第二百七十七話:クラスの統一
それから少しして、クラスの統一が行われた。
私が受け持ったクラス以外は、みんな人が集まらず、また、先生達も、メンタルをやられて授業どころじゃなくなってしまったということで、唯一効果があった私のクラスに、すべてのクラスを吸収し、私が120人全員の面倒を見ることになったのである。
もちろん、補佐として何人かの先生はつけてくれたけど、正直役に立たないんじゃないかな。
確かに、みんながたいがよく、強面の先生ばかりだけど、顔が引きつっているもん。
生徒達の威圧に負けているようじゃ、このクラスを受け持つのは無理がある。
まあ、フォローはするけどね。
「流石に、ここまで多いと点呼するのも大変ですね」
「負担をかけて、面目ない……」
「いえ、先生方は悪くありませんから」
人数が増えたということで、いつもの教室では収まらず、結果として大講義室を使うことになった。
ここならば、120人でも十分に収まるからね。
ただ、広くなった分、隅々にまで目が届きにくくなり、さぼりを見つけるのが大変になった。
それに、私のクラス以外はみんな今までと変わっていないので、言うことを聞かないこともしばしば。
一応、教室を隔離したから逃げられはしないけど、普通にカードゲームやらなんやらしているのが目立つ。
またエルに威圧してもらった方がいいかなぁ。
「さて、今日から教室が一緒になりましたが、やることは変わりません。引き続き、マナーについて学んでいきましょう」
「うるせぇぞチビ」
「ガキは引っ込んでな」
「さっさと教室から出せよ」
「静かにしてください」
いつもの四倍の量ということもあって、凄いうるさい。
一応、元々私のクラスだった子が諭している姿も見受けられるけど、そんなことは知ったこっちゃねぇと言いたい放題である。
「なあ、俺達閉じ込められてるんだし、脱出するために魔法使っても文句はねぇよな?」
「だよな。俺達は何にもしてねぇのに閉じ込められてる。その元凶を倒すのは何も間違っちゃいない」
「この先公共ぶっ潰してさっさと帰ろうぜ」
そう言って、次々に席を立ち、ロッドを構える生徒達。
突然の出来事に、他の先生方は動揺し、落ち着くように生徒達に言っているが、聞く耳は持たない。
やれやれ、一回実力行使しないとわからないのかね。
一応、学園長の方から許可は貰っている。身に余る行動をするようなら、攻撃してもいいと。
ここでは、学園のルールが優先される。自分勝手なルールを突き通すなら、攻撃されても文句は言えないよね。
「先生方、下がっててください。私が止めますから」
「はっ、お前みたいなガキに何ができる。やっちまえ!」
生徒達がロッドを振り上げる。
しかし、それよりも先に、私の水の刃が飛び、ロッドを持つ腕を落とした。
「……えっ」
「お、俺の腕がぁ!?」
「な、なんだよこれぇ!」
「痛ぇよぉ!」
さっきとは別の意味で阿鼻叫喚とする教室内。
いや、私だってここまでやりたくなかったよ? でも、多分みんな言っても聞かないだろうから、実力行使に出ただけだ。
大丈夫、腕を切り落とす際に傷口を凍らせたから、壊死することはないし、私なら後遺症もなくきれいにくっつけることも可能だ。
腕を落とされるのって、結構ショックが大きいと思うけど、自分達はそれくらいされても文句言えないことをしているんだと理解させなければならない。
なに、死ななきゃ安いって奴だ。
「た、助けて……」
「皆さん、これに懲りたら馬鹿な真似はせず、真面目に授業受けてくださいね。真面目に授業を受けるなら、きちんと腕を戻してあげます。さあ、どうしますか?」
「受ける! 真面目に受けるから!」
「では、こちらに並んでください。順番に繋げていきますね」
腕を落とされたショックで、みんな混乱していたが、私の言葉に面白いようにおとなしくなった。
まあ、早く治してもらおうと、順番を守らない人もいたけど、そう言った人達も、順番を守らなければ腕をくっつけてあげないと言ったら、大人しく並んでくれたし、問題はないだろう。
それにしても、腕を落とされたくらいで、そんなに騒ぐのか。
いや、確かにショックではあると思うけど、これが戦場だったら、そんなことやってたらすぐに殺されちゃうと思うんだけどな。
せっかく魔法が使えても、集中できていなければ発動はしない。
生き残りたいなら、まずは敵を倒すことに集中する。あるいは、降伏して温情を貰おうとするって感じだと思う。
まあ、後者はそのまま殺される確率も高いから、お勧めはしないけどね。
「え、えげつないですね……」
「そうですかね?」
「普通は腕を落とすなんてしませんよ……」
なんか、先生達がドン引きしている。
そ、そんなに変だったかな。ちょっと過激すぎた?
確かに、ちょっと威圧するだけでも効果はあったかもしれないけど、やっぱり体に覚えさせないと反省しないだろうしと思ったんだけど。
そりゃ、治せないならこんなことは絶対にやらないけど、治せちゃうからね。
あ、でも、相手からしたら、もしかしたらもう治らないかもしれないって思っちゃうのか。だとしたら、確かにやり過ぎだったかもしれない。
ちょっと反省だね。
「まあでも、これでみんな大人しくなったでしょう。だいぶ時間をロスしちゃいましたけど、授業に入りましょう」
「は、はい……」
腕を治した生徒は、そのまま席に着く。
まあ、逃げようとしていた子もいたけど、ちょっと睨んでやったら大人しく席に着いた。
というか、私に対する視線がみんなドン引きしてるんだけど。
そこまで怯えられるとちょっと申し訳ないんだけど。
「さて、恐らく他のクラスだった子はまともに授業を受けてないと思うので、改めておさらいしていきましょう。すでに知っているという人は、復習の意味も兼ねて聞いてくださいね」
そう言って、授業を開始する。
マナーと言っても、本当に基本的なことしか教えていないのだけど、これだけですでに半月以上使ってると考えると、本当に手がかかる子達だよね。
ほんとに、早いところ原因を突き止めたい。
あれから、人を変えて観察したりして見ているから、何かあったらそのうちわかるかもしれないけど、今のところ成果はゼロなんだよね。
このまま、生徒達の我儘で終わらないでほしいところだ。
「はい、さっきのところについて、君、答えてくれるかな?」
「え、あ、えっと、その……」
ちゃんと聞いているかどうか、質問したりもしているけど、みんなしどろもどろになって全然答えてくれない。
中には、顔を青ざめさせて、そのまま気絶する人まで出る始末。
答えられなかったら殺されるとでも思っているんだろうか。流石の私も、そこまではしないよ?
というか、私は人殺しは好きじゃないし。仮に好きでも、大切な学園の生徒を殺したりしないから。
「みんな限界っぽいので、今日はここまでにしておきましょうか。お疲れ様でした」
授業の時間が終わると、生徒達は一目散に逃げ帰っていく。
次も来てくれるか心配になったけど、真面目に授業を受けるって約束したし、来なかったとしても呼び戻せるから問題はないか。
さて、今日も観察を続けないとね。
そんなことを考えながら、教室を後にした。
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