第二百七十一話:学園からの手紙
第二部第十章、開始です。
雪山での騒動も、ひとまず落ち着いた。
あれから、タクワは約束通り動くのをやめ、雪山でじっとしているようになった。
相変わらず、強固な結界で雪山を覆ってはいるけど、むしろ、あれがあるおかげで、周りからは異変が起きていると認識されていないようだし、間違って雪山に突撃するような人がいなければ、特に問題はないだろう。
ポクランの町も、無事に解凍され、凍っていた人々も息を吹き返した。
普通に考えたら、一か月以上も凍っていたのだから、生きているはずがないと思うのだけど、氷竜の氷が特別なんだろうか?
凍らせたというよりは、時間を止めたと言ってもおかしくない現象を前に、ちょっと頭を捻ったけど、まあ、死んでしまっているよりは全然いいし、これはこれでいいと思う。
町の人々は、凍っていた時の記憶を覚えていないらしく、町の惨状に少し驚いていたが、しばらくしたら元の日常に戻っていったようなので、ある意味強かなのかもしれない。
まあ、あんな雪山の近くに町を作るくらいだから、多少図太くないとやって行けないのかもしれないが。
氷竜の方も、あの後竜の谷で無事に過ごせているようだし、元凶が未だに健在ということを除けば、問題は解決したと思う。
あとやるべきことは、クイーンの排除だけど、今のところは情報もないし、しばしの平穏が訪れていた。
「だんだん暑くなってきたね」
「そうだねー」
夏も中盤に差し掛かり、だんだんと気温も上がってきたように思える。
家にはエアコンのようなものはないけれど、風魔法と氷魔法で簡易的な冷風を作り出しているので、そこまで暑くはない。
元々、そこまで暑さも感じないしね。わざわざ扇風機もどきを作っているのは、ただの雰囲気である。
「気を抜いてもいいのかそうでないのか、よくわからなくなってきたよ」
「そこまで気を張っている必要はないんじゃない? 詳しいことは、天使が何とかしてくれているんでしょう?」
「それはそうだけど……」
私の言葉に、ユーリが答える。
タクワからの情報によって、今の私では、クイーンには到底勝てないことがわかった。
まあ、相手は神様なんだし、当然っちゃ当然なんだけど、流石に、手も足も出ないのは問題である。
だから、クイーンを打倒するためにも、力をつけるべきではないかと考えていた。
しかし、力をつけると言っても、どうするべきかわからない。
そもそも、今の時点でも、神様の力の一端を扱えるのだ。これ以上の敵となると、それこそ神様そのものでなければ相手にできないだろう。
つまり、私自身が対抗するなら、私も本物の神様にならなくてはならないということになる。
流石に、私は人のままでいたい。いくらクイーンが脅威とは言っても、そもそもそれを何とかすべき立場なのは神様達であり、私ではない。
だから、神様にすべてを丸投げして、私は何もしなくてもいいのではないかとも思う。
けれど、地上に降りられない神様と違って、私は比較的自由が利く。クイーンを探すのも、相手にするのも、私が一番の適任だろう。
そういう意味では、やらなければならないと思うけど、どうにも踏ん切りがつかない。
例えば、神様の方から、クイーンを相手にして欲しいから修行してくれないか、みたいなことを言われたなら、やりますと答えるけど、別にそういうわけでもない。
創造神様が何を考えているのかはわからないけど、今回のタクワを倒せという指令にも消極的だったらしいし、私には極力戦ってほしくないのかもしれない。
そうなると、強くなるために色々頑張るべきなのか、それとも神様の意を汲んで大人しくしているべきなのか、判断がつかない。
私としては、できる限り協力したいと考えているけど、どうしたものかねぇ。
「元々、ハクが首を突っ込む話でもないんだし、そんなに気負う必要はないよ」
「だといいんだけどね」
まあ、何とかしたいと言っても、強くなるためには恐らく神界の助けが必要となる。
そこ以外で、神剣を軽々振るえる場所なんてないだろうし、そもそも神様の力の鍛え方なんて知らない。
確か、信仰が力となるみたいな話は聞いたけど、私も誰かに崇められたらいいの? それはなんか嫌だなぁ……。
「それより、手紙が来てたよ?」
「手紙? 誰からだろう」
そう言って、ユーリは懐から一通の手紙を取り出す。
朝になって届いていたらしいけど、確認してみると、どうやら学園からのようだった。
学園が私に何の用だろう?
不思議に思いながらも、封を開き、中を確認する。
「ええと、なになに?」
送り主は、どうやら学園長のようである。
学園長とは、卒業式で会った以来だったかな。
学園を卒業して以来、学園に行く予定もなかったので、特にアプローチはなかった。
せいぜい、アリシアが卒業する時にちょっと見に行ったくらいかな。
どうやら元気そうだけど、今回手紙を送ったのは、手伝ってもらいたいことがあるようだった。
「なんて書いてあるの?」
「簡単に言うと、留学生の監督をして欲しい、だってさ」
オルフェス魔法学園は、魔法を教える学園の中ではかなり歴史が古い。
そのおかげなのか、多くの国から留学生がやってきているようだった。
私が学園にいた頃は、特に気にしたこともなかったけど、私も会ったことあったのかな?
まあ、それはともかくとして、その留学生達が、ここ最近、問題行動を起こしているらしい。
教師の言うことを聞かなかったり、授業をすっぽかしたり、物を盗んだり、色々とやりたい放題やっているようだ。
特に問題なのは、冒険者としての行動であり、ギルドの方からも、苦情が来ているらしい。
本来、生徒が冒険者活動をすることは認められているし、それ自体は特に問題はないのだけど、他の冒険者の獲物の横取りや、寄生行為など、ギルドでも目に余る行為が散見されているらしい。
そこで、一度留学生達の意識を改めるために、意識改革を行おうと、特別授業をすることになった。
そして、その監督役に、私を抜擢したいということらしい。
「どう見ても、厄介事じゃない?」
「まあ、確かにね」
留学生達の態度がなぜ悪くなったのかは知らないけど、その意識を改革するのは容易ではないだろう。
確かに、私は王都ではそれなりに有名人だし、魔法の実力で言うなら、右に出る者はいないと自負しているけど、それだけで果たして言うことを聞いてくれるだろうか。
「でも、学園長にはお世話になったし、受けないわけにはいかないかな」
果たして、私が役に立てるかはわからないけど、学園長が自らお願いしているのだから、断るのはちょっと憚られる。
学園長のおかげで、私の学園生活は安定していたと言ってもいいからね。
恩を返すためにも、ここは引き受けるべきだろう。
そんなことを考えながら、ひとまず詳しい話を聞こうと、学園に向かうことにした。
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