第百話:魔石の変換
ついに百話に到達。
まず、照明に使われている光の魔石を見てみる。大きさ自体はそこまで大きなものではないが、部屋全体を照らせるだけの十分な光量を持っている。
大きさ自体はあまり関係なく、それぞれの役割の魔法が発動しているのだろう。恐らく、魔石の大きさに応じて魔力の内包量は違うだろうから小さいほど消費は早そうだけど。
見た感じ、特に何か処理が施されているというわけではなさそう。いや、綺麗に見えるように角をカットされていたりとかはするけど、基本的には原石そのままのように見える。
その他の違いは色だ。光の魔石にふさわしく、白色に輝いている。
あくまで見える範囲でという注釈が付くけれど、特に特別な加工をしているようには思えない。だとしたら、どのようにしてこの光の魔石は作られたのか。
単純に考えれば、始めからそれぞれの属性を持っている魔石だったと考えるべきだろう。
手持ちの魔石を見てみる。結晶質で深い黒色をしている。いうなればこれは闇の魔石とでも言うべきだろうか。恐らく、倒した魔物の属性が闇だったために魔石もそれに染まったのではないかと思われる。
つまり、火の魔石や水の魔石というのはその属性を持った魔物を倒すことによって得られた物であり、特別な加工をしているわけではない、ということだろう。
確かにそれもあるかもしれない。だが、それだけではないと思う。
試しに手にした魔石に魔力を通してみる。すると、仄かに発光し、闇色のオーラが魔石を覆っていった。
これは闇の魔石としての効果だろう。光の魔石が光を生み出すなら闇の魔石は闇を生み出すというわけだ。正直使いどころはよくわからないけど。
さらにしばらく魔力を流してみると、徐々に色が変化していった。黒色だったものが徐々に透明になっていき、それに合わせて青色が強くなっていく。しばらく魔力を流していると、ついに黒色は完全に消え、真っ青な魔石になってしまった。
このように、魔石に魔力を流すことによって魔石の色は変えることが出来る。試しに発動を促してみれば、青くなった魔石からは水が出てきた。完全に水の魔石となっている。
特に意識したわけではないが、水の魔石になったのは私が最も得意とする魔法が水魔法だからだろう。
おおむね予想通りの反応にひとまず息を吐く。
自然に取れる魔石と魔力によって変質させた魔石。一見、自然に取れる魔石の方が余計な手間もかからず便利なように思える。だけど、魔力によって変質できるということはこういった使い方もできるはずだ。
私は水の魔石に変化させた魔石に今度は意識して火属性の魔力を流してみる。魔石が反応し、仄かに発光して水が放出される。その後、徐々に色が抜けて行き、今度は赤色に変化していった。
先程は完全に変化するまで放置していたが、今度は途中で魔力を込めるのをやめてみる。すると、赤色と青色が混ざったような魔石が出来上がった。
少し時間を置き、軽く魔力を流してやると水が出てくる。しかし、先程までの魔石と違って出てくるのは温水だ。つまり、水の魔石の力によって生み出される水が火の魔石の力によって温められている。異なる属性の融合だ。
これが変質させた魔石の長所と言えるだろう。自然にこうした複数の属性を持つ魔石はなかなか取れないだろうし、あったとしても都合よく欲しいものが手に入るとも思えないしね。
恐らく、お風呂に用いられているのはこの混合魔石なのではないだろうか。他にも色々ありそうでちょっと面白い。
ただ、この作業は結構魔力を使うようだ。たった二回ではあるけれど、結構な魔力を吸い取られてしまった。まだいけると言えば行けるけど、あんまりやらない方がいいかなぁ。
「ハクは相変わらず凄いね」
「えっ? んっ……」
不意に隣で見ていたお姉ちゃんが私の頭を撫でてきた。
気持ちいいけど、いきなりなんで?
「確か、魔石の変換は抽出と注入っていう工程を経て初めてできるって聞いたことがあるけど、それをあんなに簡単にやっちゃうんだもの」
抽出と注入? よくわからないけど、私はただ単に魔力を流していただけだ。
別に魔力を流したからと言って必ず変化するとは思ってなかったし、出来たらいいな程度だったんだけど、これは思ったよりも凄いことらしい。
職人さんとかはどうやっているんだろう。
「ハクは普通の人が気付かないことによく気が付くと思う」
「そうかな。たまたまだと思うけど」
「たまたまでも、その発想力は褒められるべきだと思うよ」
本当に偶然の出来事だったんだけど、お姉ちゃんが褒めてくれるのは悪い気がしない。
優しく撫でてくれるお姉ちゃんの手に縋るように頭を擦り付ける。もっと撫でて欲しい。
私の意図を察したのか、何度も何度も撫でてくれた。
えへへ……。
「ハクは甘えん坊だねー」
いつの間にか姿を現していたアリアが呆れたような目で見てくるのが見える。
でもいいもんね。嬉しいものは嬉しいんだから。
その後は他にも色々な魔石を作ったりして遊んでいた。あんまりやらない方がいいかなとか思いつつ、結局歯止めが効かなくなって色々やってしまったのは少し反省するべきかな。
魔石の特性について色々調べていた翌日。私はいつものようにサクさんの道場へと向かい、剣の稽古に励んだ。
記憶力がいいからか、大体の動きはマスターしている。ただ身体が追い付いていかないだけで。
ほんと、体力がない体が恨めしい。これでもほぼ毎日通ってるんだから少しくらい体力ついてもよくない?
しばらく打ち込みを行い、休憩時間となったのでその場に座り込む。
やっぱり身体強化魔法使わないと戦闘は無理か。
「ハク、お疲れ様ですわ」
「あ、アリシア」
ふと、私の前にやってきたのは美しいプラチナブロンドの髪を後ろに括り、道場着姿となったアリシアだ。
革袋を差し出してくれていたのでありがたく受け取り、水分を補給する。
ふぅ、生き返る……。
「相変わらず体力がないようね」
「うん、頑張ってるつもりではあるんだけどね」
「ハクは魔術師ですもの、あまり気になさらずともよいのでは?」
「まあ、それはそうなんですが」
私が剣術を教わっているのは接近された時の対処の一つとしてであり、別に使えなくても魔術師としては問題ない。ただ、その方が生存率は上がるだろうけど。
実際に使う時は身体強化魔法でブーストするし、動きは覚えているから実戦ならば多少なら対処できるとは思う。一回くらいは実際に試してみたいんだけどね。なかなか機会がない。
アリシアとかミーシャさんあたりに頼めば喜んでやってくれそうではあるけど。今度頼んでみるのもありかな?
「あまり無理しないでくださいな?」
「うん、気遣いありがとうね」
とはいえ、今は疲れた。やるなら道場のない日にお願いするのがいいだろう。
革袋を返し、残りの休憩時間を喋って過ごす。あっという間に休憩時間は過ぎ、後半戦が始まった。
さて、もうひと踏ん張りだ。
感想、誤字報告ありがとうございます。