第二百九十三話:摘発当日
翌日。私は、門で子供達のことを見張っていた。
奴らの計画では、採取依頼を受けさせた子供達に違法薬草を持たせ、門番のチェックをすり抜ける算段である。
すでに、門番には今回の計画のことについて知らせてあり、子供達はそのまま通すように言ってある。
本当なら、違法薬草が王都に持ち込まれることは阻止した方がいいのかもしれないけど、ここで捕まえてしまうと、罪に問えない可能性がある。
仮に子供達が、奴らの指示によって違法薬草を持ち込んだと言っても、白を切られる可能性があるし、最悪ラスト先生に罪をなすり付けられる可能性がある。
ここにいる子供達は、名目上は孤児院の子供であり、奴らのとの接点は、その孤児院に多少の寄付をしているということくらい。
もちろん、強引に罪に問うことはできるかもしれないけど、より確実性を高めるなら、やはり、本拠地に持ち込まれたタイミングで捕まえるべき、そう判断したようだ。
しばらくして、子供達がやってくる。
一応、カムフラージュする気があるのか、普通の薬草を手に握らせ、取って来たぞとアピールしている様子だ。
あらかじめ事実を知っていると露骨すぎるが、何も知らなかったなら、騙されても不思議はない。
なにせ、ああいうことをする子供達は割といるから。特に、冒険者になりたての子とかはね。
「今、門を通過しました。そちらは大丈夫そうですか?」
『今のところ動きはないです。どうやら、物が届くまでは家で待機する心づもりのようですね』
私は、通信魔道具でアジトを見張ってくれている騎士に連絡を取る。
今回、摘発自体は騎士達がやってくれるが、私もその作戦の一部に入り込むため、こうして見張り役を言い渡された。
まあ、何も言われなかったら勝手に見張るつもりではいたけどね。
仕方ないこととはいえ、一度は違法薬草を王都の中に入れるのだから、間違っても回収残しがあってはいけない。
それを避けるために、私が常に子供達の魔力を追って、変なところに行かないように見張っているというわけである。
子供達は、恐らく無理矢理言うことを聞かせられているだけだけど、大量の薬草を手に入れたとあっては、違法と知らずにどこかに売りに行ったりしてしまうかもしれないからね。
「何事もなければ、まっすぐそちらに向かうはずです。準備をお願いします」
『了解しました』
しかし、案外子供の数が少ない気がする。
あの時確認した限りでは、20人くらいいた気がするんだけど、今ここにいるのは10人程度だ。
流石に、20人の大所帯では怪しまれると思ったのかな?
10人でも多いけど、それくらいだったら王都の冒険者の中にはパーティがいないことはないし。
外に出たのは確認しているから、時間を空けて戻ってくるつもりなのかもしれない。
そちらも対処しないといけないね。
『やってきました。家に入り次第、突入します』
「お願いします。恐らく、武器の類は持ってないとは思いますが、どうか気を付けて」
さて、残った子供達も気になるけど、先に辿り着いた方を見ていた方がいいだろう。
私は家の入り口が見張れる位置で待機する。
ちょうど、騎士達が突入していったのが見えたので、すぐに制圧されることだろう。
探知魔法で確認してみたが、中には例の4人と子供達しかいない様子である。
流石に、ラスト先生はこの場にはいないか。いたらちょっと困ったけど、いないならよかった。
「何をする!? 俺達は何も悪いことはしていないぞ!」
「そうだそうだ! ただ子供に薬草を取りに行ってもらっていただけだ!」
落ち着いたので中に入ってみると、縛り上げられた4人の姿があった。
一人は割と大人しいが、他の三人はギャーギャーと喚き散らして、俺達は悪くないと言い張っている。
子供達も一応拘束はされているが、流石に縄で縛るのは憚られたのか、何人かの騎士が見張っているだけだ。
まあ、みんな怯えているし、この状況下で逃げ出そうとする子はいないだろう。いても、外にまだ騎士はいるし。
「これはここでは違法な薬草だ。言い逃れはできんぞ!」
「本当に知らない! 子供が間違えて取ってきただけじゃないのか?」
「王都の近くにこの薬草が取れる場所はないし、あったとしてもそれは森の奥ととかだ。子供だけで、そんな危険な場所に行けるわけないだろう」
「そんなこと言われても、知らないものは知らない!」
騎士の言葉に、大声を上げている。
確かに、王都周辺で違法薬草が取れる場所はない。いや、ないことはないが、子供だけでは入手が困難なのは確かだ。
かなり苦しい言い訳ではあるけど、可能性が全くないわけではない。
それに、奴らは大声を出してはいるけど、特に焦っている様子はなかった。
恐らく、ラスト先生に罪を着せて逃れようと思っているんだろう。ここまで決定的な証拠がある以上、完全な無罪はないかもしれないが、うまくすれば、厳重注意で済む可能性はあるわけだし。
「そもそも、この子供達は孤児院の子であって、俺達はただ薬草採取を依頼したに過ぎない。身に覚えのないものを持ってこられて、それで罪だなんて言われても困る!」
「そうだ! 確か、この町では最近やんちゃしている子供達がたくさんいるようじゃないか。その一環で、嫌がらせとして持ってきたんじゃないのか?」
「それとこれとは関係ない」
「どうだかね。知ってるんだぜ? 最近の子供達の迷惑行為の裏には、ある教師が関わっているって」
「言い訳は後で聞く。今は大人しくしていろ」
そう言って、騎士達は手際よく縄を繋ぎ、外へ連れ出した。
今回は、護送用の馬車を用意してある。
歩きで連れて行ってもいいが、それだと道中で色々あることないこと言いふらされる可能性がある。
できることなら、このまま拷問にでもかけて口を割らせたいところだけど、こいつらが他国の商人というのが足枷となって、それはできない。
他国の人間だろうが何だろうが、法はその国のものが適用されるが、明らかに不当な扱いを受けるのを避けるため、もし他国の人間が事件に巻き込まれた際は、弁護人を付けることが義務付けられている。
今回の場合は、奴らが所属する商会の人間ってことになるだろうか。
商人同士はライバルでもあるが、仲間でもある。不当に仲間が陥れられることがあれば、それは自分にも降りかかる可能性があるということなので、全力で擁護するわけだ。
つまり、奴らが弁護人を要求すれば、裁判になる可能性が高い。
裁判の場で、奴らがラスト先生のことを話さないわけがない。罪から逃れるために、必ずや発言してくるだろう。
それが信じられようがそうでなかろうが、言われてしまった時点で結構な不利を背負うことになる。
一応、ラスト先生を擁護する発言はできるけど、どうなるか。
私は、去っていく馬車を見ながら、今後の展開を見据えていた。
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