第二百七十六話:原因の究明
それからしばらく経った。
何度も何度も連れ戻しているせいか、逃げても無駄だと判断したのか、最近はきちんと教室に集まっていることが多い。
おかげで、連れ戻す人数が減って、私としては嬉しい限りである。
ただ、態度は相変わらずで、授業は真面目に聞かないし、特別授業以外では、相変わらずさぼりが酷いようである。
他のクラスでは、そもそも集まらないので授業にならないってことで、学園長も頭を悩ませているようだ。
なんというか、ここまで来たら、うまく行ってる私のクラスに、全員を集結させたらいいのではないかという案も出ているらしく、私の負担が大変なことになりそうである。
いやまあ、どうせ話聞いてくれないんだから、30人も120人もそんなに変わらない気がしないでもないけどね。
「結局未だに原因はわからず、か」
一応、ある程度友好関係は築けたかなと思って、何人かに何で問題行動を起こすのか聞いてみたんだけど、全然答えてくれなかった。
まだまだ関係性が足りていないのか、それとも私がこんな見た目だからなのか、いずれにしても聞き出すのは難しそうである。
「単に授業がつまらないからとか、面倒くさいから、ってわけじゃない気がするんだけど……」
今受け持っている生徒達のデータを見たけど、ほとんどがCクラススタートである。
Cクラスは、いわば中堅。学園の中では、結構上位に入る部類であり、最低でも何か一つでも魔法を扱える優秀者である。
そんな将来有望な彼らが、オルフェス魔法学園という、エリート学園に留学できたというアドバンテージを捨てるのは明らかにおかしい。
あるとしたら、何者かに脅されて、仕方なくやっているとか、あるいは他にもっと自分達の利になるようなことがあるかってところだけど、そんなことあるだろうか?
もし、黒幕的なものがいるのだとしたら、そいつを突き止めて捕まえてしまえば、問題は解決しそうだけど。
「ここは一つ、生徒達の観察をしてみるのも手かもしれないね」
あんまり、生徒達のプライベートを覗くのはよくないことかもしれないけど、ここまで原因がわからない以上、ある程度は強硬策も仕方なしだと思う。
明らかにおかしいし、何か言えない事情があるなら、こちらから知りに行くしかない。
何もないなら、それはそれでヒントになるしね。
そういうわけで、私は早速尾行をすることにした。
「さて、どうなってるかな?」
生徒の一人に着目する。
まず、朝寮で起きた後は、食堂で朝ご飯を食べ、その後学校に登校する。
ただ、向かうのは教室ではなく、屋上。
学園の屋上は、一応解放されているが、授業中に来る輩はほとんどいない。
しかし、今は留学生達の溜まり場になっているのか、数人の生徒の姿があった。
昼寝をしたり、カードゲームをしたり、中には魔法の練習をする殊勝な子もいたけど、それもほんのいたずら程度のもののようだ。
しばらくすると、おもむろに教室に向かい、机に向かう。だが、それも一瞬で、すぐに昼寝をしたりして、真面目に授業を聞くつもりはない様子。
注意されたら怒鳴り返し、機嫌が悪くなれば教室を出ていく、そんな感じ。
なんか、一応登校はしているあたり、何か基準があるんだろうか?
授業の評価は、基本的にテストに依存している。テストの点数が良ければ、次の学年では上のクラスになるし、悪ければ下のクラスになる。
この子達は、留学生だということで、Fクラスにはならないけど、それでもEクラスまで落ちる可能性がある。
最低限出席はしているようだから、留年はしないのかな? だとしても、1年からこんなことやるべきではないと思うけど。
「今のところ、ごく普通の不良って感じだけど」
面倒なら出席しなければいいところを、わざわざ出席したりする辺り、一応卒業しようという意思はあるらしい。
あれかな、あえて悪い態度を取ることで、オルフェス魔法学園から去ろうとしているとか?
本当は別の学園に留学したかったけど、親などの関係でオルフェス魔法学園に来ざるを得なくなり、だったらさっさと退学して本命の学園へ、ってことなのかもしれない。
いや、だとしても経歴に傷がつくし、かなりリスキーな選択だと思うけど。
「そろそろ授業の時間だね」
特別授業の時間になると、教室に向かってみんな集まってくる。
私の授業だけ集まりがいいのは、やっぱりエルのおかげなんだろうね。
授業が終わった後は、みんな逃げるように教室を後にしていくけど、今回はその後も追うことにする。
特別授業が終わる時間は、結構遅い。本来なら、さっさと寮に帰って、次の日に備えて寝る準備をするのが普通だけど、生徒達はどうだろうか。
観察してみたが、見た感じ、みんなすぐに寮に戻っている。晩ご飯を食べ、お風呂に入り、部屋に入って眠りにつく。
この辺りは普通の生徒と変わりないのか。あるいは、私の授業のせいで精神が削られているからかもしれないけど。
その後も、一応見守ってみたが、朝になるまで特に目立った反応はなく、次の日になってしまう。
うーん、わかんない。
「一日観察してみた限りでは、ほんとにただの不良って感じなんだけど」
もちろん、見ていたのは一人だけだし、他の生徒がどうだったかはわからないけど、今回の結果だけを見ると、特に原因はわからなかった。
一応、精霊からも情報を集めたけど、時たまギルドに行って、適当な依頼をこなしていたり、町の人達からカツアゲしたり。ほんとにろくでもないことをやっているという情報は得たけれど、やはり原因ははっきりせず。
ほんとにただ単に面倒だからとか、そんな理由じゃないよね? もしそうだとしたら、運が悪すぎると思うけど。
「うーん、もやもやする……」
私としては、生徒達を信じたい。
この世界において、職がないというのは、死に直結する問題だ。
一応、みんな貴族の子だから、実家の跡を継いだりできるかもしれないが、それにしたってある程度の素質は必要となる。
後から、あの領主は学園にいた頃にやんちゃしていたんだ、なんて知れたら、求心力も下がるし、そんな遊び惚けていたら、そもそも領地経営なんてできないだろう。
他の仕事だって難しいだろうし、冒険者という最後の砦も、ギルドとの関係性を悪化させていることで絶ってしまっている。
そうなれば、後は破滅だ。路頭に迷い、スラムに行きつくのも時間の問題だと思う。
だから、卒業できれば、将来安泰と言われている魔法学園で不真面目にする理由なんてあるわけないし、自分の首を絞めるだけだと思うんだけどな。
そうやって、不良になることによって得られる利がなければ、絶対にやらないはずなのである。
生徒達がただ単純に、目の前の問題から逃げているだけだなんて考えたくない。
私はしばらくの間、何か理由があるはずだと苦悩していた。
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