第二百八十七話:アジトの様子
魔力を頼りに進んでいくと、一軒の家に辿り着いた。
どうやら借家のようで、二階建ての結構大きめの家である。
わざわざ家を借りてるのかと思ったけど、表向きは商人なんだから、借りてても不思議はないか。
とりあえず、探知魔法で中の気配を探ってみる。
あの時いたのは、ラスト先生を除いて四人だったが、ここにいるのは二人だけ。それ以外に、何人か別の気配を感じる。
他の二人は、また別の場所に行っているようなので、ここが外れならすぐにそっちに行くつもりだ。
「こっちは、表向き用の家なのかな?」
他国から来た商人という体なら、店を構えている以上、そこに住んでいてもおかしくはないけど、そうしないのは、他の構成員の隠れ家にするためだろうか。
恐らく、あの薬屋のサポートをする人材。例えば仕入れなんかを担当する人達の家という体なのかもしれないね。
「とりあえず、中に入ってみようか」
私は、隠密魔法で姿を消し、中の様子を確認してみる。
パッと見た限りだと、別に不自然な場所はない。
倉庫らしきところに、薬草が入った箱が大量に置かれていたけれど、それ自体は別に違法なものというわけでもなく、一般に流通しているものだった。
恐らく、在庫なのかな?
わざわざこっちに置いているのも変な気がしたけど、もしかしたら、違法薬草を持ち込んだ際に、カムフラージュとして利用するためのものかもしれないね。
悪だくみに関してはすでに通達済みなのか、それらしい話もないし、密輸に利用すると思われる子供達の姿もない。
どうやら、こっちは外れっぽいね。
「エル、一応見張っておいてくれる?」
「かしこまりました」
一応、まだ秘密がある可能性があるし、エルに見張りを頼んでおく。
私はその間に、もう一方のメンバーが行った場所へと向かうことにした。
魔力を頼りに進んでいくと、外縁部の中でも割と空き家が目立つ区画までやってくる。
こちらは勝手に不法滞在しているのかと思ったけど、一応は買い上げた家なのかな?
ここら辺の家は割と出入りが激しく、すぐに人が入れ替わるから、外から人が入ってきても目立ちにくい。
資金力があるなら、追い出される可能性があるホームレスより、きちんと家を買った方が安全ではあるだろう。
同じように探知魔法で中を探ってみる。
感じ取れるのは、例の二人と、複数人の気配。
この魔力量を見る感じ、こちらは子供なのかな?
魔力を見ただけじゃよくわからないけど、恐らく、この子供達が密輸に利用されている子供達だろう。
自分達の手を汚さず、子供達を利用するのはちょっと腹立たしいけど、今はそれよりも情報を取りたい。
隠密魔法で姿を消し、内部へと潜入する。
「これは……孤児院を装ってるのかな?」
家自体もそこそこ大きかったけど、内装も、大人数が食事するためのテーブルや、大量の寝床なんかがあり、なんとなく、孤児院っぽさを感じる。
まあ、孤児院と言っても、そこまで待遇はよくなさそうだけど。
一応手入れはされているようだが、かなり汚いし、寝床もベッドではなく、ただの毛布だけ。
子供達の様子も見てみたが、いずれも痩せていて、服もボロボロだった。
割と上等な服を着ている二人と比べるとよくわかる。
もしかしたら、子供達も構成員のうちで、自主的に協力しているのかと思ったけど、これを見る限り、そんなことはなさそうだった。
「それにしても、まさかここまでガキが少ないとは思わなかったよな」
「ええ、現地調達できれば一番よかったのですが」
二人が何やら話し始める。
どうやら、初めは利用する子供達は、現地で、つまり、この王都で調達するつもりだったらしい。
だが、王都はすでにスラムはかなりの小規模になっていて、子供と言えど、きちんと保護されたり、仕事についたりしている場合がほとんどである。
子供自体は、冒険者とかもいるかもしれないけど、彼らには先輩冒険者がついているので、わざわざ他国から来た怪しげな商人に協力する必要はない。
結果として、十分な子供を集めることができず、わざわざ元居た国から連れ去る形で連れてきたんだとか。
「門番への賄賂も通用しなさそうな感じでしたし、ここは割と手ごわい場所かもしれませんよ」
「だが、ここにはライバルとなる同業者が少ない。うまく出し抜ければ、相当な儲けになる。違うか?」
「それはそうですが」
王都にも、一応犯罪組織というものは存在する。
以前であれば、黒き聖水はその一つだっただろう。
彼らには国も手を焼いているが、ここ王都では、他の町に比べたらそこまで数は多くない。
昔から、王様が真面目だったこともあって、大きな犯罪を犯せばすぐにでも拘束できていたようだからね。
おかげで、今いるのは新参者が多く、それも諜報部によってある程度は把握済みである。
少なくとも、王都全体を揺るがすようなことにはならないだろう。
でも、それは国側の視点であって、犯罪者側の視点となると、警備は厳しいが、ライバルが少ない穴場であるという印象があるようだ。
うまく戦局を見極めて、権力者の味方を増やし、地盤を固めて行けば、王都で一花咲かせることも可能である。そう考えているようである。
そんなにうまくいくのかと私は思うけど、人はみんな、自分の都合のいいことを信じたがるものだからね。
実際、貴族連中は腐敗している人も多いし、うまく味方を見極められれば、この地に根を下ろすことは可能だろう。
まあ、私が見つけた時点で、そうはさせないが。
「とにかく、もう決行の日は決まった。外の奴らにはもう通達してあるんだよな?」
「もちろん。頃合いを見て、採取依頼を受けた子供達を外に出し、回収させる予定です」
「ならいい。しかし、学園の留学生を利用するとは考えたな」
「この国で最も子供が集まる場所ですからね。利用しない手はないです」
話はラスト先生のことに移る。
ラスト先生とは、偶然街で出会ったようだ。
たまたま歩いていたら肩がぶつかり、その際に酷く叱責された。
なんだこいつはと思い、素性を調べてみると、何と学園の教師だという。それも、他国の人間に対して辛辣な態度を取るということもわかった。
その時、すでに学園の子供を利用しようという策は思いついていたようで、どうにかこいつに復讐しつつ、子供を利用できないかと考えた結果、ラスト先生を脅すことで、自分達に従わせ、最終的にすべての罪をかぶってもらおう、という計画を立てたらしい。
今回の件、子供達が門番の目を欺くことができるかは運によるところもある。ばれても子供達が勝手にやったことで済むかもしれないが、最悪、足がつく可能性もなくはない。
だから、その際に身代わりとなる人材、すなわちラスト先生を用意することにしたようだ。
ラスト先生は、他国の人間を嫌っている。そんな人間が、他国の人物である自分達に従うはずがない。それを利用し、疑いの目がラスト先生に向けられた後にしらばっくれれば、うまい具合にラスト先生を破滅させることができる。
大きな儲けを狙いつつも、きちんとリスクは考えている。それが、彼らの計画のようだった。
やはり、ラスト先生は何かしら弱みを握られている様子である。それさえなんとかできれば、解決できそうかな。
私は、その弱みが何のかを探るべく、さらに話に耳を傾けていた。
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