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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十章:学園の特別講師編
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第二百九十二話:タイムリミット

 メルデルちゃんは、どうやら約3年前に孤児院を出たらしい。

 勉強の甲斐あってか、かなり優秀だったらしく、冒険者で一攫千金を狙うのではなく、より安定した仕事に就いたらしい。

 今でも仕送りはされているようだが、詳しくどこで働いているかはわからないようで、できることならこちらも会ってお礼を言いたいと言っていた。

 流石に、居場所まではわからないか。でも、この国で何かに就職したことは間違いなさそうである。

 果たして、今もうまく行っているかはわからないけど、それほど優秀なら、野垂れ死にということはないだろう。


「貴重なお話、ありがとうございます」


「いえいえ。ラストさんの知り合いであれば、知りたくなるのも無理はないですから」


 私は、お礼として、いくつかの食料を寄付することにした。

 多分、そこまで食うに困っているわけではないと思うけど、話だけ聞いて何もしないんじゃ申し訳ないからね。

 まさかそんなものが出てくるとは思っていなかったのか、先生はちょっと驚いた様子だったけど、これでただの怪しい人でなくなったならそれでいい。

 さて、お次は、メルデルちゃんがどこに行ったのか、だな。

 一応、この町では、町長を通じて、孤児達に仕事を斡旋しているらしい。

 基本的にはこの領内で仕事に就くことになっているようで、もしそれを利用しているなら領内を探し回れば見つかる可能性はある。

 流石に、残り四日で領内すべてをが探しきるのは不可能だけど、探すだけ探してみるか。


「魔力がわかれば楽なんだけどね」


 メルデルちゃんが、特別な魔力を持っているとかだったら探しやすくてよかったんだけど、流石にそう都合よくは行かないだろう。

 目的が、ラスト先生に恩返しするためというなら、ラスト先生の足跡を辿るんじゃないかとも思ったけど、ラスト先生が今いる王都は、領内ではない。

 そもそも、ずっと孤児院にいたなら、ラスト先生がどこにいるかなんてわからないだろうし、追うのは不可能に思える。

 となれば、やはり領内のどこかに就職しているというのが無難なところ。

 仕送りしているなら、その仕送り元を特定できれば楽なんだけど、流石に教えてはくれないからね。

 地道に探していくことにしよう。そう考えて、私は領内をくまなく探すことにした。


 それから三日ほど探し回ったが、手掛かりは全く得られなかった。

 流石に、どこかに就職しているってだけじゃ、手掛かりとして少なすぎる。

 お母さんを頼ったりもしてみたけど、流石に、特別な魔力を持っているわけでもない人物を探すのは難しいらしく、進展することはなかった。

 もう少し探したい気持ちはあるけど、明日はもう密輸の決行日である。

 いい加減動かないと、密輸が実行されてしまうので、戻るしかない。

 私は、少し悔しく思いながらも、王都に戻って学園長に報告することにした。


「なるほど、子供を助けるために、母親を殺してしまったというわけか」


「そうだと思います」


 私の報告に、学園長はうんうんと頷いている。

 恐らくだけど、最初は殺す気なんてなかったんだろう。単純に、娘になんてことをさせるんだと、抗議をするだけだったんだと思う。

 だけど、母親のあまりの言い分に腹が立ち、つい力が入りすぎてしまった。

 ラスト先生は、娘の目の前で母親を奪ってしまったことに、罪悪感を抱いていたのかもしれない。

 だからこそ、わざわざ自分は人殺しだなんて学園長に打ち明けたんだろう。

 これに関しては、情状酌量の余地が認められるかと言われたら、少し微妙なところ。

 確かに、結果だけ見れば、娘を窮地から救ったように見えなくもない。けれど、それは別に殺人を犯す必要はなかったことだろうし、衝動的に殺害したと言われても反論できない。

 まあ、他国の難民だから、そこまで重要視されないって可能性もあるけど、奴らは殺された母親の母国の人間である。それを引き合いに出されたら、少し不利になる可能性があるだろう。

 ある程度は情状酌量の余地が認められる可能性もなくはないが、ちょっと弱い、そんな感じだ。


「彼の過去を知れたのはよかったが、流石にすべてを許すには証人がいるか」


「見つけられれば良かったんですけど……」


「なに、その子が生きていて、ラスト先生に感謝しているということがわかっただけでも儲けものだ」


 せめて、証人であるメルデルちゃんがいれば、ある程度有利に立ち回れたかもしれないけど、いないものは仕方ない。

 これ以上は、密輸をさせてしまうことの方が問題だし、さっさと動かないと摘発するのが間に合わなくなる可能性がある。

 あんまり使いたくないけど、最悪は学園長の権力で、過去の出来事をもみ消すしかない。


「決行は明日。であるなら、持ち込もうとしたところで、摘発するのが一番手っ取り早いか」


「今すぐには無理なんですか?」


「できないことはないが、物がないわけだからね。ハク君の証言を信じないわけではないが、やはり、決定的な証拠が欲しい」


 捕まえるだけだったら、今すぐにでも捕まえることはできるようだけど、そうなると、容疑が軽くなる可能性がある。

 まあ、密輸を計画したってだけでも十分な罪なんだけど、その証拠となるような資料があるわけでもないし、彼らは表面上はただの商人である。私が密輸計画を聞いたというだけでは、捕まえるには少し弱い。

 しかし、実際に違法薬草を密輸する現場を取り押さえれば、相手は言い逃れができなくなる。

 確実に罪に問うためには、その方がいいとのこと。

 ラスト先生への影響や、子供達の被害を考えるとちょっとあれだけど、確かに証拠がなければ捕まえるのは難しい。

 ここは我慢するしかないか。


「摘発はこちらに任せてもらえるかい?」


「そうしてくれると助かります。でも、その場にいてもいいですか?」


「もちろん。ハク君は陛下の切り札でもある。特に拒まれることはないだろう」


 もし、捕まえた時に奴らがラスト先生に罪をなすり付けようとするなら、全力でフォローしないといけないからね。

 一番嫌なのは、私が手を出せないタイミングで暴露されることだ。

 裁判の場で話されるようなことがあれば、判断は裁判長に託される。

 意見を言えないことはないけど、それをどこまで受け入れてもらえるか。

 最悪は、権力でもみ消すだけど、できればそうならないことを祈る。


「では、このことは私から陛下に伝えておこう。恐らく、奴らの根城で取り押さえることになると思うから、そのつもりでいてくれ」


「わかりました」


 後のことは学園長に任せ、私はその場を後にする。

 さて、どのように転がるか。できることなら、丸く収まってくれたらいいのだけど。

 そんなことを考えながら、明日を待った。

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[一言] 案外近くに居たりして
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