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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第九章:雪山の恐怖編
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第二百六十三話:強力な結界

 しばらく考えてみて、なんとなく原因がわかった。

 この山には、奇妙な魔力が充満している。この魔力に触れ続けると、だんだんと恐怖に侵されていき、やがて発狂するという、厄介な性質を持っている。

 そして、エルは私と合流するまでの間、ずっと一人だった可能性が高い。

 私の時は、わかりやすくシンシアさんが発狂してくれたから、異変に気付くことができたけど、一人だったなら、異変にも気づけずに、そのまま正気を削られていてもおかしくはない。

 発狂と一口に言っても、色々なものがあるだろう。

 わかりやすく、悲鳴を上げて暴れまわるものもあれば、氷竜のように自傷行為に走るものもある。

 そう考えると、エルの場合は、恐らく幼児退行、あるいは、執着心ってところじゃないだろうか。

 言動はそこまで変じゃないし、執着心かな。私のことを大切にするあまり、私がいないと何もできないって感じなんだと思う。

 まさか、エルがこんな風になってしまうとは意外だが、アリアでさえ、この狂気に侵されていたのだ。無理はないだろう。


「……そうだ! アリア、いる!?」


「いるよ。とっさに服に入り込んでよかったわ」


 そう言って、胸元から顔を出すアリア。

 よかった、雪崩に巻き込まれて、そのままどこか行ってしまったとかなったら、自分を許せなくなるところだった。


「それより、発狂解いてあげたら?」


「あ、うん、そうだね」


 こうして甘えてくれるエルもそれはそれで面白いが、流石に今は緊急事態なので、さっさと正気に戻ってもらおう。

 エルに鎮静魔法をかけると、エルがピクリと動きを止める。

 そして、そっと私の体を放し、小さな声で頭を下げてきた。


〈も、申し訳ありません。感情の制御が効かず……〉


「まあ、うん、仕方ないよ。助けてくれたんだし、気にしないで」


 竜の顔だからよくわからないけど、若干赤くなっているような気がする。

 正気に戻ってくれて何よりだけど、私も人のことは言えなかったんだよね。

 なにせ、あの男を見た時、何もできなかったんだから。

 あの感情は、恐怖以外の何者でもない。理解したくないものを理解してしまった時のような、そんな感覚。

 恐らく、氷竜が言っていた、恐ろしいものというのは、あいつのことだろう。

 雷を操っていたようにも思えたし、あいつが元凶で間違いない。

 しかし、一体何者なんだろうか。

 確かに、私はホラーは苦手な方ではあるけど、あいつの見た目が特別怖かったとか、そういうわけじゃない。

 どちらかというと、内面。本性と言った方がいいかな? それを垣間見てしまって、動揺してしまったんだと思う。

 少なくとも、ただの獣人ではないだろう。角は変わっているけど、悪魔とか?

 いや、悪魔はもう手を出さないと言ってきた。私のことは知っているはずだし、問答無用で攻撃してくることはないはず。

 まあ、所詮は悪魔の言うことだから、絶対ではないし、もしかしたらありえるかもしれないけども。

 でも、個人的には、悪魔ではないと思う。悪魔にしては、やり方がおかしいからね。

 契約を結ぶのではなく、人を攫って仲間にしようとしているみたいだし。

 でも、だとしたら正体がわからない。

 まさか、本当に神様とか? だったら太刀打ちできないんだけど。


「とにかく、みんなを助けに行かないと」


 仮に、雪崩をどうにかできたとしても、あの場にみんなを残してきてしまった以上、あの男の手に落ちたのは確実だろう。

 目的を考えると、殺されることはなさそうだけど、それでも、また眷属化させられたり、服従状態にさせられたりする可能性は十分にある。

 一緒に来てくれた、シンシアさんまで巻き込んでしまったとあっては、神代さんにも顔向けできないし、何としてでも助けなければならない。


「エル、体の方は大丈夫?」


〈体力的には問題ありません。いつでも飛べます〉


「ならよかった。とりあえず、さっきの場所まで戻ろう」


 あの男が出てきた時の対処を考えていないけど、恐らく二度目は大丈夫だと思う。

 もう、あいつが恐怖の象徴であることは理解したし、多少身体がこわばるかもしれないけど、動けなくなるってことはないはず。

 心配なのは、エルの方かな。

 エルがあの男を見ていたかどうかはわからないけど、もし見ていないなら、見た瞬間に恐怖に囚われてしまうかもしれない。

 私の鎮静魔法でどうにかできるならいいんだけど、そうじゃなかったら、結構まずいよね。

 できるだけ、戦わない方向で行った方がいいだろうか。となると、飛ぶのはまずい?

 あの男が、雪崩で私達が死んだと思っているなら、わざわざ姿を現すのは悪手だろう。

 いずれは対峙しなくてはならないのだとしても、あえて真正面から行く必要はない気がする。

 でも、飛ばないとなると、歩きではめちゃくちゃ時間がかかる。

 殺されることはないだろうとは言ったけど、絶対にそうとは言い切れないし、もしかしたら、逃げ出した罰として見せしめにされる可能性も十分にある。

 だったら、できる限り急いだほうがいい。

 どっちを取るべきか……。


「ん? 何か来る?」


「え?」


 と、そんなことを考えていると、不意に空から何かが降ってきた。

 雪に埋もれてしまうかと思いきや、その人物は地面すれすれで落下を止め、空中で静止する。

 その顔をよく見てみると、見覚えのある顔だった。


「よかった、ご無事でしたか!」


「ルーシーさん? どうしてここに……」


 それは、創造神様の配下である天使のルーシーさんである。

 ルーシーさんは、いつもは私のことを見守ってくれているはずなのだけど、こうして現れたということは、緊急の用件があるってことだろう。

 若干息が荒いルーシーさんに、まずは落ち着くように促す。


「……こほん。まずは無事で何よりです。突如、結界に阻まれ、消息不明となっていたので、心配しておりました」


「消息不明って……確かに、結界で阻まれてたらそうなるのか」


 天使は、ある程度の結界なら、透視できるはずだけど、この結界の内側は見破れなかったらしい。

 そう考えると、相当強力な結界だな。ますますあいつの正体がわからない。

 いつも私のことを監視している手前、私の消息が分からなくなるのは相当な事件なようで、他の天使達の力も借りて、大規模な捜索活動が行われていたようである。

 そんなことになっていたとは……ちょっと申し訳ないね。


「この結界ですが、どうやら神の力が加わっているようです。それで、見通せなかったのかと」


「神様の、ですか? ということは、この件は神様が関わっているってことですか?」


「そうです。ただし、この世界の神ではありません。異世界の神です」


 そう言って、真剣な表情を見せるルーシーさん。

 異世界の神、確か、ニグさんの件で、黒き聖水を生み出す泉を調査した時に、そんな奴が現れていたよね。

 確か、クイーンと名乗っていた気がする。

 あいつが関わっているのか……それなら確かに、あの禍々しさも頷ける。

 私は、思ったよりも大物が相手ということに、静かに息を飲んだ。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] でもたぶん普段しっかりしてるエルさんがベッタリくっついて来たのハクさん的にはギャップ萌えだと思うよ? 厄介なことになったなぁ
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