第二百八十三話:次なる情報源
もし、今はやめるつもりがないけど、そのうちやめることになるという意味だとしたら、ラスト先生は、留学生達に問題行動を起こさせることによって、何かをしようとしているってことだろうか。
その目的を達成するためには、今しばらく時間が必要だから、今すぐにはやめることはできない、ってこと?
流石に、このセリフだけでは、憶測の域を出ない。
単純に、言い方を少し間違えただけで、やめるように指導するという意味で言ったのかもしれないし。
ラスト先生が元凶とは言っても、まさかそれを表立って言うわけないからね。表向きは、反省しているって言う風に見せかけてもおかしくないだろう。
「あれからすでに三か月ほど経っているが、未だに問題行動は収まらず、仕方ないから学園側に抗議を送ったんだよ」
「なるほど。生徒達は、全然態度を改める気はなさそうですか?」
「どうだろうね。一定数はもしかしたらやめてくれるかもしれないが、一部がどうにも」
問題行動を起こしている留学生達だが、その中でも二種類に分かれるらしい。
一つは、嬉々として問題行動を起こしていく者。
積極的に喧嘩を売りに行ったり、獲物を横取りしたり、とにかくやりたい放題。主な元凶は、こちらだ。
で、もう一つは、そんな人達に乗っかる形で、問題行動を起こしている者。
こちらは、前者と違って積極的には問題行動を起こすわけではないが、周りから言われて、それに同調する形で問題行動を起こしてしまうと言った感じらしい。
前者が完全に楽しんでやっているのと違って、後者はちょっとは悪いと思っているのか、ところどころに遠慮が見られる。
もちろん、それでも問題行動は問題行動なので、区別することはないが、もし態度を改めるとしたら、後者のグループだろうとのこと。
「指示されているのだとしたら、その指示に賛同していない人もいるってことなのかな」
問題行動を起こすことに抵抗を持っているけど、お金が貰えるならと流されている感じ?
葛藤があるなら、やめればいいとも思うけど、確かに、大勢がやっていることに反対するのはちょっと勇気がいるよね。
「ハク君は、彼らについて何か知っているかい?」
「今は、特別授業をさせて、マナーについて教えていますけど、結果はあまり」
「そうか……なんで今年の留学生は、こんなに問題ばかり起こすんだろうね」
そう言えば、問題行動を起こしているのは、主に一年生ばかりなんだよね。一部二年生も混じっているけど、ほとんどは一年生ばかりだと聞く。
年齢に何か理由があるのかな? 11歳って、学園に入学できる年齢という以外は、特に何もなかったような気がするんだけど。
「学園も色々対処してる最中なので、どうかもう少し耐えていただけると」
「その様子だと、ハク君も何か手伝ってるのかな?」
「まあ、一応……」
半分クビになったけどね。
特別授業の成果は芳しくないから、あと少しで更生できるかって言われると微妙だけど、学園も頑張ってるから、どうか許してほしい。
「ハク君なら、きっとこの問題を何とかしてくれるだろう」
「買いかぶり過ぎですよ」
「はは。他にも聞きたいことはあるかな?」
「そうですね……」
せっかくギルドに来たのだから、ここ最近の依頼の状況についてでも聞いておこうか。
今は、留学生達の問題行動が目立っているとは言ったけど、依頼が滞っているというわけではない。
不正なランク上げは今までの行動からして遅らせることができるし、獲物の横取りも、今のところは冒険者達の寛大な心で許されている。
もちろん、鬱陶しくは思っているだろうから、いつまでもこのままというわけにはいかないが、留学生達のせいで依頼が回らないってところまでは来ていないようだ。
「最近、新しく店がいくつかできたみたいで、そこの配達の依頼が増えているかな」
「配達ですか」
お店を営んでいる人は、よく足りない材料をギルドに依頼して、取ってきてもらうことがある。
その際に、基本的には依頼者がギルドに来て、持ち帰るのだけど、少し報酬を多めに払えば、配達をすることも可能なのである。
こう言った配達依頼は、Fランクの子供達のお小遣い稼ぎとして重宝されていて、薬草採取と並んで、貴重な収入源となっているのだ。
「どんなお店なんですか?」
「食堂と薬屋だね。行ったことはないけど、なかなか評判らしいよ」
なんでも、オーク肉と卵を使った料理が人気らしい。
話を聞いた時、頭に浮かんだのはとんかつだったけど、そんな感じなんだろうか?
そこまで外食はしないんだけど、たまには町に繰り出してみるのもいいかもしれない。
あんまり散策する機会もなくなってきたから、新しい店ができてもわからないことが多いし。
店の名前は聞いたので、後で機会があったら寄ってみるとしよう。
「ありがとうございます。今度行ってみますね」
「ああ。今はそんなに厄介な依頼はないけど、何か入ったらその時は頼んでもいいかい?」
「ええ、もちろん」
最後に、少し雑談してから、ギルドを後にする。
今回の収穫は、ラスト先生がギルドに対して謝罪に来ていたこと。少し妙なことを言っていたってことだろうか。
ラスト先生が元凶と考えると、謝罪に来るのは明らかにおかしい。
それとも、留学生を退学させるのだけが目的で、ギルドを困らせるのは想定外だったとか?
学園内だけで収めるつもりが、外にまで波及してしまい、その罪悪感から謝罪に来たって可能性もあるか。
でも、妙な発言といい、それだけってわけでもないような気がする。
深読みするなら、ラスト先生は、留学生に問題行動を起こさせることによって、退学以外の何かをしようとしているってところだろうか。
それこそ、犯罪者にでも仕立て上げて、逮捕させるとかね。
他国の人間を嫌っているラスト先生なら、容赦なくやりそうな気がしないでもない。
裏がありそうでなさそうな微妙なラインだけど、まだ情報源はある。
意外と、ギルドにも情報が眠っていたし、この調子で色々調べていくとしよう。
「さて、次は留学生に話を聞かないとね」
ラスト先生に気づかれる可能性はあるが、ここは少し踏み込んでいこう。
すぐさま学園へと向かい、問題の留学生を探す。
ただ見つけるだけなら、屋上に行けば結構たむろしているんだけど、なるべく気づかれたくないと考えると、口止めがしやすいように少数の方がいい。
できれば一人でふらふらしている人がいればいいんだけど……。
「と、いたいた」
そんなことを考えていたら、ちょうど一人でうろついている生徒を見つけた。
私は、そっと後ろから近づき、校舎裏へと引きずり込む。
隠密魔法で姿を消した上に、結界で視界をそらしていたから、誰に気づかれることもなかった。
生徒は、突然の事態に暴れていたけど、私の姿を見せると、びくりと肩を震わせて大人しくなった。
「な、な、なんでお前が……」
「そう怖がらないでください。ちょっと聞きたいことがあっただけですから」
そう言って、壁に生徒を押し付ける。
さて、きちんと答えてくれるだろうか?




