第二百八十一話:さらなる調査
「ハク君、話とは?」
「はい、実は……」
学園長室に入り、私は学園長に調べた事実を報告する。
留学生達に問題行動を起こすように指示していたのはラスト先生であり、留学生達はその報酬として金銭を受け取っていた。
生徒と教師の間でお金の貸し借りをするのは、明確に禁止されているわけではないけど、悪いことではあるし、それが学園の評判を貶めることに繋がるとなれば、看過するわけにはいかない。
学園長も、その話を聞いて、驚いた顔を浮かべていた。
「それは本当なのかね?」
「はい。指示していたかどうかは一回現場を目撃しただけですが、ギルドの貸金庫を通じて、お金を受け取っているのは確かなようです」
「うーむ、まさかそんなことが……」
学園長は、腕を組みながら唸っている。
学園長から見て、ラスト先生は、いたって真面目な先生だったらしい。
確かに、留学生に対して少しきついところはあったが、それ以外では優秀であり、行商人としての経験と、魔法の才は、他に替えが効かないと言ってもいい。
だから、そんな先生が、まさか学園を貶めようとしているとは、到底思えなかったようだ。
「留学生の問題行動の罰として、退学にする可能性はあるんでしょうか?」
「なくはない。実際、この特別授業でどうにもならなかった場合は、一部を退学にし、見せしめにしようとも考えていた」
「では、ラスト先生の思惑にも噛み合いますかね?」
「うーむ、いくら留学生が嫌いでも、そこまでするような先生ではないと思うが……」
やはり、そこには疑問があるらしい。
だって、いくら留学生に問題行動を起こさせようとしたって、全員が言うことを聞くわけではないだろう。
実際、問題行動を起こしているのは約四割ほどで、残りの六割は加担していない。
まあ、四割でも十分多いとはいえ、彼ら全員を退学にすることはできないだろうし、できたとしても、残りの六割が残る以上、ラスト先生の望みは叶わない気がする。
もちろん、ある程度間引ければよく、残りの理性的な留学生には目をつむるって言うなら話は別だけど、ちょっと話しただけでも、ラスト先生の他国の人に対する恨みは強そうに見えた。
今は学園という大きな組織に属しているから、ある程度我慢しているんだろうけど、そうでなかったらとっくに全員追い出していると思う。
強硬手段に出るのなら、そこは徹底的にやりそうな気がするんだよね。
「とにかく、まだ情報が足りない。ハク君、できれば、ラスト先生について、秘密裏に調べてくれんか?」
「元々そのつもりだったので、構いませんよ」
「ありがとう。どうにも、何か裏があるような予感がするのだ」
ひとまず、ラスト先生の処分については保留にするようだ。
まあ、現状、証拠となるものは貸金庫のお金を留学生達が引き出していたってことくらいだしね。
もしかしたら、偶然貸金庫の合言葉を知った留学生が、無断で引き出しているって可能性もなくはない。
ラスト先生が完全に黙秘してしまえば、それこそ留学生だけが悪者になり、退学の道を辿る可能性もある。
私も、ラスト先生は、そこまで悪い先生には見えないしね。
「さて、どこから調べようか」
学園長室を後にして、どう調べたものかと思案する。
ラスト先生は、商業科の先生として、日々授業を行っている。
まずは、その様子を観察するところから始めるべきかな?
もちろん、自宅とか授業以外の部分も見る必要はあるだろうけど、まずはということでね。
ちょうど、今はその授業をしている最中のはずである。
私は、さっそく教室に向かうことにした。
隠密魔法で姿を消して、教室に潜り込む。
ラスト先生は、真面目に授業を行っており、生徒達も、特に不満を言うこともなく、静かに授業を受けている。
見たところ、留学生の姿はないのかな?
ラスト先生が拒んだのか、それとも元からいないのかは知らないけど、おかげで厳しい一面を見ることはなかった。
いや、そもそも留学生に対して、本当に厳しい先生なのかはわからないけども。
嫌っているだけで、態度には現れないのかも……いや、それはないか。はっきり言いそうだし。
しばらくして、授業が終わる。
今日の授業はこれで終わりなのか、ラスト先生はそのまま教室を後にし、職員室へと向かっていった。
職員室にいた先生方に挨拶しながら、自分の机に向かい、資料を整理している。
見た限り、本当に真面目な先生なんだろう。机を見ても、かなり綺麗に整っている。
やがて、すべての授業が終わる時間となり、ラスト先生は帰宅の準備を始めた。
「一応、机を調べてみようかな……」
無断で悪いけど、これも学園長からの指令である。
まだ他の先生が残っていたので、結界で視界をそらし、ばれないように慎重に漁ることにした。
「あるのは、授業に使うっぽい教材ばっかりだね」
テスト用紙やそろばん、後は、目利きのためなのか、商品らしきものがいくつか入っていた。
生徒達の成績表も入っていたけど、それは流石に見たらまずそうなのでそっとしまっておく。
うん、怪しそうなものはない。流石に、何か裏があるとしても学園には持ち込んでいないのかな。
「となると、今度は自宅だね」
すでに、ラスト先生は帰宅してしまっているが、すでに魔力は覚えているので、探知魔法でいくらでも追うことができる。
それを頼りに、追いかけてみると、外縁部の方に出てきてしまった。
学園の先生って、結構な高給取りな気がするんだけど、中央部にないのか。
いやまあ、確かにラスト先生は貴族ではないし、外縁部に住んでいても全く不思議はないけども。
毎日学園に通うのに、通行税払うのが大変そう。いや、流石に通行証が発行されてるかな?
どちらにしろ、学園の寮に住んだ方がいい気もするけど、何かこだわりでもあるんだろうか。
「どうやら一人暮らしっぽいよ」
「ありがと、アリア。探知魔法でも、一人しか反応がないね」
一応、アリアに偵察を頼んでみたけど、やっぱり一人暮らしらしい。
まあ、以前は行商人をしていたらしいし、結婚はしにくかっただろう。
今ならできそうな気もするけど、適齢期は過ぎていそうだ。
私は、こっそり窓から忍び込む。
どうやら、ラスト先生は、リビングで飲み物を飲みながら本を読んでいるようだった。
遠目で見る限り、本は学術書っぽい? 勉強熱心だね。
このまま寝るのを待ってもいいが、あの様子だと、しばらく起きてそうだし、今のうちに別の部屋の探索でもしておこうかな。
「書斎があるみたいだね」
いくつか部屋を調べてみると、書斎を見つけた。
書斎があるなら、ここで本を読めばいいのにと思ったけど、どちらかというと、仕事部屋って感じなのかもしれない。
棚には本も並んでいるが、他にも置物がいくつか並んでいる。
いずれも二つずつ並んでいるのが気になるけど、まあそれは置いておいて。
とりあえず、引き出しを漁ってみる。
「特に目ぼしいものはないなぁ」
ラスト先生の裏側に繋がりそうなものは何も見つからなかった。
流石に、そう簡単には見つからないらしい。
あるとしたら、金庫とかなのかなぁ。今のところ、それらしいものは見つけてないけど。
結構時間が経ってしまったし、今日のところはひとまず退散するとしようか。
そう思い、私は静かに家を後にした。
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