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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十章:学園の特別講師編
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第二百九十話:行商人の繋がり

 ラスト先生が行商人をしていたのは約5年前まで。

 元々、騎士になるために成人してからすぐに養成所の方に行っていたようだから、行商人になったのは、長くても約20年くらい前ってところだろうか。

 実際には、もう少し狭まると思うけど、その間のことを知っている人に聞く必要がある。

 しかし、行商人ということは、各地を旅していたってことだし、王都でそれらについて知っている人を探すのは難しい。

 当然、他の町に行くとしても、少なくともその町に寄っていたという証拠でもないと無理がある。

 知っているとしたら、同じ行商人の仲間くらい。

 行商人と言えば、一人知り合いがいたよね。


「ということで、来たんです」


「なるほどね」


 そうして訪れたのは、王都にあるとある店。

 そこには、私を助けてくれた心優しい行商人である、ロニールさんの姿があった。

 元々、ロニールさんは行商人だったが、ヴィクトール先輩が作った装置をいち早く取り扱い、大きな利益を得て、そのお金で王都に店をオープンしたのだ。

 扱っているのは主に雑貨だが、独自の仕入れルートにより、より良いものを提供するというスタンスのようで、今でも順調に売り上げを伸ばしているのだという。

 私もたまに寄っているけど、うまく行っているようで何よりである。


「確かに、行商人は町の商会で出会うことがよくある。行商ルートが似ていれば、落ちあう可能性も高いし、知っている可能性はあるかもね」


 ロニールさんは、行商人を経験した時間が割と長い。

 ラスト先生よりも年上だし、もしどこかのタイミングで会っているなら、何かしらの情報を得られる可能性がある。

 ロニールさんが知らなかったら、後はもうお母さんに頼んで精霊ネットワークで何とかするくらいしかないんだけど、果たして知っているだろうか?


「わかった。それで、その人の名前は何て言うんだい?」


「ラストという名前です」


「ラストか。うーん、どうだったか……」


 ロニールさんは腕を組んで記憶を引き出している様子である。

 ただ、なかなか思い出せないのか、うんうん唸っているばかりで肝心の情報は出てこないようだ。

 流石に、同じ行商人とはいえ、無茶が過ぎたかな?


「あれじゃないですか? ほら、ゴーフェンに行く途中で、ちょっとした騒ぎになっていたでしょう?」


「ああ、あれか!」


 ロニールさんに助け舟を出すように、店先から一人の男性がやってくる。

 ロニールさんの護衛である、リュークさんだ。

 元々は、冒険者だったけど、今ではロニールさん専属の護衛として、今も一緒にいるらしい。

 この二人も、なかなかいいコンビだと思う。


「何かわかりましたか?」


「ああ。確か、7、8年くらい前だったかな」


 そう言って、ロニールさんは当時の状況を話し出す。

 当時、ロニールさんはいつものように行商の旅をしていた。そして、ルート上の町に辿り着き、売買をしていたのだという。

 その時、その町にある孤児院で、なにやら騒ぎがあったのだとか。

 気になって覗いてみると、孤児院の前で、泣きわめいている子供と、それを困ったような表情で見ている一人の男性の姿があった。

 どうやら、男性は孤児院に子供を預けようとしていたらしい。

 食うに困った親が、子供を養うことができずに、やむなく孤児院に預けるということはたまにあるので、それ自体は珍しくなかったが、どうやらその子供は、他国の子であるらしく、若干顔立ちに違いがあった。

 わざわざ引き取った子供を孤児院に預けるか? と疑問に思いつつ展開を見守っていると、男性は子供を孤児院の先生に強引に預け、その場を去って行ってしまった。

 子供は何度も何度も男性の名前を呼び続けていた。しかし、それに振り返ることもなく、男性は姿を消した。


「その時に叫んでいたのが、ラストって名前だった気がするよ」


「なるほど……」


 全く同じ名前の別人という可能性もなくはないが、状況から察するに、恐らくラスト先生のことで間違いはないだろう。

 これは、かなり有力な手掛かりである。子供を預けたとされる孤児院が特定できるのであれば、その子供から証言を得られるかもしれない。

 もっとも、子供だったようだから、当時のことを覚えているかはわからないけど。


「その町の場所はわかりますか?」


「もちろん。地図で言うと、ここだね」


 そう言って、ロニールさんは地図を開いて場所を教えてくれた。

 ここまでわかれば、後は実際にその場所に行って調べるだけである。

 行ったことのない町だったが、幸い、そこまで遠いわけではない。

 竜の翼を使えば、一日ちょっとで辿り着くことができるだろう。


「ありがとうございます、ロニールさん、リュークさん」


「いやいや、これくらいならお安い御用だよ」


「何する気か知らないが、気をつけてな」


「はい。あ、お土産にこれ置いておきますね」


 情報料代わりに、ミスリルと宝石をいくつか置いていく。

 多分、相場と比べたらよっぽど高いけど、ロニールさんにはお世話になったからね。

 唐突に置かれた大量のミスリルにロニールさんは困惑した様子だったが、割といつものことなので、ちょっと苦笑するくらいだった。

 さて、時間もないし、さっさと向かうとしよう。

 私は一度家に帰り、お兄ちゃん達に少しの間留守にすることを伝える。

 すぐに戻ってこられるとは思うけど、一応ね。


「エル、行ける?」


〈いつでもどうぞ、ハクお嬢様〉


 そう言って、エルは竜の姿に変身した。

 私が自分でなってもいいけど、どうせ一緒に行くならエルの背中に乗っていった方が楽か。

 見つからないように、隠密魔法で姿を消し、背中に乗り込む。

 エルは、私がしっかり乗ったことを確認すると、翼を広げて空に飛びだした。


「今も孤児院にいればいいんだけど」


 ロニールさんの話では、その子供は、およそ10歳程度の年齢に見えたという。

 それから7、8年経っているなら、現在は18歳くらい。一応、成人している。

 基本的に、孤児院は、成人した子供を置いておくことはない。

 成人したなら、早く仕事に就いて、孤児院に仕送りしたりなんなりするのが普通だから。

 裕福な孤児院ならともかく、貧しい孤児院だと、日々の食事にも困るってことがよくあるからね。

 なので、成人しているというなら、すでに孤児院を出て、働いている可能性もある。

 その子が、孤児院に恩義を感じて、今でも仕送りをしているというなら多少は希望が持てるけど、他国の子だったというし、もしかしたらすでに国に帰っていて、場所を特定できない可能性もある。

 一応、国の名前だけだったらわかるんだけど、流石にそこまで行って調べるだけの時間はないからね。

 もし帰っていたら、子供から話を聞くのは無理がある。

 一番いいのは、今も孤児院に在籍している、あるいは、在籍していなくても、この国で働いていることだね。

 あるいは、その子供から話を聞いているなら、孤児院の先生とかから話が聞ければいいかなと思う。

 果たして、どう転ぶか。

 期待を込めながら、私は町に着くのを待った。

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[一言] すぐ見つかるといいねぇ
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