第二百七十二話:話を聞きに行く
学園に赴くと、すぐに応接室へと通された。
久しぶりの学園だったが、見た感じ、特に変わったところは見られない。
私も、ここで実験したり色々していたなぁと思いつつ、ソファに腰かけて待っていると、しばらくして学園長がやってきた。
「久しぶりだね、ハク君、それにエル君も。元気だったかね?」
「お久しぶりです。おかげさまで、元気にやってますよ」
「それはなにより」
学園長は穏やかな表情を浮かべながら、ソファに腰かける。
このまま思い出話に花を咲かせるのもいいが、一応、依頼で来ているので、私は早速手紙を取り出した。
「留学生の監督をして欲しいとのことですが?」
「うむ。ぜひハク君に任せたいと思っている」
学園長の話では、ここ最近、留学生の態度が著しく悪くなっていっているらしい。
一応、元から一定の人数は、態度が悪い生徒もいたが、最近では留学生の四割以上が問題行動を起こしているようで、生徒からも、先生からも苦情が出ているらしい。
元々、学園では貴族も平民も平等であり、格差はないとは言っているけど、それでも家の関係で偉そうな態度をする者はいた。
だから、多少であれば、その態度も頷ける。
だが、ここ最近の件は、明らかに度が過ぎているようで、学園長としても、これは何とかしなければと対策を立てたようだった。
「原因はわかっているんですか?」
「それが、さっぱりわからない。確かに、問題行動を起こしているのは貴族家の者が多いが、国はばらばらだし、目的も不明。その国の代表としてやってきている身としては、あまりに理解できない行動ばかりだ」
強いてわかっていることを上げるとすれば、問題行動を起こしているのは、ここ1、2年で迎え入れた下級生が中心らしい。
それ以前からやってきていた留学生は、特に問題行動は起こしておらず、むしろ、それらを迷惑に感じているようだった。
最近来た下級生が中心か。何か関係あるのかな?
「とにかく、このまま問題行動を放置すれば、他の生徒や先生に迷惑がかかるし、オルフェス魔法学園としてのメンツにも関わる。だからこそ、留学生の意識改革をしようと考えたんだ」
「なるほど、事情はわかりました」
今のところ、いくら先生が注意しようが、態度を改めることはないらしい。
あまり、留学生だからという理由だけで特別扱いはしたくないが、そこに問題が集中している以上、隔離せざるを得ない。
今回の意識改革は、学園としての評価にも直結しそうだね。
「具体的には何をするんですか?」
「問題行動を起こした生徒だけを集め、特別授業を行う予定だ。ハク君には、その監督をしてもらいたいと思っているんだが」
「なんだか荒れそうですね」
「だろうね。でも、だからこそ、ハク君のような優秀な魔術師が必要になる。どうか、協力してくれないかね?」
「もちろん、学園長の頼みとあらば喜んで」
「ありがとう。助かるよ」
留学生がなぜ問題行動ばかりを起こすようになったのかはわからないけど、精一杯指導するとしよう。
「他に特別授業を請け負う人はいるんですか?」
「学園の先生から数名と、あとギルドの方から、冒険者を講師として招く予定だ。冒険者としての行動も、目に余るものがあるからね」
問題行動を起こしている留学生は、およそ120人ほどいるらしい。それらを一つのクラスとして扱うには数が多いので、30人ずつに分けて、それぞれに特別講師を割り当てるようである。
普通の先生の注意はほとんど聞いてくれないらしいので、できるだけ実力があり、いざという時は実力行使もいとわないような厳しい人を採用するようだけど、果たして効果はあるんだろうか。
まあ、せっかくクラスを分けても、先生がいつもと変わらない態度だったらそんなに効果ないから、それくらいはしないといけないのかもしれないけどね。
私は、威圧という意味では役に立たないかもしれないけど、その気になれば、神力を解放して威圧することはできる。
まあ、何とかなるだろう。
「ハク君のサポートとして、エル君にも指導を頼みたいと思っているんだが、どうだろうか?」
「言われなくても、私はハクお嬢様のおそばにおりますので」
「はは、それならよかった」
まあ、エルならそう言うよね。
後は、冒険者が必要だというなら、お兄ちゃんとかお姉ちゃんに頼むというのも手かもしれないが、それはどうなんだろうか?
流石に、Aランク冒険者を雇うとなると、報酬が厳しくなるのかな。いや、学園ならそこはそんなに気にしないだろうし、単純にギルドに采配を任せているのか。
ギルドマスターなら、もしかしたら選ぶかもね。その時は、もしかしたら一緒になるかもしれない。
「まだ調整が終わっていないから、詳しい日程は後日伝えさせてもらうよ。他に何か質問はあるかな?」
「なら、その留学生のデータとかありますか? ちょっと確認したいんですが」
「ああ、そうだね。今持ってくるからちょっと待っててくれ」
そう言って、学園長は席を外すと、しばらくして戻ってきた。
学園の生徒の情報は、基本的には外部には見せてはいけないものなんだけど、一応、特別講師ということで許されたのかな?
まあ、見せてくれないなら【鑑定】で見ちゃうという手もあるんだけども。
「どれどれ……」
学園長が持ってきてくれたリストには、1年生、あるいは2年生のデータが載っている。
確かに、学園長の言う通り、国籍もばらばらだし、貴族と言っても、男爵から侯爵まで、様々な階級が揃っている。
授業をさぼっているらしいので、成績はお察しだが、最低限の魔法は使えるらしく、それでいたずらをしたりすることもあるらしい。
1年生で魔法を使えるだけ凄いと思うけど、逆にそんなに優秀な人が何で授業をさぼったりするんだろうか。
これが自国の学園なら、自分は優秀だからさぼってもいいや、と思うのも何となくわかるけど、留学生として来ている以上、その国の代表という立場なのだし、下手な行動してその国の評価を下げるのは明らかに間違っていると思うんだけどな。
単なるストレス? いや、だとしたら留学生だけが問題行動を起こしているって言うのはおかしいよね。
「……わかりました。ありがとうございます」
「ハク君は、何が原因かわかるかい?」
「いえ。一度、実際に生徒の様子を見ないと何とも言えません」
「わかった。期待しているよ」
もしかしたら、学園側に問題がある可能性もあるし、まだ断言することはできない。
実際に生徒達の様子を見て、何が原因かを判断していくことになるだろう。
何となく違和感を覚えつつ、学園を後にするのだった。
感想ありがとうございます。




