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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第九章:雪山の恐怖編
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第二百六十五話:対峙するもの

 空を飛んで行っても、特に妨害されるようなことはなかった。

 あるとしたら、頂上に近づくにつれて、だんだんと雪が激しくなっていったくらいだろうか。

 これは、もしかしたら元々こういう天候なのかもしれないね。

 吹雪に関しては、エルは意に介さないし、ルーシーさんも同様。なので、特に苦労することもなく、元の場所に戻ってくることができた。


「みんなは、いないみたいだね……」


 洞窟の入り口は、雪で塞がっていたが、その一部が、えぐり取られるようにしてなくなっていた。

 中に入っても、誰もいない。どうやら、みんな連れていかれてしまったようだ。

 探知魔法が役に立たないからよくわからないけど、恐らくは、あの祭壇があった洞窟に連れていかれたんじゃないだろうか。


「ちょっと遅かったか……」


 一応、何か手掛かりがないか辺りを確認してみる。

 一部、真新しい傷跡があったから、恐らく戦闘があったんだろう。

 血の跡は見られないけど、この雪だし、普通に埋もれてしまった可能性もあるから何とも言えない。


「ルーシーさん、ちょっと下に行ったところに、別の洞窟があるんですけど、恐らくみんなそこにいるかと」


「なるほど。では、私は先にそちらに向かいましょう。この気配、どうやら近くにいるようですから、お気をつけて」


「は、はい」


 そう言って、姿を消すルーシーさん。

 私は全く探知できていないんだけど、本当に近くにいるんだろうか。

 とっさに辺りを見回してみても、特にそれらしい場所は見当たらず、ただただ困惑するばかりである。

 とにかく、この洞窟内では戦うにしても不利だし、一度外に出よう。

 そう思って、外に出ようとした、その時だった。


「ッ!?」


 突如響く雷の音。

 さきほどまで、なんの気配もなかったのに、唐突に感じる圧倒的な威圧感。

 恐る恐る振り返ってみれば、そこにはあの時の鹿の角を生やした赤髪の男が立っていた。


『来たか』


 その声は、威圧感に似合わず、とても穏やかな声だった。

 まるで、私達のことを歓迎しているかのような錯覚に陥る。

 けれど、それだけは決してない。私は、こいつにとって敵なのだから。


〈何者だ!〉


 エルが臆さずに声を上げる。

 私の時は、見た瞬間に体が動かなくなったけど、エルはどうやらそんなことはないらしい。

 流石、エルは色々と場数が違うね。

 男は、ゆっくりと私とエル、そして見えないはずのアリアの方に視線を向けた後、両手を広げて穏やかな声で続けた。


『我は神なり。我が手にすべてを委ねよ』


「……お断りです」


 一瞬、自然と頷きそうになってしまったが、何とか理性を保って言い返す。

 こいつの言葉は、一言一言が重い。まるで、言葉の一つ一つに意思が宿っているかのように、心にまとわりついてくる。

 あまり声に耳を傾けない方がいいかもしれない。どちらにしろ、こいつは倒さなくてはならないのだから。


『なぜだ。人は神を崇めるものだろう?』


「誰を崇めるかは自分で決めます。強制されるいわれはありません」


『これでもか?』


 そう言った瞬間、体がぐっと重くなったような気がした。

 セシルさんに重力魔法をかけられた時に似ている気がするが、これはどちらかというと、プレッシャーの類だと思う。

 体が動かしにくくなると同時に、心の中に恐怖が広がっていく。

 これは、まずいかもしれない……。


〈あ、あ……〉


 エルがじりじりと後ずさっている、

 恐らく、このプレッシャーに当てられて、恐怖しているんだろう。

 私はとっさに鎮静魔法で心を落ち着かせる。

 大丈夫、プレッシャーをかけられたくらいじゃ動じない。


『なぜ抗う?』


「この世界では、そういうやり方は好まれないんですよ」


『人は神を崇める者。そこに何の違いがあるというのだ?』


「恐怖で人を支配しておいて、それで崇める者も何もないでしょう。人の信仰は、その人自身が決めるものです」


『ふむ』


 男は、腕を組んで手を顎に当て、何か考えるような仕草をしている。

 元々、神様は人とは考え方が違うとは思っていたけど、本当にその通りだと思う。

 こいつにとって、人はただ自分を崇める存在であって、そこに人の意思は関係ないんだろう。

 信仰されることによって、何を得るのかはわからないが、それを満たすための道具とか、そのように考えているのかもしれない。

 わかっていたことだけど、話し合いは無理そうだな。


『では、お前は何を崇める?』


「私は何も崇めませんよ。少なくとも、あなたは」


『なぜだ。信仰無き者ならば、我を信仰すべきだ』


「そういうのは、こちらの要望を一つでも聞いてからにしてもらいたいですね」


『見返りが欲しいか? くれてやってもいいが、何が欲しい?』


「私が求めるのはただ一つ、この世界から立ち去ってください」


 そう言って、精一杯睨みつける。

 相変わらず、男は理解できないと言った様子で考え込んでいる。

 そんなにこちらの世界のことをわかっていないのなら、なんで来たんだと言いたい。

 それとも、この男が住む世界は、すでに滅んでいて、仕方なくこの世界に来たとか?

 いや、そうだとしても、この世界の神様に助けを求めればいいだけの話であって、勝手に信仰を広めることはダメだろう。

 すでに、一部ではあるけど、被害も出てしまっている。少なくとも、この世界の神様にとって、こいつは害でしかない。


『それはできぬ。この地はすでに、凍てつく荒野の精霊のものだ』


「先住民に竜がいたはずですが?」


『奴は我が配下となった。故にこの地は我のものである』


 服従状態とか言うので無理矢理従わせていたくせによく言う。

 しかし、精霊なのか、あれ。どう見ても人間に見えるんだけど。

 いや、確かに精霊も、人型ではあるけど、あんな獰猛な感じじゃない。

 世界によって、精霊の在り方も変わっているのかもしれないね。


「それならば、私がこの地の所有権を主張します。私はあの竜の上司に当たる者ですから」


『ならば譲るが良い。褒美は用意する』


「そんなものいりませんよ。とにかく、出て行ってください。この世界は、あなたのような神が来るところじゃありません」


『なぜ、頑なに我を嫌う? お前にとって、人とは何ぞや?』


「今世界に生きる、この世界を存続させ続けるために必要な大事な生命ですよ」


 まあ、人である私が言えたことではないかもしれないけど、私が神様なら、恐らくこういう答え方をするだろう。

 人がいなければ世界は存続できない。時折神様の意思が入り込むことはあっても、基本的には人が自分で考えて、自分で未来を切り開いていかなければならない。

 この世界の神様だって、昔は人族と盛んに交流していた。

 それによって、戦争が起こってしまったことは残念だけど、私はそのやり方を間違いだとは思わない。

 こいつのように、人を道具のように考えている奴とは違う。


『納得はできぬが、理解はした。人族を我に奪われることを、お前は良しとしないのだな』


「当たり前です」


『ならば、我らの利害は反発する。我は、お前を排除しなくてはならなくなった』


「望むところですよ」


 やはりというか、こうなってしまった。

 まあ、話せていた方ではあるけど、あちらも退けない理由があるなら、戦うのは致し方ない。

 さて、神様に勝てるかはわからないけど、精いっぱい戦ってみよう。

 私は、一度深呼吸をした後、構えた。

 感想ありがとうございます。

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なんで、龍神モードにならないの?
[一言] 流石に引いてはくれないかぁ
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