第二百六十八話:共通の敵
『話し合いは済んだか?』
通信している間、全く攻撃してこなかったが、どうやら通信しているのを把握されていたらしい。
まともに戦いたいってことなんだろうか。それとも、そんな不意打ちしなくても余裕で勝てると思っているのか。
まあ、実際こちらの攻撃は通らないわけだし、余裕なのは確かだろうが。
というか、こいつは戦いたいというよりも、私のことをただの興味の対象としか見ていない気がする。
道具としか見ていない人の中でも、ちょっと面白い能力を持った奴がいたから、観察してみようとか、そんな感じの印象だ。
恐怖は感じるけど、殺気はそこまで感じないし、殺すつもりもないのかもしれない。
まあ、利害が一致しないのは確かだから、眷属化とか服従状態にしてやろうとは考えているかもしれないけど。
〈あなたは、なんでこの世界に来たんですか?〉
とにかく、いい方法が思いつくまで、少し時間を稼がなくてはならない。
相手がそこまで殺意がないのなら、話をして少しでも情報を引き出すべきだろう。
『元々、この世界に来る予定はなかった。我は、無理矢理連れてこられたにすぎない』
〈無理矢理連れてこられた……?〉
こんな強い奴を、無理矢理連れてこられる奴がいるのか?
まあ、この世界での創造神様のような上位の神様ならありえるのかな。
だとしても、なぜこの世界に連れてきたのかはわからないけど。
〈誰に連れてこられたんですか?〉
『クイーンと言えばわかるか?』
〈やっぱり、あいつが関わっているんですね……〉
となると、クイーンって相当強そうだね。
あの時、戦わなかったのは正解だったかもしれない。
複数人いるような言い方をしていたし、恐らくこいつのように無理矢理連れてこられた神様はたくさんいそうだね。
〈目的は何なんですか?〉
『特にはない。ただ、我とて無理矢理連れてこられて黙っているわけにもいかん。奴を殺すためにも、力を蓄える必要があった』
〈それが、この山で人攫いってことですか?〉
『人攫いはしていないが、信仰を集めていたのは確かだ』
つまり、こいつにとってもクイーンは敵ってことか。
あれ、それならこちらと利害は一致するのでは?
私達も、クイーンのことは警戒していた。無断でこの世界に侵入した神様として、排除しなければならないと思っていた。
こいつがクイーンと敵対してくれるなら、ワンチャン仲間になってくれる可能性もあるだろう。
敵の敵は味方って奴だね。
まあ、問題は、言うこと聞いてくれなさそうってことだけど。
〈もし、クイーンを倒せたら、その時はどうするんですか?〉
『この地に根を下ろし、この凍土を守っていくつもりだ。我が眷属にも、居場所が必要だからな』
〈出ていく気はないんですね……〉
無理矢理連れてこられたって言うなら、復讐したらさっさと帰ればいいのに。
それとも、以前に考察した通り、こいつがいた世界はすでに滅んでいて、帰るに帰れないって状況なんだろうか?
いや、でもそれだと、クイーンは滅びゆく世界から神様を助け出した救世主ってことになってしまうよね。
うーん、元の世界があるかは知らないけど、この地に留まり続けるのはやっぱりいただけないなぁ。
『お前はクイーンを知っているようだが、お前もどこからか連れてこられたのか?』
〈私はこの世界の住人ですよ。クイーンとは、ちょっとした縁ですけど、この世界に無断で入り込んだ神様を放っておくわけには行きません〉
『なるほど、外なる神は排除すべきだが、お前からしたら、我も外なる神ということか』
〈何を当たり前のことを言ってるんですか〉
無断で侵入したら、持ち主に怒られるのは当たり前のことだろう。
まあ、こいつも無理矢理連れてこられたって形だから、悪気はなかったのかもしれないけど、それでもがっつりこの世界に居つこうとしているのだから、自分の意思で来ようがそうでなかろうが変わりはない。
『ようやく合点がいった。お前は、外なる神がこの地に居つくことを許容できないのだな』
〈そうですよ。わかったなら出て行ってくれますか?〉
『そういうことなら、考えなくもない。ただ、どちらにしろ、今は無理だ』
〈どういうことですか?〉
なんか、案外話が通じそうな気がしてきたから詳しく聞いてみると、どうやら、こいつはこの世界に、召喚される形で連れてこられたようだ。
元々、こいつが住んでいた世界の神々は、人々に召喚される形で呼び出されることが多くあり、それ故にコロコロと場所を変えることがよくあったらしい。
もちろん、そんな頻繁に呼び出されることはないけれど、時たま呼ばれるのはちょっとした観光に近い感覚らしく、観光先で新しい信仰を築いたり、居心地のいい場所を作ることは、よくあることなんだという。
だが、一度呼び出されてしまうと、自分の力で帰ることは難しいようだ。基本的には、召喚する時の呪文を逆に詠唱すると帰れるらしいのだけど、それには人の力が必要で、さらに多くの魔力を必要とするらしく、それが整わない限りは、その場所から去りたくても去れない状況になるらしい。
普通なら、呼び出された後、信徒からの願いを聞いたり、褒美を与えたりした後、その信徒が帰してくれるらしいのだけど、今回呼び出したのが、寄りにも寄ってクイーンであり、クイーンは呼び出すだけ呼び出して帰す気がないという適当さだったようで、このままではいつまで経っても帰れない。
だから、帰るためにも、また、クイーンに復讐するためにも、力を貯める必要があり、そのためには信仰が必要で、人が必要となる。
だからこそ、こうしてここで力を蓄えていたようだった。
〈つまり、呪文を唱える人と、十分な魔力があれば、帰れるってことですね?〉
『そうなる。だが、クイーンに仕返しをせずに帰るのは癪だし、今回は我が眷属達も一緒に連れてこられてしまった。奴らを置いて、一人で帰るわけにもいかん』
〈案外、苦労してるんですね……〉
呪文と魔力があるだけで帰れるんだったら、私が帰してあげられるかもと思ったけれど、事態はそんなに甘くはないらしい。
この山に大量にいる人間もどきはこいつの眷属らしくて、そいつらも一緒に帰すとなると、一人の信仰では無理があるのだとか。
多分、魔力の量だけなら、私だけでも行けるけど、一人が捧げることができる魔力には限りがあり、それ故に十分な魔力を貯めるためには複数人の協力が必要となるわけだ。
簡単に言えば、あの人間もどきと同等くらいの数が必要になるらしい。
洞窟から脱出する際に見ただけでも、相当な数がいた気がするんだけど、あれと同じだけ人を用意しろって、無理では?
仮に用意できたとしても、クイーンに仕返ししないと気が済まないって感じだし、素直に帰ってくれるかも怪しい。
なんか、案外話はわかりそうな気がしてきたけど、ちょっと大変そうだなぁ。
私は、これはどうするべきかと、考えを巡らせた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




