第二百七十四話:集まらない生徒
一日目の授業の結果だけど、他のクラスは散々だったようだ。
みんな、教室に集まりはしたものの、先生の言うことを聞く気はなし。授業そっちのけでカードゲームに興じたりと、やりたい放題だったようだ。
一応、強面で威圧感のある先生を選んだようだけど、それでもまるでダメ。
実力的には先生の方が圧倒的に上だけど、生徒に対してまさか攻撃してこないだろうとでも思っているんだろう。完全に舐め腐っていたようだった。
うまく行ったのは、私のクラスだけ。エルの威圧が相当効いたらしい。
まあ、ただ強面の人が怒るのと、本物の実力者が放つ威圧は全く別物だからね。それに、エルは容赦なく生徒に手を出したし、攻撃されないって言うアドバンテージも意味を成さないと悟ったんだろう。
まあ、あんまり手を出しすぎると、何か言われるかもしれないけど、相手は留学生であり、この国の法律の方が優先される。
いくら学園側を訴えようとしたところで、意味はないだろう。
よっぽど強い国ならわからないけどね。
「さて、今日は集まってるかなぁ」
次の日。同じ時間に教室を訪れる。しかし、そこには誰もいなかった。
教室も間違っていないし、私が時間を間違えたわけでもない。
まあ、あれだけのことがあったのだから、逃げ出すのは当たり前だけど、一人や二人くらいは来ると思ったんだけどな。
誰も来ないのは、いっそ面白いまである。
「ハクお嬢様、どうするおつもりで?」
「みんなの魔力は覚えているし、連れ戻すよ」
問題となっている留学生は、すべて下調べて魔力を覚えてある。
少なくとも、王都の中にいるなら、ほぼ探し出すことはできるだろう。
昨日、あれだけマナーについて教えたのに、さっそく破っちゃう悪い子には、きっちりお仕置きしてあげないとね。
「それじゃあ、エルはこの部屋で待ってて。連れてくるから」
「かしこまりました」
私は、探知魔法で生徒達の行方を探し出す。
一応、留学生は皆、寮に住んでいるから、遅い時間になれば、必然的に戻ってくるだろうけど、それも絶対じゃない。
中には、夜の街に繰り出す輩もいるだろうから、それで探すのは無理がある。
まあ、大半は校内にいるようだから、そこまで時間はかからないだろう。
さっそく一人目を捕捉し、腕を掴む。
「なっ!? い、いつの間に」
「ほら、授業が始まりますよ。戻ってください」
反論される前に、転移魔法で教室に送り込む。
一人に対して一回転移魔法を使うのはちょっと効率が悪いかな?
次からは、ちょっとだけまとめてから送るとしよう。
そんなことを考えながら、生徒達を集めていく。
全員を集め終わるまでに、三十分とかからなかった。
「さて、これで揃いましたね。それでは、授業を始めましょうか」
「な、なんなんだよあいつ……」
「気が付いたら教室にいたんだけど……」
「ただのガキじゃなかったのか?」
「ほら、静かに。今日から点呼取りますからね」
私は、名簿を頼りに名前を呼んでいく。
まだ困惑しているのか、呼んでも反応しない人もいたけど、そこはきちんと返事するまで呼び続けた。
少なくとも、返事くらいはまともにできるようになってもらわなければ困る。
こんなの、学園に来るまでもなくみんな知っていると思うんだけどね。なんでこうなってしまったのやら。
「はい。今日もマナーについて教えていきますよ」
昨日よりは、まともに聞いている人もいる。ただ、それでも聞いてない人はたくさんいるようだ。
昨日は、私に攻撃を仕掛けようとしたから、エルが止めに入った。けれど、多少話を聞いていない程度だったら、エルもそこまで動かない。
というか、エルは私が危険に陥らなければ、そこまで他人に興味はない。私が指示したらそりゃ動くだろうけど、ただ話を聞いてないくらいだったらわざわざ注意するほどでもない。
多分、生徒達も、どこまでが怒られるラインなのかを見極めているんだろう。まだ一日しかやってないというのに、強かなものである。
「さて、ちゃんと聞けていたかどうか確認しましょう。そこの君、答えてくれますか?」
「は、俺? んなもん知らねぇよ……」
「ちゃんと聞けてなかったみたいですね。もう一度言うので、しっかりと聞いてくださいね」
あからさまな攻撃はしない。けれど、反抗はする。
これ、他のクラスにエルが出張したらいい感じに威圧してくれないだろうか。
それで言うことを聞いてくれるようになるなら万々歳なんだけど。
いやでも、それだとエルがいる時だけしっかりして、いない時はさぼるって言う風になっちゃうかな?
先生が抑止力になれなくちゃ意味がないし、エルだけに負担を押し付けるのはだめかもしれない。
他のクラスも、何か対策を考えたいところだけど、今は自分のクラスに集中しないといけないかな。
「そこ、寝ちゃだめですよ」
「うっせぇな、眠いんだよ」
「寝るなら寮に帰ってからにしてくださいね。でないと、お仕置きしちゃいますよ?」
「くっ、わかったよ……」
それにしても、授業をさぼるのはわからないでもないけど、何が目的なんだろうか。
留学生である以上、その国の代表みたいなものだし、ある程度の品性がないと、その国の評価を落とすことになる。
仮に、生徒達にその自覚がないのだとしても、魔法学園って、卒業できたら将来安泰と言われるほどエリートが揃っている。
Fクラスとか、評価が低いクラスならまだしも、彼らは最低でもCクラス以上の実力を持つ者達である。その中で、悪い評価を受けるということは、自分はエリートになれないろくでなしですと言っているようなものだし、仮にも魔術師を志す者として、あまりにもおかしなことだと思うんだけどな。
そのうち、原因を問いただす必要が出てくるだろう。
だが、今は、みんなとの友好を深め、大人しく話してくれるまで待つ方がいいと思う。
下手に強引に聞き出そうとして、余計に意地になられても困るし。
「さて、今日はここまでにしましょうか」
「ほっ……」
「それと、次回から教室に来なかった人は、ペナルティとして課題を出しますからね。課題を提出できなければ、さらにペナルティです。これは、成績にも影響しますから、しっかりと出席するように」
また逃げ出そうと考えていたのか、ほとんどの生徒が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「明日は、冒険者の方を招いて、冒険者のマナーについて学んでもらうことになります。予習しろとまでは言いませんが、心構えくらいはしておいてくださいね」
そう言って、扉の結界を解除する。昨日と同じように、扉に一目散に走っていき、教室にはあっという間に人がいなくなってしまった。
さて、強制的に連れ戻すとは言っても、何人かはまた脱走しそうだし、課題の準備でもしておこうか。
そんなに難しい課題にするつもりはないけど、果たしてやってくるかどうか。
そんなことを考えながら、今日も教室を後にした。
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