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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第九章:雪山の恐怖編
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第二百六十七話:真の姿

 そこにあったのは、風の塊だった。

 そのままでは、目に映ることもない、ただの強風だったが、辺りの雪を巻き込んだことによって、かろうじて輪郭が映る。

 それは巨大な人型をしていた。

 今の私は、結構な身長があるが、それを軽々と超えるような巨人。

 辺りに渦巻く風はさらに鋭さを増し、かすかに見える髪はバサバサと揺れ、まるで触手のようにうねっているようにも見える。

 まさか、この姿になって、相手を見上げることになるとは思いもしなかった。


〈わぁぁあああ!?〉


「あぁあああああ!」


〈え、ふ、二人とも!?〉


 その姿を視認したからなのか、エルも、姿を消していたアリアも奇声を上げて暴れ始めた。

 エルは闇雲に氷魔法を放ち、アリアは私に向かって攻撃を仕掛けてくる。

 明らかに錯乱している様子に、こいつがいかにやばい存在なのかを理解した。


〈と、とにかく落ち着いて!〉


 私はとっさに、二人に鎮静魔法をかける。すると、その瞬間に二人とも気を失ってしまった。

 どうやら、心が耐えきれなかったらしい。しばらくしたら起きるとは思うけど、これはまずい。


『耐えたか。やはりお前は面白い』


 風に紛れた巨人は、視認しづらい顔で笑みを浮かべる。

 とにかく、こいつを倒さない限り、二人を介抱することもできない。

 明らかに物理攻撃が通らなそうな見た目をしているけど、それでもやるしかない。


『精霊でもあると言ったな。我の配下とならんか?』


〈お断り、ですよ!〉


 私は神剣を振るう。

 先程までは、しっかりと全部受け止めていたが、やはりというか、神剣の攻撃は見事にすり抜け、その後ろにある洞窟の壁を切り裂いてしまった。

 その瞬間、洞窟が崩壊し始める。

 まずい、エルとアリアは動ける状況じゃないし、守らないと!


〈間に合って!〉


 とっさに結界を張り、二人を守ろうとする。

 その瞬間、崩れてきた瓦礫が二人を埋めてしまい、安否不明となってしまったが、今の私の張る結界なら、少なくとも潰されてはいないはず。

 安否を確認したいけど、こいつを放置しておくわけにもいかない。

 速攻で倒して、速攻で探す。それしか道はなかった。


『その剣はアーティファクトの類か。今までどれだけ深淵に触れてきた?』


〈知りませんよ!〉


 洞窟が崩れたことによって、奇しくも外に出る羽目になった。

 だが、外ならば、環境破壊を気にする必要はない。

 いや、地面を切り裂いたらやばいけど、相手は基本的に浮いている。

 空に向かって振るう分には、特に問題はないだろう。

 ティターノマキアも張り切っているのか、いつもよりもスムーズに振るうことができている。しかし、それでもあいつの体を切り裂くには至らない。

 そういう体なのか、それとも何かの魔法を使っているのかわからないけど、神剣ですら通さないとなると、もはや打つ手はない。

 どうする。早くしないと、エル達がどうなるかもわからない。


『どれ、試してみるか』


〈ぐっ!?〉


 巨人はそう言って、腕と思われる部分を振るってくる。

 その瞬間、私の体に重い衝撃が走った。それと同時に感じる痛み。

 その場所を見てみると、そこには抉られたような傷がついていた。

 まさか、切り裂かれた? よくわからないけど、あいつの手は鋭い爪のようなものがあるのかもしれない。


『やはり頑丈だ。我の攻撃を受けて生きている人間はそうはいない。いや、人間ではないのだったな』


 なにやら納得したように頷いている巨人。

 しかし、思ったよりも傷が深い。

 この体は、かなりの防御力があるし、傷もすぐに回復するけど、それでも相当態勢を崩された。

 攻撃自体は大振りだけど、あんまり連続で食らうとやばいかもしれない。


『その力、とても惜しい。我の配下として、共にこの地を守って行かないか?』


〈ここは元々あなたの土地じゃありませんよ〉


 しかし、どうするか。

 こちらの攻撃は通らず、相手の攻撃は一撃でもかなりの威力。

 このまま戦闘を続けたところで、勝ち目は薄いような気がする。

 やはり、神様を倒すには、何かしらの条件があるのだろうか?

 ルーシーさんなら、何か知っているかもしれないけど、今はいないし。

 いや、この距離なら通信魔法が届くか。

 今のところ、相手はこちらのことを完全に下に見ていて、遊んでいるような状態。通信魔法をするくらいの隙はあるだろう。

 ヒントを得るためにも、ここは賭けてみるか。


『ルーシーさん、聞こえますか!?』


『その声は、ハク様ですね。もちろん聞こえております』


 一応警戒を怠らないようにしながら、通信魔法を使うと、すぐに返事が返ってきた。

 あちらの状況を聞いてみたが、どうやら転生者達の救出自体はできたようである。

 ただ、あの人間もどきがうじゃうじゃといるせいで脱出するのが難しく、洞窟内で立てこもっている状況なのだという。

 援軍が来れば、それらに対処を任せて、結界を破って脱出することも可能だが、それにはもう少しだけ時間がかかるとのこと。

 とりあえず、みんなが無事ならそれでよかった。


『それで、神様の弱点とかわかりませんか?』


『神はそれぞれ司るものによって、得意不得意がありますが、弱点と呼べるようなものは基本的にはありません。火を司る神だからと言って、水が苦手ということもないです』


『それじゃあ、正々堂々、力で倒すしかないと?』


『そうなります。ですが、その神に関しては、もしかしたら弱点があるかもしれません』


 そう言って、ルーシーさんが挙げたのは、洞窟にあった祭壇に置いてある石板だった。

 ルーシーさんの目から見て、あの石板は、相当な神力が込められているらしい。

 この世界では、すでに地上に神様はいないけれど、それでも信仰が途絶えたわけではない。

 人々は、身近にいなくなった神様の代わりに、御神体を崇めることによって、信仰を続けていたようだ。

 そうして、信仰された御神体には神力が溜まりやすく、それを通して本体である神様に力が注がれる、という仕組みらしい。

 この石板は、そんな御神体とかなり似た性質を持っているようだ。

 御神体の神力は、神様の力の源でもある。つまり、これを破壊してしまえば、あいつの力も削がれるのではないかということだった。


『なら、それを壊せませんか?』


『先程から、壊そうとはしていますが、何か不思議な力に守られているらしく、全く歯が立ちません』


 どうやら、神力による攻撃を弾いているらしく、ルーシーさんの攻撃をもってしても、破壊するのは困難のようである。

 ルーシーさんで破壊できないなら、私でも多分無理だろうか。

 いや、もしかしたら神様もどきの力で壊せるかもしれないけど、流石にここに持ってきてもらうのは無理がある。

 もし本当に弱点だとしたら、あいつが見逃すわけないしね。

 弱点っぽいものがあったのは嬉しい報告だけど、それを破壊する手段がないとなると、あまり状況は変わらない。

 私はどうしたものかと、考えを巡らせた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 難しいですねぇ
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