第二百六十九話:利害の一致
とにかく、利害関係は一致している。
私達の敵は、共通してクイーンであり、そのためならば協力もできるだろう。
ただ、仮に協力関係を築けたとしても、これから先どうするかって言う問題はある。
話を聞く限り、こいつの眷属である人間もどきは、この山でしか生息できないらしい。
正確には、とても寒い地域が適正環境であり、それ以外の場所では生きるのが難しいとのことだった。
凍てつく荒野の精霊というのは名ばかりではないらしい。
なので、クイーンを倒すまでの間は、この山にいてもらう必要がある。
この山は、氷竜のテリトリーではあるけど、事情を話せば、多少であれば場所を明け渡すこともできるだろう。
ただ問題は、信仰のことである。
現状、こいつは近くの町の人達を攫ったりして、無理矢理自分を崇めさせようとしているようだけど、その理由は、力を蓄えるためだった。
その人達に、召喚の呪文を逆に唱えてもらって、帰るって言う手もあるけれど、眷属達と一緒に帰れるかわからない以上、まずは元凶であるクイーンを倒す必要があった。
神様にとっての信仰は、そのまま力となるようなので、信仰される人が多ければ多いほど力は増していく。
そうして強くなって、クイーンを倒す算段だったようだ。
今の状況では、クイーンを倒すどころか、帰ることもままならないので、少しずつ信仰を広げていくのが先決だと考え、多少無理矢理にでも連れてきているようだけど、多分、ポクランの町の人達を全員連れてきても無理なんじゃないかなと思う。
それに、信仰が広がるってことは、それだけ外部の神様の力が増し、この世界の神様の力が弱まるってことだから、あんまり信仰を広げてほしくはない。
だから、できればクイーンはこちらに任せて、大人しくしておいて欲しいというのが本音だった。
『お前はクイーンを倒すことができると思っているのか?』
〈クイーンについてよく知らないので何とも言えませんけど、負けるつもりはありません〉
『言っては悪いが、今のお前では到底勝てないと思うぞ』
こいつが言うには、クイーンは多くの姿を持っているらしい。
あの赤いドレスを着た姿も、そんな姿のうちの一つらしく、仮にあいつを倒せたとしても、また別の姿で復活する、という形になるようだ。
すべての姿を見たことがある人物はいないらしく、こいつも数ある姿のうち、クイーンと呼ばれる個体を見ただけであって、他の姿は知らないらしい。
いくつ姿があるかは知らないけど、めちゃくちゃ厄介な性質持ってるね。
〈ですが、ここで信仰を広げられるのは困ります。あなたも神様なら、世界の掟くらいは知っているのでは?〉
『掟は知らないが、他の神からいい顔をされないのはわかる。我も、外なる神に住処を奪われたら怒るだろう』
〈なら、大人しくしておいて欲しいって言うのはわかりますよね?〉
『理解はできる。だが、お前だけでは勝てないのも事実だ』
別世界の神様に居場所を取られる辛さは知っているのか、この世界の神様にとって迷惑だということは承知しているようだ。
ただ、こいつの言っていることも事実で、私一人で勝てるとは到底思えない。
こいつでさえ、全く歯が立っていないのだから、こいつより強いであろうクイーンに勝てるわけがない。
何か明確な弱点でもあれば別だけど、そういうわけでもないだろうし、なかなか難しいところである。
神界の神様達に協力してもらったら勝てないだろうか? 私はまだまだ新米の神様だけど、本物の神様なら、対抗はできるだろうし。
でも、地上に降りられる神様は数が少ないし、対抗するにはちょっと心もとないか。
もちろん、協力してくれるんだったら協力してほしいけど、それでも勝てるかはわからないよね。
〈勝てるかはわかりませんけど、ただでやられるつもりもありません。少なくとも、この世界から出て行ってもらうまでは、戦い続けますよ〉
『面白い娘だ。そこまで言うなら、我はこの場を動かん。お前がクイーンを立ち会うのを、遠くから見物させてもらうとしよう』
とりあえず、こいつはこれ以上信仰を広げるつもりはないようだ。
ひとまずの問題は解決したかな?
転生者達も、ルーシーさん達に助け出されたことだろうし、氷竜の服従も解けているから、後はポクランの町を元通りにすれば、今回の任務は完了でいいだろう。
そう言えば、ポクランの町が氷漬けだったのって、なんでだろう?
凍り方からして、あれをやったのは氷竜だと思うんだけど、こいつの言い分を聞く限り、人を連れてくるように頼んでいたはず。
それなのに、わざわざ凍らせたのは何でだろうか。
ちょっと気になるけど、こいつもよくわかってないみたいだし、氷竜も覚えてないっぽいから、真相は謎のままだね。
〈あ、エル達を助けないと!〉
すっかり戦意も喪失してしまったので、瓦礫に埋もれてしまったエル達を救出することにする。
急いで掘り出したが、結界でガチガチに固めていたので、二人とも傷一つついていなかった。
未だに気絶したままだけど、ひとまず安心である。
『眷属達には下がるように命じておいた。殺しても死なんが、さっきからやって来てるそちらの奉仕種族にも攻撃しないように命じてくれ』
〈わかりました。そちらがこれ以上動かないのなら、こちらも戦う意思はありません〉
最終的にこの世界からいなくならないなら、その時再び敵対するかもしれないが、今は少なくとも利害が一致している。
案外話が分かる奴でよかった。神様とは考え方が全然違うと思っていたけど、似ている部分もあるのかな?
あるいは、私がそういう視点に慣れてきたのか。
あんまりこの姿に慣れたくないんだけど、大丈夫かなぁ。
『ルーシーさん、聞こえますか?』
『もちろんです。今、援軍が来たところですので、殲滅を開始します』
『あ、えっと、それは待ってもらえますか? 一応、話がついたので』
『どういうことですか?』
私は、事の顛末をルーシーさんに話す。
通信魔法越しでは、相手の表情はわからないけど、多分、驚きと困惑で満ちているんだろうな。声色から、そんな予想ができた。
『……確かに、退いて行ってますね。不法侵入した神と話をつけるとは、流石ハク様です』
『たまたま利害が一致しただけですよ。それより、情報共有しておきますね』
私は、こいつから聞いたクイーンの情報を一通り話す。
今までは、全く謎の相手だったけど、今回でそれなりに情報が得られたのはかなりのプラスだ。
あとどれくらい入り込んだ神様がいるのかはわからないけど、この調子なら、いずれ追い詰めることもできるかもしれないね。
転生者達は、氷竜やシンシアさんも含めて全員無事。敵も戦意を失くして、ひとまず安全に帰ることは可能となった。
天使達まで巻き込んで、かなり大掛かりにはなったけど、最終的には神様を味方にできたんだし、悪いことばかりでもなかったかな。
そんなことを考えながら、ほっと一息つくのだった。
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