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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第十章:学園の特別講師編
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第二百七十三話:特別授業

 それから約一週間後。学園側の準備が整ったらしく、私は正式に特別講師として招かれることになった。

 特別授業が行われるのは、すべての授業が終わった後の時間帯。

 本来なら、その時間になれば、研究室に行ったり、帰宅するなりするのが普通なんだけど、他の授業の枠を圧迫しないようにした結果、補習のような形で、この時間になったらしい。

 なので、出勤するのは夕方からだ。

 まあ、そのうち校外学習というか、冒険者としての心を学ばせるために、午前中に連れていくって言うのも考えているらしいから、多少ずれがあるかもしれないけどね。


「ということで、今回より、特別授業の講師をすることになりました、ハクです。どうぞよろしくお願いします」


 さっそく教室に入り、挨拶をする。

 教室内には、予定通り30人前後の生徒がおり、思い思いに過ごしていた。

 本来は放課後という時間だからなのか、かなりだらしない格好をしており、中にはカードゲームに興じている者もいる。

 おおよそ授業をする雰囲気ではないけど、とりあえず挨拶を終わらせてしまおう。


「この特別授業は、授業態度があまりよろしくない生徒に向けた救済策でもあります。なぜここに呼ばれてしまったのかを考え、どうすればここに呼ばれないようになるのかを考えてください」


「うっせーぞ、チビ」


「特別授業って言うからどんな奴が来るかと思ったら、ただのガキじゃねぇか」


「迷子になっちゃったのかな? ここにはお母さんはいないでちゅよー?」


 話を聞かないどころか、こちらに対して暴言まがいのことを言ってくる始末。

 まあ、これくらいなら予想できていたから、特に怖くはない。

 エルが額に青筋浮かべてるけど、あんまり怒らせて、暴走しなきゃいいんだけど。


「まずは自己紹介をしましょう。そちらの君から、どうぞ」


「今いいところだから黙っててくんない?」


 一応、すでに生徒のデータは見ているから、名前は知っているんだけど、コミュニケーションの一環として自己紹介を求める。

 だが、案の定答える者はいない。

 私の見た目のせいもあると思うけど、ここまで先生を馬鹿にしている生徒も珍しいよね。


「誰も答える気はないんですか?」


「なあ、もう帰っていいか?」


「わざわざ放課後に集まるのも馬鹿らしい」


「最初だから、一応先公の面拝んでこうと思ったけど、ただのガキだったしな」


 そう言って、ぞろぞろと教室から出て行こうとする生徒達。

 やれやれ、ここまでくるといっそすがすがしいね。

 まあ、逃がす気はないけど。


「ん? あれ、開かねぇぞ」


「そんなわけ……あ、開かねぇ!」


「なんだこれ!」


 扉を開けようとしても、扉が開くことはない。

 結界で固めたからね。私が結界を解かない限り、この教室から出ることはできないだろう。

 他の生徒も異変に気が付いたのか、今度は窓から脱出しようとしていたが、そちらも当然封鎖済みである。

 元々、こうやって集まってきてくれていることすら心配だったから、せめて来てくれた人は逃がさないようにと気を張っていてよかった。


「おい、どういうことだよ!」


「どうもなにも、今は授業中ですよ。授業が終わるまで、教室から出ることは許しません」


「ふざけんじゃねぇ!」


 そう言って、ロッドを構える生徒。

 魔法は人に向けて撃つなと教わらなかったんだろうか? まあ、敵だと認識したならいいかもしれないけど。

 今の私なら、あえて受けても傷一つ負わないだろう。だから、受けてやってもよかったんだけど、それよりも前にエルが動いてしまった。


「貴様、今何をしようとした?」


「ぐえっ!?」


 気が付くと、エルはその生徒を押し倒し、首を片手で抑え込んでいた。

 他の生徒も、いつの間に移動したのか気づかなかったのか、少し遅れてエルへと視線が集中する。

 わざわざ素手で攻撃しに行った辺り、エルもまだ理性的だね。


「何をしようとしたのかと聞いている」


「てめ、放せ……!」


 とっさに、友達と思われる生徒が助けに入ろうとしたが、エルが睨むと、蛇に睨まれたかのように、その場に座り込んでしまった。

 エルも魔力を抑えているとはいえ、あれだけ荒ぶっていれば多少は漏れる。

 生徒は皆思い知っただろう。エルには絶対に勝てないと。


「貴様の国では、先生に対して魔法を撃ってもいいと教わるのか? えぇ?」


「が、ぐっ……」


「貴様らもだ。ここに集められた理由もろくに考えないで好き放題ばかり。恥を知れ」


 教室の気温がだんだんと下がっていく。

 エルの周りには、うっすらと氷の膜が形成されているから、結構怒っているのかもしれない。

 生徒達は、その気迫に当てられて、ピクリとも動けないでいるようだ。

 私もエルの意見には賛成だけど、流石にこれじゃあ可哀そうだから、そのあたりにしておいてあげよう。


「エル、それくらいにしてあげて」


「ですが、ハクお嬢様」


「わかっていたことだから、問題ないよ。これから直していけたら、それで」


「そうおっしゃるなら……」


 私の言葉に、エルは生徒から手を放す。

 生徒は激しく咳き込んでいたが、流石にそれは同情できないかな。

 場もシーンとしちゃったから、一度仕切り直す意味も含めて、咳払いを一つ。


「こほん。これから君達には正しいマナーを学んでもらいます。私の言うことをよく聞いて、もう二度とこの授業を受けなくて済むようにしてくださいね」


「……」


 返事はない。私のことまで認めたかどうかはわからないけど、少なくとも、私を侮辱すれば、エルが動き出すことはわかっているんだろう。

 私が席に着くように言うと、緩慢な動きではあったが、みんな席に着いた。


「いい子ですね。その調子で、授業もしっかり受けてください」


 私は、さっそく授業を始める。

 しかし、学校の先生って、ちょっと楽しいな。

 元々、私は人に物を教えるのはそんなにうまくないんだけど、こうして生徒達を前にすると、なんとなく、ワクワクしてくる。

 もちろん、相手はこちらの言うことなど聞いてくれない不良生徒なんだけど、なんか、子供が大人ぶりたくて背伸びをしたがっているような、微笑ましさを感じる。

 これで、生徒達が更生してくれたら一石二鳥だね。


「……はい、今日の授業はここまでとします。明日も同じ時間にあるので、しっかり集まってくださいね」


 授業はとても静かで、特に質問も何もされず、時が過ぎて行った。

 別に、朝まで授業してもいいけど、そこは学園から時間を指定されているので、それを超過するわけにはいかない。

 私は指を軽く振るうと、扉の結界を解除する。同時に、扉を開いてあげたので、これで出ることができると認識するだろう。

 ガラガラ、という扉が開く音を聞いた途端、生徒達は逃げるように走り去っていく。

 よっぽどエルの威圧が怖かったのかな。

 この様子だと、次も集まってくれるかは微妙だけど、そのあたりは考えがある。

 私は何となく手ごたえを掴みつつ、教室を後にするのだった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一日目からこれだと先が思いやられるなぁ
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