幕間:興味深い精霊
雪山の神様の視点です。
人とは、信仰する者である。
果てしない欲望の果て、富を求め、権力を求め、支配を求める、愚かな種族。
しかし、その欲望があるからこそ、我らは存在し続けることができる。
信仰失くして神は存在できない。それが、世界の理である。
だが、どうやらこの世界では、その信仰の得かたが違うようだ。
基本的に、我々は恐怖で人を支配する。
根源的な恐怖を持っているからこそ、人々は未知の存在を信仰しうる。
人が狂気に陥れば、他に何も目に入らない、熱心な信徒を生み出すこともできるし、何より、思考を強制することができる。
最初から意図してこうなったわけではないが、それが最も効率が良く、信仰を集める方法だった。
しかし、この世界はどうやら、信仰を人々の意思に任せているようである。
人々と交流し、友好を深め、その見返りとして信仰してもらう。
友好を深めるのに時間がかかる上、人によっては別の神を信仰することもあるだろうに、わざわざそんな非効率的なやり方をするのは、あまり理解できないが、世界が変われば常識も変わる。そういう世界があっても不思議はないだろう。
だからこそ、我がこの世界で力をつけるのも、たやすいと考えていた。
なにせ、ライバルがいないのだから。
この世界であれば、再び世界を支配することも可能かもしれない。
そう思っていたのだが。
『まさか、精霊に止められるとは』
我がこの世界に来たのは、クイーンの差し金だった。他にもクイーンに敵意を持つ者はいるだろうし、それぞれが信仰を集め、仕返ししようと考えるのは何も間違っていない。
しかし、それを止める者がいた。それが、竜の精霊である。
彼女は、我の領域に侵入し、信徒を奪おうと画策していた。
信徒を奪おうなど、本来なら許されることではない。しかし、言い分を聞いてみれば、確かにこちらが悪かったと言わざるを得なかった。
我々は、クイーンのような外なる神と敵対している。奴らは、宇宙の果てからやってきた邪神であり、我らの領域を脅かすものだった。
当然ながら、領域を侵されれば、いい気持ちはしない。しかし、それは相手が外なる神だからであって、我々は対象外だと思っていた。
しかし、彼女からすれば、我々もまた、外なる神と同じような存在だということがわかった。
自分がされて嫌なことを、自分がやってはいけない。少なくとも、その気持ちがわかったから、我はそれ以上信仰を集めるのをやめた。
幸い、すでにそれなりの信仰は集まっていた。これだけあれば、この地を維持し続けることくらいはたやすいだろう。
我が眷属も、この土地なら暮らしやすく、外に出られないのも特に問題にはならない。
まあ、彼女がクイーンを倒せるとは思わないが、余興くらいにはなるだろう。
『現状、協力しそうなのは、誰か』
クイーンに連れてこられたのは、我だけではない。他にも、多くの神が巻き込まれている。
詳しい居場所や正確に誰が連れてこられているかは知らないが、考えは皆同じことだろう。
特にクイーンと敵対しそうなのは……炎の姫か。
あいつは元からクイーンのことを目の敵にしていて、いつも競い合っていた。
クイーンからの呼び出しに答えるかは知らないが、召喚はほぼ強制的なもの。相手が嫌いな奴でも、呼び出されれば行くしかない。
まあ、クイーンと敵対しているからと言って、彼女に協力してくれるかどうかは知らないが。
まだ可能性がありそうなのは、海底都市の主か。
奴は寝坊助だが、配下の社会性が高い。もし、そのうちの誰かを助けるようなことがあれば、褒美として力を貸すこともあるだろう。
他に思いつくのは、納骨堂や狂気の鏡、それに思考結晶辺りか。
いずれも一筋縄ではいかないだろうが、うまくすれば力を貸すかもしれない。
どういう判断を下すのか、今から見ものだ。
『逆に敵は誰か』
クイーンが敵なのは間違いないが、クイーンの勢力も同じく連れてこられているはず。
恐らく、豊穣の神は連れてこられているだろう。
あいつは割とどこにでも現れるからな。どうせ、その乳を使って眷属を増やしていることだろう。
まあ、もしかしたらあいつもクイーンの姿のうちの一つかもしれないから、全員クイーンという可能性もなくはないが。
その方が逆に楽か? 考えることは少ない方がいい。敵が一つなら、やるべきことは減る。
『こんなところか。今のところは、クイーン優勢と言ったところか』
仮に、我々が力を貸したとしても、クイーンをすべて駆逐するのは難しい。
千変と言われるだけあって、潰したと思っても、どこからともなくやってくるからな。
それに、今の彼女の実力では、到底勝ち目はない。
あの時の、本気の姿に、あのアーティファクトはそれなりに力を持っていたが、それでも人の道を多少外れた程度。人の中ではとびっきりの魔術師だとしても、それだけでは神には及ばない。
勝つためには、何か一つ、きっかけが必要となるだろう。
そのきっかけが訪れるのが、クイーンと戦う前なのか、後なのか、それはわからないが、そのタイミングによって、今後の勝敗は左右されるはずである。
彼女は、どのようなドラマを見せてくれるか?
『もし、彼女がクイーンに勝つようなことがあれば、その時は我らの仲間として迎えてもいいかもしれないな』
我らの目的は、外なる神を駆逐し、世界の支配を取り戻すこと。
人の信仰失くして神は存在できないと言ったが、それを超越し、世界に君臨することこそ、我らの悲願である。
そのために、クイーンは最大の障壁だ。もし、クイーンがいなくなってくれるなら、これほど嬉しいことはない。
まあ、彼女は我らと違って優しすぎるようだから、少々馬は合わないかもしれないが、やりようはいくらでもある。
特に、彼女は我の狂気の一部を持ち帰った。
今は何の効力もない、ただの置物だが、いずれ心境の変化が訪れれば、それは武器となりうる。
狂気に飲まれるか否か、彼女はどちらかな?
『まあ、楽しみは取っておこう。今は、この地を安定させることだ』
結界で覆いはしたが、信仰を集めるのを優先していたおかげもあって、あまり整備は進んでいない。
別に、今のままでも死にはしないが、眷属達にはよりよい環境で過ごしてほしいと思っている。
さて、何から始めるべきか。
そんなことを考えながら、雪山を見下ろしていた。
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