こんなことが起こることはまずありえない。本来なら、粛々と進められ、沙汰が下されるだけである。

 それが、まさかの横やりが入り、判決が覆されようとしている。

 滅多に見ない光景に、興奮を隠せない人もいるようだ。

 私も、この展開にはびっくりである。


「被告人は、変わらず有罪。そして、証人だが、彼女の発言を加味し、厳重注意とする。以後、このようなことがないよう、気を付けるように」


「あ、ありがとうございます……!」


「よかったね、ラスト」


 そう言って、メルデルさんはラスト先生に抱き着いていた。

 それにしても、よくここがわかったものである。

 私も、結構探していたけど、結局見つかることはなかったメルデルさん。

 食堂を経営しているってことは、ここ最近人気と言われている、あの食堂だろうか。

 まさか、こんな近くにいるとは思わなかった。


「ふざけるなぁ!」


 そう言って、大声を上げたのは、被告人の一人。

 相当興奮しているらしく、即座に駆け出すと、一目散にメルデルさんの下へと向かっていく。

 何をする気なのかは目に見えていたから、とっさに結界を張ろうと思ったけど、それより前に、ラスト先生が動いた。


「メルデルに手を出すな」


「ぐぁっ!?」


 ラスト先生が放った水球が男の顔に直撃し、そのまま転倒させる。

 当たり所が悪かったのか、男はそのまま気絶してしまった。

 ラスト先生の魔法を見るのは初めてだけど、確かに凄い制御力だと思う。


「警備兵、こいつらを連れていけ」


「放せ! 放せよ!」


 残った男達も、押さえつけられながら運ばれていく。

 後に残されたラスト先生は、ふぅとため息をつきながら、メルデルさんの頭を撫でていた。

 異国の人が嫌いという割には、大切に扱っているじゃんと思うけど、元から、子供好きなのかもしれないね。

 それが、素直に表せないだけなのかもしれない。


「これにて、閉廷とする」


 裁判長が宣言し、裁判は終わった。

 どうにか、ラスト先生の名誉は守れたようで何よりである。

 私は、胸に手を当てて、ほっと安堵した。

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